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18-わちゃわちゃっと食事会

イカとハンターライフのダブルバインド


 「どうも、はじめまして。シソさんに魚を買ってもらっていますはんだです」

 「はじめまして、釣りクラン『魚群探知機』の一郎です。こちらのヌカカメさんに魚を買ってもらっています」

 「どーもー!ヌカカメですニャ、ねこさんとはクランハウスで会ってますニャー!料理クラン所属ですニャー!」

 「はじめまして、テクニカルゴリラです。料理クランへは食材の提供と検証への協力をしてもらっています」

 「お久しぶりです、モモです。今はテイマー兼錬金術師として料理クランへ食材なんかの協力をしています」

 「さっきぶりですねーねこさん!豪です。料理クラン所属で主に調味料開発してますー」


 やってきたのは果樹園の中の東屋、始まりの街にあった物よりも大き目で調理場として使える様に流しなんかも設置してある。

 そして顔合わせと言う事で自己紹介という流れになったのだが初めての人からあった事のある人までちょっと人数が多い。


 まず釣りクラン所属だという一郎さん、人族の男性で長い黒髪を後ろで束ねており着流しっぽい感じの和装をしている。印象としては浪人とかそんな感じの人、時代劇とかで出てきたら間違いなく強いタイプの優しい印象を受ける目と表情をしている。

 次に褐色肌に短めの金髪に猫耳、語尾にニャーと色々と濃いヌカカメさん。クランで会った時は遠くにいた上に状況が分からず混乱していたせいかちょっと思い出せていない、でもニャーの語尾は効いた覚えがある。独特の笑みを浮かべておりなんかおもちゃを見つけた猫の様でもある。


 見た目は好青年、細マッチョというのかなんというかガタイはいいのはテクニカルゴリラさん。緑がかった短髪ときりッとした目を顔立ちと口調はまさに好青年。話を聞くと検証班と言ってゲーム内で行える事象の全て検証をしたり情報を集めるクランの人らしい。なぜゴリラ。

 その中で料理に関するデータを料理クランに協力してもらって集めているらしい。ちなみに俺の種族もできれば調べたいとキラキラした目で言われた。

 一応種族と分かっている爪の事を伝える事になり掲示板への書き込みも承諾しておいた、種族の情報は少なくても問題ないらしくそれ以上は言わない方がトラブルが少ないとかなんとか。情報を集める方も大変そうだ。

 

 そして以前森で会ったぶりのモモさん、相変わらずスライムと一緒らしいがスキルリセットというシステムを利用して生産職へ転向したらしい。錬金術をメインに木工など趣味を楽しんでいるそうで料理ギルドへは食器の類を売っているらしい。あと農場で菜園もしてとゲームを満喫しているらしい、楽しそうで何よりだ。

 

 最後の豪さんはお好み焼きモドキを売っていた青年だ、今はシソさんと新メニューのお披露目と言う事で調理担当として参加しているらしい。味覚には自信があるそうで味付けなら任せてほしいとの事。


 「はーい、じゃあ最初は焼きそばです」

 「あれ、これ前に食べさせてもらってませんでした?」


 出されたのは鉄板で熱いままの焼きそば、キャベツにこま肉とエビ、貝柱、イカと具沢山だ。香ばしいソースの焦げる匂いがなんだか縁日や海の家で食べた特別感を思い出させてくれる。具沢山だけど。

 

 「前に作った時はレベルが足りなくて能力補正が弱かったんですよね、今回のはしっかり前線組の人たちにも食べさせても問題ないのですよ」

 「へー……あ、貝柱大きくておいしぃ……んー幸せ」


 シソさんとモモさんが話す傍ら食べ始める、もちもちの麺に具材を集めて頬張る。うん、おいしい。

 焦がしソースは良い物である、ももちもちとした麺と野菜のシャキシャキとした食感。海老とイカも肉に負けないくらいにいい味を出している。

 ソースはお好み焼きモドキと同じだろうか、焼きそばで使うと結構合うなこれ。


 「これは……」

 「ふふふ……よくぞ気が付いてくれました」

 

  ふとテーブルの上の小鉢に用意されていた物が目に付いた。すかさず豪さんがスプーンですくって焼きそばにかけてくれた。

 

 「マヨネーズですか?」

 「そうです!ですがこれは更にカラシを加えたカラシマヨネーズ……焼きそばにはこれしかないでしょう」


 まだ細くかけられる容器を開発できていないためしっかりまぜなければならないのが難点だと言うが完成度はかなり高い。ピリリとしたカラシの刺激とマヨネーズのマイルドさが焼きそばにアクセントを付け加えてくれる。


 「いいですねぇ……」

 「でしょう?」


 豪さんは嬉しそうにカラシの製法やマヨネーズとの割合などを話してくれているが、料理をしないせいかまぁ拘ってるんだなぁ程度に聞いている。

 なんか混ぜる器具から速度と温度とか言っているけどちんぷんかんぷんである。


 「いやぁ、ねこさんの名前がはんださんだったなんて何かの縁を感じますよー」

 「縁……ですか?」


 「あれ?農場に種持ち込んでましたよね?」

 「あー……持って行ってた気がします」


 いつぞや森で見つけた種、農場の人に預けてたけど話の流れ的に何が育ったのか……。


 「もしかして……」

 「このカラシですよ、いやぁ一度生えてくれれば増やせるのっていいですねぇ」

 「なるほど、それで」


 ほとんど忘れていた事であったが周り回ってこうして返ってきた、縁と言っていたがちょっと不思議な感じだ。

 同時に幾人ものプレイヤーがそれぞれに動いているのだからこうした接点は当たり前のようにも思えるが折角なのでちょっとロマンあふれる考え方をする事にしよう。


 「他にもいい品種ができたとかではんださんに渡すお金が結構あるらしいですよー」

 「まじっすか」

 「まじっす」


 思ったよりも少し事態は大きいのかもしれないな……。

 でも纏まったお金が手に入るのならあの収納ポーチとか買えるだろう……よし。買おう、せっかく第二の街まできたけどこの後は始まりの街へ戻るとしよう。


 「あ、そういえば持ってきた魚も焼いちゃいましょう」

 「そうだ、焼きそばが美味しくて忘れてた」


 シソさんに言われて急いで魚を取り出す、マスとナマズだ。

 洗い場の幅にギリギリ入るほどの巨体のナマズに豪さんが「おー」と声を上げる。


 「ナマズ……って泥抜きしなきゃいけないんでしたっけ?」

 「あ、こいつは必要ないみたいですよ」


 「やっぱり持っているスキルで説明も変わるんですね」


 インテリさんとシソさんがなんか専門的な事を話す、おじさん直ぐに話についていけないよ。

 泥抜きはまぁわかる、アサリの砂抜き然り綺麗な水で体内の泥を吐き出させるのだろう。そして俺はそれを知らずに捌いてしまったが今回は大丈夫……だったらしい。

 そして、手早く切り身を量産していくシソさんと勝手に鍋と小麦粉と諸々を用意し始める豪さん。


 「ナマズと言ったら天ぷらですよねぇ、つゆがないので塩になりますが」


 どんどん進む調理の手際に感心しつつも唖然とする、先ほどまで魚の体をなしていた物がバッターをくぐり油へ投入されていくのだ。

 俺以外の見学組は見慣れているのか嬉しそうに眺めている、モモさんに至ってはすこし涎が垂れている。スライムの方もなんか触手のような物が伸びている。

 

 「どんどん食べてくださいねー」


 あがった物を盛り付けられ、塩と思われるミルと一緒に置かれる。海が近いのに岩塩なのか。

 フォークで天ぷらをいただく、サクサクとした衣にほくほくと熱い白身、ちょっと塩よりも天つゆが欲しくなるが十分においしい。魚の味や風味は強くないがそれが天ぷらの衣と一緒に柔らかな味を演出している、そして思っていたよりも臭みもない。


 「川魚っぽい臭みがあると思ってましたけど全くないですねぇ」

 「やっぱり天つゆが欲しいけど材料が見つかってないんだよねぇ……いつかてんぷら祭りとかやってみたいねぇ」

 「その時は材料集めますよ」


 皆手は止めないものの談笑しながら料理の話に花が咲いていく、新しい食材を求めて何処へ行こうとか調味料や食器。屋台だけでなく食堂のような物もやってみたいとか皆それぞれ目標があるようだ。


 「あ、そういえばはんださんの手って肉球ですよね?触ってみてもいいですか!」

 「えっ」


 モモさんからのいきなりの振りに慌ててどうしようかと思案しようにもキラキラとした目にずずいっと寄られてはダメとは言えない。

 というか他の人もちょっと期待したような目で見ないでほしかった。


 「少しだけですよ……」

 「わーい」

 「いいにゃニャー私も触りたいニャー」


 ふにふにといつの間にか全員が触ることになる肉球、おじさんのモテ期であるが如何せんこそばゆい。肉球触られる猫ってこんな気分だったのね、今度から優しくしよう。


 「あのっくすぐったいのでもういいですか……?」

 「満足しました!」

 「私もニャー!」


 最後まで触っていた二人から解放されてちょっとまだ触られているような感覚のある手を握っては離す、今度から肉球の安売りはしない様にしよう。


 「ちょっと貴重な情報ありがとうございました、一応クランの方針でこれを」

 「ああ、別に気にしなくても大丈夫ですよ」

 「例外を作ると面倒なので一応受け取るだけ受け取ってください」


 そう言ってインテリさんに渡されたのはマジックポーションと普通のポーションの詰め合わせ、なんでも情報の対価だそうだが基本的に情報は提供者からのボランティアに近い物が多いのでそのちょっとしたお返しという事らしい。

 まぁこれなら実用的だしありがたい。


 「じゃあ今日はこの辺でお開きにしましょうか」

 「お疲れ様でしたー」

 「お疲れ様でした」

 「乙ニャー」

 「お疲れ様でした!」

 「お疲れ様でした、色々情報ありがとうございました」

 「お疲れ様でした」


 食器も片づけそれぞれ街へ帰っていたり森の方へ行く人、鉱山へ行くという人と解散する。

 俺は俺で少し東屋で一休みしてからログアウトすることにした、なんだかゲームで沢山の人と話すのは久しぶりでちょっと疲れた。

 伸びをしながらスクリーンショットを撮る、なんとなく山をメインに果樹園を入れての一枚。このお祭りの後の独特の空気にはちょうどいい感じだろうか。


 そしてゆっくりと目を閉じてログアウト処理を始める、今日はいい日だった。

 

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