16-新しい街と散歩
「――♪」
朝の日差しも眩しく、鼻歌混じりで踏み均された道を歩いている。
暁の頃からの出発であったが敵対モブにもプレイヤーにも出会わずに平原の中を歩いている。
石畳や岩肌、獣道とも異なる感触がなんだかこそばゆく感じるような気がする。ああ、時々踏む草か。
実際には敵らしきウサギ、大きさは中型犬ほどではあるが草を食んでいる姿を見かけている。こちらに気が付いても草を食むか逃げるかの反応であったので中立とかそんな感じだと思っている。
あれが串焼きの肉か。
寄り道はキイチゴを採ったりしつつ茂みの影に生えた薬草を採取したり、途中で大きな鳥に牽かれた馬車に抜かれたりパーティーと思しき人たちに手を振られて振り返したりと平和な道を歩いて行く。
馬車じゃなくて鳥車か、そういった乗り物も使えたりするのだろうか……街と街とを行き来する乗り合いみたいなの。
テイムってあったし馬とか見つけたら乗れたりするのだろうなぁ……。空を飛べるモンスターとかテイムしたら一緒に飛べたりするのかなぁ。
でも重量ってどうなんだろうか。
平和過ぎる道にあくびも数回、変哲もない景色にちょっとした変化を見つけたのは更に歩いてからだった。
――この先セクオンダル
見つけたのは簡素な木の看板、なんかファンタジーな文字に白色のルビが浮かび上がって振ってある。プレイヤーへの配慮だろうね、たしかどこかでみた看板も似たような感じになってたし。
そして見慣れない単語だがおそらくセクオンダルというのが第2の街なのであろう。
一応大きな轍のある道と小道の分かれ道ではあるので迷わないためにあるのだろう。
小道のほうはどこへ続いているのか分からないのがちょっと興味を惹かれるが今は第2の街を目指そう。変な場所に行って帰るのに時間がかかってもあれだし。
そのまま道を進み小高い丘の上まで登ると街が見えた、はじまりの街よりも少し小さく見える。城壁……と呼ぶには不十分な石垣で囲われて周りには畑と果樹園と思しき木々が広がっている。
しかも畑はかなり遠くまで広がっているようで小さな小屋が点々と建てられている。
下り気味の道をすいすい歩いて簡素な門を通り抜ける、遠目からは見えなかったが石垣は二重に築かれていて畑の周りには深めの水路が張り巡らされている。
街のでき方とか歴史とかは知らないし詳しくないがおおよそ防衛的な意味合いもあるのだろうと街並みを眺めながら思う。
ぱっと思い浮かんだ印象は田舎の農村。人は多いが農業を主体としているのだろうと勝手に思ってしまうような感じだ。
「でも市場は立派だなぁ」
店が並ぶ通りはとても賑わいを見せており積まれた果物や野菜が彩鮮やかに並べられている。
おそらく住人達の店だろうが、始まりの街のプレイヤー達の店とは商品が異なるためこう沢山並ぶと新鮮味がある。
「はーい、いらっしゃーい。お好み焼きモドキだよー」
ふらふらと冷やかしをしていると気になるフレーズを聞いた、お好み焼きモドキ……ソースの再現がいまいちなのか。それとも本当にそれっぽいのが出てくるのか。
大きく数字が書かれた値札が張られた屋台へ足を進める。
「すいません、1つください」
「はーい……ってねこさんじゃないですか!おひさしぶりです!」
「えーと……シソさんと行ったギルドハウスの?」
「そうですそうです、いやーねこさんもこっち来たんですねぇ。あ、焼き上がりましたよ」
愛嬌のある笑顔で笑う青年、特に特徴のない姿は人間で合っていたはずだ。
少し伸ばし気味のまっすぐな黒髪に細身の彼は薄めに焼いたお好み焼きっぽい物にソースをかけて紙に包んでいく、手際がいいな。
彼もまたシソさんと同じく料理を主目的にしているのだろう、とても楽しそうだ。
「じゃあ、これで」
「ほいほい、ちょうどお預かりー」
商品を受け取りお金を渡す、紙に包まれたそれは焼いた生地にはキャベツと薄切りの肉が層の様に焼かれ、崩した卵とソースもついている。食べやすいように折りたたまれて半円形になっている。
モドキという割には見た目も香りもそれっぽいから期待は大きめだし楽しみだ。
少し通りから外れた小道の脇に座って包みを開いてかぶりつく。
「いっただっきまーす」
甘めのソースが焼いた肉の香ばしさとそれをしつこ過ぎないようにさっぱりさを足してくれるキャベツに丸く味を纏めてくれる卵。
やっぱり卵はあった方がいいよね、なんというか小さな贅沢という感じがするよ。
「んーおいしい」
強いて言えばもう少しの酸味と水気を飛ばしたら俺好みだろうか、あと鰹節とマヨネーズが欲しい。マヨネーズくらいならだれか作っているだろうけど鰹節……あ、カツオモドキあるじゃん。
「まぁそこは他人まかせって事で」
ちょっと行儀は悪いが指についたソースを舐めとり立ち上がる、ちょっと飲み物を用意すればよかったなって思ったのは後の祭り。ソースが口に残るのもまた一興だ。
軽く伸びをして時間を確認するとまだまだ時間はある、街の中はそこまで広くないから見て回りつつする事を考えるにはちょうどいいけれど、来るときに見えた果樹園(仮)と思しき場所が気になるのである。
とりあえず適当な方向へ歩いていけばいいやと歩いていく、始まりの街よりも木材を使った建物が多く感じる街並みを眺めながら。
途中でみつけた焼きたてのパンを並べていたパン屋や怪しげな薬屋のような店、忘れない様にしながら街の外側までやってきた。ちょうど見たかった果樹園(仮)が近い場所に出れたようだ。
3mほどはあるだろう木は濃い緑の葉を茂らせ拳大のオレンジを実らせている。
摘果をしているのだろうか、それとも一部は収穫されているのかその実はあまり多くはない。
街の外周を回る様に木々を見ているとオレンジ以外にもリンゴやモモの様な……キヌハだっけか、それもある。
更にはブドウ棚、よく外国のワイン生産地の映像で見るタイプだ。もしかしなくてもワイン用だろう。
というかオレンジとブドウって同じ場所で育つのだろうか……柑橘は温暖、ブドウは寒冷な土地がいいんじゃなかったけか……。それともゲームだからと突っ込んだら野暮ってやつだろうか、そうだろうか。
うん、深くは考えない様にしよう。おいしく食べられるのならそれに越した事はない。
1人で納得しながら半々週ほどしたところで小さな東屋を見つけた。
そこには果物が並べられ値札と小さな箱が用意されていた、無人直売所ってやつだろう。
「えーとオレンジ1個200G、ブドウ300G……オレンジでいいかな」
オレンジを手にとり買おうとするもお金はどうやって出せばとメニューを開くとプレイヤー同士の売買と同じようにウィンドウが出てきた。オレンジ1個200G、ちゃんと確認してから決定ボタンを押す。
『またいらしてください ロイ』
購入が完了したらメッセージが出てきた。またロイさんの農場だったようだ、もしかして此処すべてとか言わないよね?農業王なのか?
謎が深まりつつも近くに設置してあった木箱に座りオレンジを食べる、ちょっとやってみたい事があるのだ。
この体の自慢の爪、ヘタの部分からお尻にかけて爪で切れ込みを入れてみる。抵抗もなく切れていってくれた様でそのまま別の場所にも切れ込みを入れて笹の葉状に皮を剥いていく。
すこし爪を入れすぎた部分もあったが全ての皮を剥き終わりミカンのように1つ1つ分けて食べる。
オレンジってどう食べるのが正解なのか……正直内側の皮が厚くて食べづらい。
結局、2個ほど食べたところで皮を剥くことにした。こう、袋を開けるように両手で摘まんで引っ張り裏返すようにして中を食べる。
うん、こっちの方がおいしい。酸味強めの果汁が口いっぱいに広がれば鼻から抜ける香りもまた格別、房のプチプチ感もいいアクセントである。
食べ終わって一息つく。
よし、釣りに行こう。そのために周りの地理を調べようかね、ちょっと頑張って大物も狙ってみたい。




