12・焼き魚と出会い
いつの間にかブクマ900件突破してました、皆さまありがとうございます
そこそこがんばります
「まだかなぁ~まだかなぁ~」
たき火の近くに座って焼き上がりを待つ、パチパチと魚の脂が落ちては爆ぜるのを眺める。
時折焦げていないかひっくり返したりするくらいでやる事は少ないが、見ているだけでも十分に時間が潰れる。
そうして焦げ目がついたら串を回しもう片方の面を焼いていく、体色の赤は焦げて美味しそうな色へ変わっている。白の部分はきつね色だ。
2本の串を交互に面倒を見ながら焼き上がりを今か今かと待ちわびる。
「もう……いいかな?」
両面こんがりと焼けた串を1本手に取りもう片方を火から少し遠ざけておく。
完全に火から遠ざけてもいいのだがアツアツがいいから完全には遠ざけない、焦げないと思うし。
「いただきまーす」
鰭は焦げて黒くなってしまっているので先に取り、少し熱い串の先端も持ちながら肉厚の背中にかぶりつく。
「んーうまぁ」
身はふわふわとしてて脂の乗りもいい、控えめな塩が旨みをいい感じに引き出している……と思う。食通じゃないから気の利いたことなど思いつかぬ。
皮もぱりぱりとした食感でいいアクセントになってるし初めてのアウトドアでこれは大成功ではなかろうか?
無心で腹の方も骨から身を剥がしながら食べ進める、腹のほうは身が薄いがその分骨から皮ごと剥がすように食べられるので中々食べ応えがある。ゲーム補正とでもいうべきか、食べやすい。
見事に頭と骨だけになったマスをたき火にくべ、行儀は悪いが手に着いた脂をなめとってから二本目の串に手を伸ばす。
少しだけ長く炙られていたからなのか、こちらのマスが小さかったからなのか少し脂が少なく感じる。
それでも身はふわふわだし味も申し分ない、ぱりぱりとした皮も美味しいし……あ、小骨が刺さった。変な所でリアルを追及してくるなぁ……。
「ふぃーご馳走様でした」
2本の串を食べきり手を合わせる、2本目も1本目と同じく火にくべ残りの焚き木も一緒にくべてある。
かなり満足してはいるが焚き木拾いの時にでも何か果物も採ってくればよかったなぁ、と少し後悔している。
食後のデザート……コーヒーでもいいかな。
それはそうと無いものは仕方がないがこれからどうするべきか、太陽はまだまだ昼前というところだろう。登ってきた時間にすれば2時間ほどだろうか。
遅めの朝食とでも言えばいいのか、このまま
バケツでもあれば水をかけられるが生憎ない、となると砂になるのだろう。
「とうちゃーく!いちばんの……り……」
「えーと……こんにちは」
足で火に砂をかけようとした時に聞えた女性の声、振り向いてみれば猫の耳のついた桃色ショートヘアの少女がいた。白っぽいローブに杖を持っているから俺と同じ魔術師か僧侶だっけかな……だと思われる。
彼女は驚いたように固まって動かない、どうしたらいいのだろうかね。咄嗟に挨拶はできたけどさ。
「おーい、あんまり先行くなー。それでこの前迷子になったろー」
「まぁ休憩エリアだしいいんじゃねぇの?」
そしてその後に続いて現れた男性2人。1人は青みがかった短髪の青年、鎧と盾が見えるので近接職だろう。2人目は長い耳……エルフかな、槍の様な長い棒に短めのローブを着ている、魔術師とは異なる職業なのだろうか。
「猫さんだ!猫さんがいる!」
「いきなり何言ってん……だ」
「えーと……こんにちは」
本日二度目の同じ挨拶、テンプレートじゃないよ?こんな状況でどうすればいいのかわからないだけだよ。
ちょっと興奮気味の女の子にどうしていいのか分からず微妙な空気の青年2人におっさん猫1人だ、笑ってもどうにもならないよね。
「こんにちは……なんかうちの連れがすみません」
「いえ、大丈夫ですよ。こちらもこうやって話しかけられるは初めてだったもので……」
いち早く対応したのはエルフの青年、3人の中だと一番年上なのかな?気の利かないダメな大人でごめんよ……。
それに気を持ち直したのかもう1人の青年と女の子もそれに続く。
「なんかすいません、うちのが……」
「もう、私だってもう大人なんだから……えーとすいません、掲示板で見た有名人が目の前にいたのでついはしゃいじゃいました……」
「ああ、いえいえ気にしないでください」
それぞれ頭を下げる2人に慌てて頭を上げさせる、話を聞いてみるとやはりというか俺のアバターは有名になっているらしく『猫さん』という通り名まであるらしい。
気にはしていないがこうして注目されているというのはむず痒い感じがする、正直恥ずかしい。
「お詫びといってはなんですけど、よければ一緒に休憩しませんか?」
「急ぐ用事もないですし大丈夫ですよ」
そこからお詫びという事でデザートをいただく事になりました、甘い物っていいよね。つられちゃうよね仕方ないよね。
●
「へぇ、じゃあ職業って統合されたりするんですねぇ」
「俺の学者がわかりやすいですね、魔術師と薬学でなれますよ」
「でも複合職ってレベル上げが面倒なんだろ?俺は順当にクラスアップする予定だなぁ」
鎧姿の彼、ブルーと名乗る青年は道中で取ったというキヌハを齧る。彼の場合純粋な戦闘職を極めていくらしい。
たき火は消えてしまったがその跡を囲う様に座って雑談に花を咲かせている。
そして簡単な自己紹介の時に聞きなれない単語を聞いたので詳しく説明を求めてみたところ職業は一定の条件で変化するらしい。ノワールという名前のエルフ君は学者と言っていたが彼の場合薬品の効果が上がったり他にはない独特の恩恵があるらしい。
「でも猫さんも変わってますよね近接戦闘してるんでしょ?」
「意外と楽しいですよ?」
「私運動苦手だから多分ダメだなぁ……でも釣りは気になるなぁ」
そういって彼女、モモと名乗った猫耳少女は足元でじゃれつくスライムに乾パンを与えている。テイムと言ってモンスターをパートナーにできるスキルらしい。
最近のゲームでは定番らしいが俺は知らなかった。
彼女の場合はスライムに敵を引きつけてもらい回復をメインに戦うのだとか。
しかし戦闘は苦手なので生産メインに移行するかもとも言っていた、合わなかったら変えるのも一つの手であるよね。
意外とみんな考えてゲームを楽しんでいるようである、俺なんてしたい事だけ考えなしでやっているんだけどねぇ。それがプレイスタイルと言えばいいのか……。
「不躾なんですけど、はんださんの種族って何ですか?問題なければ掲示板に情報だけでも載せておきたいので」
「別に構いませんよ、えーと……精霊族ケット・シーらしいですね」
「精霊……βからあるレア種族ですね」
「やっぱりレアなのですね」
俺は掲示板とかは見ない派なのだが結構情報のやり取りは多いらしく種族に関しても情報を纏めていたりするのだとか、更にその他攻略以外にも多岐にわたり情報が集まっているらしい。
楽しそうではあるがネタバレというか自分でほしい物を探す冒険感は大切にしたいので見ない様にしているのである、事前の情報収集は別物ではあるけどもね。ね?
閑話休題。
精霊という種族は一応俺の他にもいるらしくそれぞれ特徴的な見た目をしているらしい、まだ俺が見た事がないのでログイン時間とかが合わないのだろう。結構人の居る時間にいるつもりではいるのだけど夜勤だとかそういった人なのだろうかね。
もらったキヌハを齧りながら話はゲーム内の事で広がっていく、攻略組と呼ばれるクランが必死にボスを倒している話とか鍛冶クランに変人がいるだとか。
色々聞いて分かったのは結構俺はゲーム内の世情に疎い、かなり疎い。必要としてなかったからではあるが結構ゴシップ的な情報も多く、その中に俺も含まれている事とかもだ。
でも情報を仕入れるなんてしないけどね!
「結構話し込んでしまいましたね」
「そうですね……じゃあ俺たちもまたレベル上げに行くかな」
「今回はありがとうございました、これで自慢できます!」
「あんまり言いふらすのはマナー違反だぞ」
「じゃあそれでは」
「またどこかで」
「また会いましょうね」
「さよならー」
それぞれ別々の方へ歩き出す、俺は川を下る方向へ彼らは来た道を戻る方向へ。
意外と楽しかった情報交換、シソさんの様な取引相手以外にもお茶友達というか話相手を探すのも楽しそうではある。
でも話だけってのも飽きてしまうだろうか、そもそもそんなに時間があるだろうか。
岩場を飛び降りながら考えてみるが結局はまぁなるようになるよね、となるわけである。
無理して逃げながら登った崖も帰りはジャンプするだけだ、とっても簡単。
「また会ったな……」
川を下っていってしばらくで再び相まみえる事となった土人形、登りの時に出会った場所と同じ場所だ。所謂リスポーンとでも言えばいいのか。
駆け出し一番、相手の攻撃を誘う。振り下ろされる腕を避けてまずは腕に一撃≪マジックショット≫。体勢を崩しかけているがもう片方の腕を振るってくる事は前回と同じであるため対処はできる、身を低く屈め振るわれる腕の下へ。
そのまま前へ抜け出し脚の付け根にマジックショット、体勢が完全に崩れたところで胴体にさらにマジックショット。
完璧な流れに我ながらうっとり、余韻も残しつつちょっとカッコつけてみる。
ドロップは先ほどと同じく魔石だ、やはりべっこう飴っぽい。
なんだか調子がいいと感じながら川べりを下っていく、上っていた岩や段差も下りならば飛び降りるだけだ。着地の時にバランスを気を付ければいい。
その後は敵との戦闘もなく見慣れた農場へ戻ってきた。実に平和なピクニック……いや結構デンジャラスだったかな、主にオオカミとか。
「午後は海釣りかなぁ……」
ああ、塩も買っておこう。今度はヒレにもたっぷり塩を付けて焼きたいものである。




