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三十話 全開


 ふつふつと湧き上がる感情、一度忘れるように息を吐いた。

 怒りに身を任せたところで、勝てるわけではない。


 冷静に、落ち着いて状況を理解しなければならない。

 軽く拳をぐっと握り、それから開いた。

 

 戦力差は歴然としている。

 前の戦闘で、オリフェルに有効な一撃を与えられずにいて、そして状況は何も変わってはいない。

 あれから自分の能力が大きく向上したわけでもなければ、何か、ケルに新しい武器や技を追加したわけでもない。


 しいていうならば、お互いにどのような攻撃を繰り出すか、手の内がわかったくらいだ。

 それによって、むしろピンチになる可能性のほうが高い。


 オリフェルが、かつて英雄と戦ったというのならば、それだけ経験も多い。

 様々な攻撃への対抗手段も、啓よりずっと浮かんでいるだろう。

 状況は最悪だ。


 しかし、啓は口元を緩めて、大剣を構える。


「ケル……やるぞ!」

『ああ、補助は任せろ。ありったけの攻撃を叩き込んで来い、マスター』


 地面を蹴りつけると同時、背中のスラスターが起動する。

 スラスターからエネルギーが放出され、体が宙へとあがる。

 オリフェルもまた、その顔をゆがめる。


 すっと片手をあげると、魔法陣が展開される。

 そこから雷が放たれる。

 まっすぐに飛んできた雷を、啓は紙一重でかわしていく。


 集中し、最小限の動きで魔力を抑えて距離をつめる。

 オリフェルの雷は、当てるというよりも制限をかけるといった感じだ。

 啓は自分が誘導されているのだとわかる。


 だからといって、その見えた罠に突っ込む以外の方法はない。

 距離にして五メートルほど。

 すでにお互いの近接攻撃が当たる位置。

 

 さらに速度をあげ、大剣を構えて突っ込んだ瞬間、オリフェルの口角がつり上がる。


「偽物が、この程度の魔力にも気づけないのか!」

「魔力は知らねぇがな。てめぇのやりそうなことはわかってんだよ!」


 こちらの戦力を甘くみて、自分を挑発するような攻撃をするとわかっていた。

 眼前に出現した魔法陣を見て、即座に上へと飛び上がる。

 先ほどまでいた場所を、雷撃が抜ける。


 ひやりとしながら、急降下する。

 オリフェルの驚いた顔へ、大剣を振り下ろす。

 すかさず彼女が剣で防いだが、重力と速度のあわさった一撃が勝る。


 地面に向かって落ちていくオリフェルへとさらに距離をつめると、彼女は慌てた様子で横へと飛ぶ。


「調子に乗るなよ、小僧!」


 放たれた雷撃を大剣で受け流し、可能な限り吸収していく。

 と、オリフェルは準備が終わったのか、その鎧の白が明滅を行う。

 彼女の口角がつりあがると、眼前に現れる。


 恐らくはケルと同じような全開モードだ。

 彼女の剣に大剣をぶつける。

 ばちばちと火花があがり、啓の腕が押し負ける。

 

 剣が伸びる。腹部へと吸い込まれ、バリアが悲鳴をあげる。 

 バリアで緩和された衝撃が体を襲う。

 啓は奥歯をかみしめ、その痛みを無視しながら大剣を振りぬく。


 彼女の顔へと当たり、そのバリアごと殴り飛ばす。

 遺跡内部の壁へと彼女の体が叩きつけられる。

 啓も腹部に痛みが残っていたが、バリアが阻んでいるんだから、怪我はないのはわかっている。


「こっからは、俺も本気でやらせてもらうぜ」


 魔力を一気に放出する。

 50パーセントを超えていたエネルギーが目に見えて減っていく。

 背中のスラスターがあげるエネルギーが一気に増える。


 体を覆う装甲が、光りを放つ。

 大剣が、エネルギーに呼応するかのように、その剣の淵が明滅を行う。

 壁から体を起こしたオリフェルが、舌打ちとともに自分を睨みつけてくる。


「魔力もろくにない、偽物がっ!」


 吠えると同時、オリフェルがまるで爆発したかのように加速する。

 その動きが、見える。

 落ち着けば、今の自分ならば対応できないほどじゃない。


 オリフェルの剣に大剣を振りぬく。

 力は互角。オリフェルが魔法陣を展開し、啓は回し蹴りを放つ。


「この距離なら、殴ったほうがはえーよ!」


 振りぬいた蹴りがオリフェルの魔法陣ごと砕く。

 すぐにスラスターへとエネルギーを送り、距離をつめる。

 飛行し、姿勢を戻したオリフェルが回避しようとするが、その先へ大剣を投げつける。


 ふらついたオリフェルの体に蹴りを放った。


「……邪魔をするなァ!」


 魔法陣がいくつも展開され、魔法が放たれる。

 その雷の間を縫い、さらにエネルギーを放出してオリフェルの懐に入って大剣を突き刺す。

 オリフェルのバリアとぶつかり、彼女の体が吹き飛ぶ。


 残りのエネルギーはもうない。バーストモードを解除して、大剣を構える。

 体を起こしたオリフェルだって、すでに魔力はそれほど残っていないはずだ。

 よろよろと起き上がったオリフェルは、自分を睨みつけてくる。


「まだ、貴様のどこにこれほどの力が残っているというんだ……」

「別に、力なんざ残ってねぇよ。こっちは最初っからぎりぎりだっての」

「あれほどの力の差を見せつけたというのに、なぜだ」

「……てめぇが、エフィを苦しめたからだ」


 その言葉を口にして、啓は一度目を閉じる。

 苦しめたのはオリフェルだけではない。

 それが痛いほどわかっている。


「……あいつをこれ以上悲しませないためにも、その体を取り戻すんだよ」


 大剣を再びオリフェルと向ける。

 オリフェルは、軽く額に手をやり、それから大きな声で笑う。


「貴様ら、人間がっ。他人のために戦うというのか! 命をかけて、そして死にかけてまでか!」

「てめぇが一体なんなのかはしらねぇよ。それに、てめぇは一つ間違えているんだよ」


 ぴくりとオリフェルがまゆねを寄せる。

 啓は一度大きく呼吸をして、大剣を担ぐ。


「他人のためじゃねぇ、友達のためだ、俺は。友達のために全力で戦う、それが俺の理想とする男なんだよっ。だから、エフィを悲しませるおまえをぶっ潰すっ!」

「そういうのならば、守りぬいてみせるがいい!」


 オリフェルが片手を向ける。

 その向けた先は、エフィだ。

 啓は舌打ち交じりに、即座にそちらへと飛ぶ。


 残っているエネルギーは僅かだ。

 これ以上無駄に消費するわけにもいかず、啓はちらと大剣を見る。


「ケルっ!」

『……まったく、無茶をするなマスター』


 ケルへと叫び、すぐさま割り込む。

 エフィを襲った雷のすべてを体で受け止める。

 痛みに意識が飛びそうになる。それでも、残っていた装甲があったおかげで、死なずにはすんだ。


 展開していた装甲も消え、膝をつく。

 呼吸を乱しながら、ゆっくりと近づいてきたオリフェルを睨みあげる。


「なるほど。心意気だけは英雄だ。だが、貴様は英雄に何もかも劣っている」


 ゆっくりとオリフェルが足を振り上げる。

 彼女は、魔導人機を展開していなかった。


 それをかわすこともできず、やすやすと蹴り飛ばされる。

 蹴られて、地面を転がるしかできない。

 オリフェルが楽しそうに笑みを浮かべ、ぎりぎりと背中を踏みつけてくる。


「どうした? 友達のためがなんたら言っていただろ? 所詮、人間なんてそんなものだ。口ではどうとでもいえるが、どうだ? 現実は何もできやしない。この程度で一体、何を」

「……なんだよ、オリフェル。おまえ、人間に期待でもしていたのかよ?」

「……ほざくなよ、人間!」


 さらに強く踏みつけられる。

 啓はそれから、彼女ににやりと笑みをぶつける。

 オリフェルの顔が引きつり、それからさらに強く踏みつけられうr。


「余は貴様ら人間を認めはしない……っ! 余の計画を幾度となく邪魔をし、そしてまたも余の復活の妨げをするなど……っ! 楽に死ねると思うなよ!」

「……てめぇの怒りなんざ知らねぇよ」


 乱れた呼吸を整える。

 叩きつけられた痛みが全身を抜ける。

 何度も何度も踏みつけていたオリフェルだったが、やがてその顔を真っ赤にして怒りを示し、息を乱す。


「なんだ、なぜ貴様は笑っていられるっ!」

「……そりゃあ、こっから俺がてめぇをぶちのめすからだ」


 全身が痛む。

 それでもまだ体は動いてくれる。

 軽く首を傾け、肩をもむ。

 そして、笑みをぶつける。


「今の貴様に何ができる! 魔力ももうほとんど残っていない貴様が……っ!」


 その言葉に、笑みを浮かべるしかない。

 啓はそれから魔導人機を展開する。


「魔力なら、まだ残ってるぜ」

「……なんだと?」


 うろたえた声をあげるオリフェルに、啓は笑みを返す。

 それから、ケルを両手で持ち、その腹に視線を向ける。


「ケル、バリアの分、全部装甲に回してくれ」

『ああ、マスター。死ぬなよ』


 ケルが声をあげると、再び装甲が展開される。

 いつものようなほのかに体をまとう感覚はない。

 それはつまり、バリアがないということだ。


 啓は体の調子を確かめてから、大剣をオリフェルに向ける。





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