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18 その日の午後2

「どどどどど、どうしようエリク!? レアがさらわれちゃったんだけど!?」

「お、落ち着けよ!? つーか揺らすな!?」


 すっかり狼狽し、肩を激しく揺さぶって来るイルマを、エリクは強引に引き剥がした。


「でも……っ!」

「だから落ち着け。もし人質のつもりで連れ去ったんなら、迂闊に危害を加えたりしないだろ?」

「……あー……うん、そうね……。ごめんエリク……」

「いや、気にすんな」


 もちろん、レアが心配なのはエリクも同じであるし、興奮した犯人が衝動的に危害を加える可能性もあるのだが、無用な不安を与える事もない。内心の不安を努めて胸の奥に押し込み、エリクは軽く手を振っておいた。


「君達、大丈夫か!?」

 そんな二人の元に、騎士の一人が駆け寄って来た。


「は、はい。大丈夫です。そ、それよりレアが……友人があいつらに捕まっ

て……」

「ああ、見ていた。大丈夫だ、すでに銀行から城や各派出所に連絡を入れているから、すぐに応援が駆け付ける。必ず助け出すさ」

「はい、ありがとうございます……」


 昨日、ノエルから教えられた事なのだが、王都スピネルにも通信機は存在するらしい。地面に埋められたケーブルを通じて専用の機器同士を繋ぎ、通話を行うそうだ。レア(のコントラクト・チョーカー)と〈オリオン〉が使っている、ケーブルを介さない『無線通信』に対して、『有線通信』と呼ばれる形式らしい。


「つーかこの事、あいつ《・・・》に報告しといた方が良いよな。……騎士さん、俺に銀行の通信機使わせてくれませんか?」

「? いや、しかし……」

「伝言でも良いです。サディアス騎士団長へ、レアがさらわれたと伝えて下さい。言えば分かりますから」

「あ、ああ、分かった」


 そう言うと騎士はきびすを返し、銀行へと走って行く。


(無事でいてくれよ、レア……)


 エリク達も騎士の後を追い掛けて行った。






「やったっす、やったっすよ! 人質さえいりゃ、もうこっちのものっす!」

「ああ、人質さえいりゃ、もう逃げ切ったも同然だぜ! オレ達の勝ちだ!」


 サブとアニキは高らかに(誰も聞いていない)勝利宣言を上げながら、大通りをゴレムで駆け抜けていった。


「……ところでアニキ!」

「どうした!?」


「何でまだ騎士が追って来てるんっすかね!? こっちには人質がいるのに!」

「何でだろうな!? 人質がいるのに!」

「はーなーしーてーっ!?」


 心の底からの疑問に首を傾げる二人に、ゴレムの両腕で拘束されたままのレアが叫んだ。せめて腕だけでも引き抜こうとと身体をねじってもがくも、機械仕掛けの怪力の前には、余りにもささやかな抵抗であった。


「そうは行かないぜ、嬢ちゃん! 何しろあんたは、人質としてオレ達の逃亡に手を貸して貰うんだからな!」

「そうっすよ! ぶっちゃけ、お嬢ちゃんがオイラ達二人の命綱っすから!」

「そのまま谷底にでも落ちちゃって下さい! あたし抜きで!」


「おい、聞いたかサブ! 酷い事言ってるぜ、この嬢ちゃん!」

「本当っす! お嬢ちゃんには、助け合いや思いやりの心はないんっすか!?」

「あたしを人質に取って逃亡を図る強盗事件の犯人二人に限ってのみ言えば、全くちっともこれっぽっちも微塵もありません!!」


 金属質な足音を響かせて走るゴレムの上で、三人は騒ぐ。


(で、でもどうしよう!? このままじゃ……あっ!?)


 自分の顔の前に、コントラクト・チョーカーから小さく『ご無事ですか?』と言う文字が投影されている事に、レアは気付いた。彼女が進行方向側を向いている都合で、犯人二人には見えづらい位置であった。

〈オリオン〉だ。声で気付かれないよう、投影画面を使用して意志伝達を図るつもりだろう。


(うん、大丈夫)


 怪しまれないよう、小声で言う。ゴレムの駆動音や足音でかき消されないか心配だったが、『安心しました』と表示された画面を見るに、ちゃんと聞こえているようだった。


『力ずくでそのゴレムを押さえる事も出来ますが、それではマスターの身に危険が及びます。しばらく様子をうかがった方が良いでしょう』

(うん、分かった。……そうだ、それと――)


 表示された文章に対し、レアは小声で答える。


「ああっ、くそっ! サブ、騎士共が増えてやがるぞ!」

「何で追い掛けてくるっすかね!? こっちには人質がいるのに!」

「全くだぜ! 人質がいるのに!」

「って言うか、薄っすら気付いたんですけどあなた達、人質を魔除けのお守りか何かと思ってませんか!?」


「……ええっ!? 人質取ったら、相手は『これでは手を出せん……』とか言っ

て、そのまま素通りさせてくれるもんじゃないっすか!?」

「……ええっ!? 人質取ったら、相手は『くっ……卑怯な……』とか言って、そのまま逃げるのを待ってくれるもんじゃないのか!?」

「あなた達、良くそんな有様で強盗しようなんて思いましたね!?」


 心底からの衝撃顔で叫ぶ強盗二人へ、心底からの突っ込み顔で叫ぶレアであっ

た。


「……ってぇ!? アニキ! 先回りされてるっすよ!?」

「マジか!? ええい、畜生!」


 忌々しそうにアニキは悪態を付き、


「そこの路地へ逃げ込め! あの広さならゴレムでも通れる!」

「合点承知っす!」

「ひゃああああああっ!?」


 直角に近い急カーブを掛け、路地へと逃げ込むゴレムの動きに激しく振り回さ

れ、レアは悲鳴を上げる。


「走れ走れ! ここは入り組んでいるから、きやすいはずだ!」

「ほらほらそこ! 踏まれたくなきゃ退くっすよ!」

「助けて下さいっ! それとごめんなさーいっ!!」


 アニキの煽りにサブの警告、レアの謝罪。かしましい騒ぎ声を辺りにまき散らせる爆走ゴレムは、住民達の混乱の悲鳴を突っ切って路地を進む。跳ね上げた石がくすんだレンガの壁に跳ね返り、石畳の上に転がった。


「これなら逃げ切れるぜ! サブ、やるじゃねえか!」

「いやいや、アニキの咄嗟の機転のおかげっすよ!」

「……ところでですねっ!」


 顔を見合わせガハハと笑う強盗二人に、レアは言った。


「逃げるって、そもそもどこ行くつもりなんですか!?」

「どこ、って。騎士の手の及ばない場所に……」


「この街、周囲を外壁で囲まれてるんですけど! 街と外との出入り口、騎士の人達が封鎖してると思うんですけど!」

「「…………」」

「街の外に逃げるのは無理ですよね! いずれ追い詰められると思いますよ!」


 レアの指摘に、強盗二人は揃って黙り込む。顔に『……あ』と言いたそうな表情を張り付けて。


「……そ、そりゃアレだ! どっかに身を隠した上で、ほとぼりが冷めるのを待ってから……」

「ここまで大騒ぎしたら、捕まるまでほとぼり冷めないと思いますよ!」


「……そ、そりゃアレっす! このまま逃げ続けて、相手が疲れるのを待ってか

ら……」

「あなた達も疲れます! あと、このゴレムの燃料マナもなくなります!」


「「…………」」


 アニキとサブは顔を見合わせ、


「「どうしよう(っす)!?」」

「自首しましょう! 今すぐに!」


「そんな!? せっかく一大決心をして強盗したって言うのに!?」

「自首する決心を固める事を強くおすすめします! お金は銀行に返しましょ

う!」


「いや、金なら奪い損ねてるんで、持ってないっす!」

「ますます自首しましょう!? 頑張って逃げても骨折り損じゃないですか!」


 額に脂汗を貼り付け、しばし二人は押し黙る。やがて、


「……良し、そう言う事だ、逃げるぞサブ!」

「……了解っす、アニキ!」

「目を逸らさないで!? 耳を塞がないで!?」


 話の流れを豪快にぶった斬った結論を導き、強盗二人は虚ろな瞳で決意を新たにする。レアは必死に説得の言葉を届けるも、騎士達から……と言うよりも諸々の現実からの逃亡を選んだ彼らの耳は、入り口に『臨時休業』の紙を張り出して門前払いをしていた。


「……って、おい! 前だ! 前に騎士がいる!」

 我に返ったアニキは前方を指差す。建物の影から姿を現した二人の騎士が、「いたぞっ!」と声を上げているところだった。


「こっちはマズイっすね! 別の道を行くっす!」

 そう叫び、サブはゴレムを操作する。石畳を割る勢いで地面を蹴り、レアの悲鳴を尾のように引き、ゴレムは右へと進路を曲げた。


「ざまあ見ろってんだ! そう簡単に……」

「アニキ!? この先にも騎士がいるっす!」

「何ぃっ!?」


 アニキが驚愕の叫びを上げる。その視線の先には、ゴレムに乗り込んだ騎士が一人、道路を遮るように待ち構えていた。


「く、くそっ、仕方ねえ! ならまた別の道を行け!」

 アニキの指示通り、サブはゴレムを左へと曲げる。


「……良しっ、こっちにはいねえな!」

「そうらしいっすね! さしもの騎士も、こう入り組んだ道ではオイラ達がどこを走っているか把握出来ない……」

「……って前、前見ろぉっ!!」

「騎士がいるっす!? 何でっすか!?」


 サングラスの奥で目を限界まで見開き、サブは動揺の声を上げた。


「おいおいおいおいっ!? これまさか追い詰められてねえよなっ!?」

「そんな馬鹿なっす!? どうすりゃオイラ達の居場所が分かるんっすか!?」


 強盗二人は度を失い、悲鳴混じりに騒ぎ立てる。


 すっかり混乱しきった様子の二人を尻目に、


(……どうやら、上手く行ったみたいね)

『肯定』


 小声で語り掛けるレアに、〈オリオン〉からたったの二文字返事が返って来た。






「……にしても、間抜けな強盗よね。話によると、入った瞬間失敗して逃げたっ

て」

「だな。まあ、今も逃げてる最中らしいけどな。レアの奴、無事だと良いが……」


 スピネル城への連絡を終えたエリク達は、サディアスからの「俺も行くから、そこで待ってろ」との伝言に従い、銀行前で待機していた。


「それでも、逃げている場所は分かる訳だし。きっとすぐ捕まえてくれるわよ」

「ああ。なにしろ……」


 エリクは上空を見上げる。


 青色に薄っすらと茜が混ざり始めた空。群れをなした鳥達以外、何者も飛んでいないはずの空。


 その空に、機械の腕が二本、ぽっかりと浮かんでいた。


 片方は天に突き上げられ、もう片方はあちこちを差し示すその腕は――


「〈オリオン〉が居場所と逃亡先を教えてくれているからな」






『透明化って、例えば腕だけ解除する事って出来る? 出来るなら、それであたし達の居場所と進む方向を示してくれる?』


 レアが〈オリオン〉へこっそりと伝えていた指示だ。事情を知らない強盗なら、上空に旧文明時代のゴレムが飛んでいる事など想像すらしない。一方、エリク達なら気付いてくれるかも知れない。その可能性に賭けての事だった。


 当然、〈オリオン〉の姿を晒せば、街の住民達に〈オリオン〉の存在を知らしめる事になる。だから余計な騒ぎを抑えるために、腕だけを解除させた(もし不可能なら、諦めて全身を晒させるつもりだった)。腕だけでも十分に不自然な光景であり、相応の騒ぎになっているとは思うが、全身よりはまだ誤魔化しが効くだろうと妥協しておいた。


「おい、後ろからゴレムが追って来てるぞ!? 早く逃げろ!」

「いや、前にも騎士がいるっすよ!?」


 結果、作戦は上手く行ったようだ。〈オリオン〉の姿を発見したエリク達がこちらの意図に気付き、騎士達に伝えてくれたのだろう。着実に強盗達を追い詰めてくれている。


「し……仕方ねえ! だったらそこ曲がれ!」

「お、大通りに出るっすか!? 余計目立つんじゃないっすか!?」

「立ち止まるよりはマシだ! 早く!」

「りょ、了解っす!」


 サブはゴレムを操作し、L字に急カーブ。何度目かも分からぬレアの悲鳴と引き換えに、方向転換を行う。


 そのまま直進し、大通りへと飛び出し、


「……良っしゃ! これで――」

 アニキの口が、開いたまま固まる。


 左右。多数の騎士達と数体のゴレムが待ち構え、完全に封鎖されている。


 背後。追跡劇の最中で合流したゴレム数体が、完全に逃げ道を封じている。


 前方。居住用の建物によって、行き止まり。


 強盗二人の脳内に、各種情報が駆け巡る。導かれた結論は、


「…………詰んでねえか?」

「…………詰んだっすか?」


 力ない呟きが、拘束されたままのレアの耳に届いた。

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