第三話
母は、寄宿舎での生活にもすっかり馴れて、ハイスクールに通う頃になるとボーイフレンドもできた。
一人前に、男の子とのセックスも覚えた。母は、自分はちゃんとした女に成長したのだと思った。
ところがある日、そのボーイフレンドがおかしな事を言い出した。
幼い頃、トイレに行く途中にリビングをのぞいたら、両親が立ったままキスをしていたそうだ。
何をしているのかな?と思って目を凝らしてみると、何と両親には尻尾がなかった…と言う。
てっきり寝ぼけていたんだろう…人間にはみんな尻尾があるに決まっている。夢でも見たんだろうと思った。
大学生になってから、一人の男と出会って恋に落ちた。彼の事が好きで好きでたまらなくなった。
彼も母を深く愛していたので、二人は思い切って在学中に結婚式を挙げた。とても幸せだった。
母は大学を卒業するのが待ち遠しかった。卒業したら赤ちゃんが作れるのだ…そう思った。
無事に大学を卒業した彼は町の一流企業に就職し、夫婦には町から住む家が与えられた。
そうして、母はついに妊娠し、待ちに待った赤ん坊が産まれた。それが私…ルーシーだ。
ただ、少し未熟児だったらしく、産まれるとすぐに看護師さんが保育室に連れて行ってしまった。
歩けるようになった母は、父と二人で保育器に入れられていた私を見に行ったそうだ。
未熟児とは思えないほど元気な女の子で、ちゃんと小っちゃな尻尾も生えていた。嬉しかったそうだ。
無事に子供も産まれて、幸せな結婚生活を送っていたある日の事、電話に出た母は思わず倒れそうになった。
父が突然会社で倒れて、病院に運ばれたがそのまま息を引き取った…と言う知らせだったそうだ。
その日の朝「今日は会社の健康診断があるから朝食はいらない」と言って元気に家を出て行ったはずだ。
どこも身体の調子が悪そうには見えなかったのになぜ?…母は目の前が真っ暗になった。
病院の遺体安置所で見た父の遺体には、死因を突き止めるためなのか?解剖された跡があった。
医者からは、心臓発作による急死だと告げられたそうだ。母は幼い私を抱えて途方に暮れた。
父の葬式を出して家に帰ると、悲しみがどっとあふれ出して来て母は泣いた。
そこへ、隣の未亡人がやって来て、お悔やみを言って慰めながらこう言った。
「気の毒にねぇ…でも生活の心配はしなくていいわよ。グロウレイクタウンはちゃんと福祉が整っているからね」
「私も夫を亡くしたけど、町が遺族年金と養育費をちゃんと出してくれたから、安心して子供を育てられたわ」
隣の未亡人の言った通り、すぐに町から給付金が下りて来て、それまでと何一つ変らない生活が続けられた。
けれど寂しかった…あんなに愛していた父がいなくなって、母は心にポッカリ穴が空いたように思った。
何とか夫のいない寂しさを紛らわそうと、母は幼い私を託児所に預けて、町のスーパーで働く事にした。
そこで母は、町の外からスーパーの商品を卸しに来ていた一人の男と親しくなった。
若くてハンサムな男で、何となく不良っぽくて口は穢かったが、それがまたカッコよく見えた。
そんなある日、母は男から「町の外に出てみないか?」と誘われた。
~続く~