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第二話

「あぁ、喉が渇いているんだね。ミルクでいいかな?」

 女の子がうなづいたので、祖父は冷蔵庫の中からミルクを出して来て女の子に飲ませた。

 女の子は祖父に渡されたミルクを、ごくごくと一気に飲み干した。

 (どのくらいの間、罠に挟まっていたのだろうか?よほど喉が渇いていたんだろう)

 そう思いながら、不憫な目で女の子を見る祖父に、いきなり彼女は自分の身の上話をし始めた。


 祖父の牧場から30マイルほど離れた所に、グロウレイクタウンと言う綺麗な町がある。

 風光明媚なグロウ湖の畔に開けた町で、国の偉いさんやセレブたちの別荘が立ち並ぶ保養地だと聞く。

 要人たちの町だけに、周囲に高い柵が張り巡らされ、警備は厳重で常に警官が見張りをしている。

 中に入れるのは、別荘の所有者と町の中に食材や物資を運ぶ出入業者だけらしい。

 そう言えば、いつも牧場の牛を買う屠殺業者のギャロップも、あの町に出入しているそうだ。

 この子はそこの子かな?道にでも迷ったのか?でも要人やセレブの子なら、なおさらえらい事になる。

 祖父は早く医者に連れて行こうと焦ったが、女の子は祖父の気持ちを無視して話を続けた。


 女の子の母親は、そのグロウレイクタウンで産まれたそうだ。

 やさしい両親の手で育てられ、大きくなるとセレブ専用の町の名門小学校に入れられた。

 小学校は寄宿制で、両親と離れるのはちょっぴり寂しかったが、週に一回は両親が会いに来てくれた。

 でも、それが次第に遠ざかるようになったある日の事、母は両親が飛行機事故で死んだ事を知らされた。

 遺体のない葬式をした時は、胸が張り裂けるほど悲しかった…そんな母を学校の友達は一生懸命慰めてくれた。

 聞くと、たくさんの友達が両親を亡くしていた。多くは飛行機事故とか船の事故で、遺体はなかったそうだ。

 でも、親たちは充分な養育費を残してくれたそうで、大人になるまで全然お金には困らないと言っていた。

 母の両親もそうしてくれていたので、寂しくはあったが、友達もたくさんいたし、何一つ不自由はしなかった。

 みんなで勉強をしたり、遊んだりして楽しく過ごしている内に、いつしか親を亡くした悲しみも薄らいでいった。

 テレビを観ていて、よその町に行ってみたいな~…と思う事もあった。海が見たいと思ったりした事もあった。

 でも、町の外には危険なテロリストがたくさんいる…と、母は両親や学校の先生にいつも聞かされていた。

 実際、町の外に出たためにテロリストに殺された生徒の葬式を見たこともあった。それは無残な遺体だった。

 なので、母は町の外に出るのは恐いと思っていたし、海でなくても、湖で泳げるからそれでいいと思っていた。

 町の人はみんな親切だったし、何一つ不自由のない暮らしだったので、母はそれで充分に満足していた。

 ただ、寮母さんや学校の先生が身体の事にやかましく、頻繁に健康診断を受けさせられるのは嫌だった。


 そこまで聞いて、祖父は女の子の話に奇妙な違和感を覚えた。

 確かにこの辺りはコヨーテがうろついているが、テロ事件も、銃の乱射事件も一度も起きた事はなかったからだ。


~続く~

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