2×××年1月13日(木):フレンド登録
1回目のログイン。
武器・防具屋へ行こうと街を歩いていると、一瞬画面が白くなり、立派な馬車がやって来て停まった。
「失礼します。我が主人が貴女にお会いしたいとの事で、お迎えに上がりました」
馬車から降り立った紳士が私に向かってそう言って来たので、面食らう。
「え? 私ですか? 人違いでは?」
「若様からお聞きしております。赤い髪・紫色の目の弓使いの女性に世話になったと」
「あ、ダイズさんの事ですか?」
「左様です」
「え、でも、そんな大した事……」
と言いながら思い返してみたが、1対3の死闘に加勢して回復魔法を掛けたのは、大した事かもなあ。
「若様は、貴女に大層感謝しておりました。その為、主人が礼をしたいと仰せです」
「私、礼儀作法とかよく知らないですけど」
「余程酷くない限りは大丈夫ですよ」
アズキレベル?
彼女、王族にも態度悪いからね。※但し、イケメンを除く。
馬車に乗って到着した先は、お城だった。
「あの、もしかして、ダイズさんって王族ですか?」
「左様です。我がダース王国の第2王子であらせられます」
第2王子勝手に連れ回したら駄目だろう。あ、聖女だから良いんですね。分かります。
「今回は私的なお礼と言う事で、服装等はそのままで結構です」
「解りました」
それでも一応、鎧などは装備から外した。
「では、此方です」
案内された部屋に入ると、ダイズと王様と王妃様がソファに座っていた。王様と王妃様には、【聖女伝説4】でも会った事がある。勿論、違うシチュエーションで。
「良く来てくれた。掛けたまえ」
「失礼致します」
ちょっと、王妃様が手ずからお茶を入れてくださっているんですけど!
「どうぞ」
「恐れ入ります」
全員お茶に口を付ける。
「さて。我が息子ダイズから話は聞いた。危ない所を助けてくれたそうだな?」
「『聖女様達はダイズ様を鍛えようとしていらっしゃるようでしたが、敵は手練れのようでしたので、僭越ながら加勢させて頂きました』」
台詞が表示されたので、読み上げる。
「貴女には感謝しておりますわ。お陰で息子が無事に戻りました」
「街の外に居るモンスターなら未だしも、テロリスト2人とゴーレムを相手にするのは独りじゃ無理だった。ありがとう。もしかして、心配して追って来てくれたのか?」
「はい。ですが、屋上での戦いには間に合いませんでしたけど」
「ああ。あれ、下から見えたんだ?」
「魔法だけですが」
「なるほど。まあ、屋上では、珍しく戦わなくて良いって言われたから戦って無いんだ。邪魔だって言われて腹は立ったけど」
ボス戦はアズキの見せ場だからね。弓使いは見れないみたいだけど。
「そうだったんですね」
「さて。礼だが、言葉だけと言う訳にはいかぬ。これを受け取って貰いたい」
<謝礼:10000モネを受け取った>
<謝礼:10APを受け取った>
APって上げられるものじゃないよね?! 要らない訳じゃないけどさ!
ゲームをリアルに体験出来るようにしただけで、リアルなゲームを作るつもりは無いらしい。
「ありがとうございます」
「そう言えば、名を聞いて居らなんだな。其の方、名は何と申す?」
「『茜と申します。弓使いをしております』」
「まあ。貴女も弓使いなの」
貴女『も』?
「弓は、我がダース家の必修武器なのだ」
「そうなのですか」
「そう言えば、アズキは弓使い嫌ってたな」
ダイズが呟く。
「可愛い事よね。『ソイ』の民衆人気が高まった頃だったかしら? それを言い出したのは」
「姉上の?」
ソイ王女は【聖女伝説4】でも登場したキャラで、確かに弓使いだった。
「そうだったな。確かに、あの頃は聖女殿よりソイの方が知名度が高かったからな」
「あの頃のアズキさんは、まだ修行中でしたものね」
王妃様は、「そう言えば」と続ける。
「『エンレイ』の婚約が決まったのも、その頃だったかしら?」
エンレイ王子も【聖女伝説4】に登場済みで、ソイ王女の弟だった。
「婚約……。もしかして、ササゲは、俺とアズキを婚約させたいのかな?」
「あら、神子がそんな事を? 聖女は聖神国に必要でしょうにね」
要らない程酷いんですね。解ります。
「ダイズは第2王子だ。婿に欲しいのだろう」
「どちらにしろ、ダイズとの結婚に、聖女を還俗させるほどの価値があるという事ですわね」
聖女が戒律を破ったら外聞が悪過ぎるって事じゃないですかねえ。
あれ? そう言えば、王都に来る前に船で見たアズキアンチスレに、アズキがダイズとオカラに抱き付いたって書いてあったような……。それって、戒律破ってない? 大丈夫?
王宮を出ると、空中に大きな文字が表示された。
<第1章クリア!>
章をクリアすると次の章が始まる3日後まで、プレイヤーは自由行動を取る事が出来る。
弓使いである私は元から自由だけど。
<闘技場を使用出来るようになった>
闘技場ではモンスターを倒して勝ち抜く個人戦・団体戦の他、PvPを行える。
でも、私は、PvPした事無いんだよね。
だって怖いじゃない? プレイヤーはモンスターより手強いから、一方的に甚振られる恐れがある。それに、もし勝っちゃったりして恨まれたら怖い。
いや、そんな人ばかりじゃないのは解っているんだよ。でも、普通に戦って勝ったのに因縁付けられたなんて話をネットで見るからさあ。
<ダンジョン『死者の溜まり場』に挑戦出来るようになった>
このダンジョンは、見て判る通りアンデッドしか出て来ないダンジョンだ。
【聖女伝説4】では職業が剣士だけだったし、魔法が使えるなんて事も無かったから、第1章をクリアしたばかりのレベルでは中々厳しかったらしい。
伝聞なのは、アンデッドを見たくなかったので挑戦しなかったからである。
さて、貰ったAPを振って、ログアウトするか。
2回目のログイン。
よーし! 闘技場で、モンスター戦に挑戦しよう!
「あ。弓使いさーん!」
聞き覚えのある声に振り向けば、例の女戦士さんが手を振っていた。
服に変わりは無いので、サブイベントの検証はまだしていないのかもしれない。
「良かったら、フレンド登録しません?」
「良いですよ」
「あ、私、ジャンヌです。よろしく~」
「茜です。宜しくお願いします」
<初フレンド登録祝い:1APを受け取った>
フレンド登録して、ジャンヌさんに尋ねる。
「此処に居るという事は、第1章は終わりましたか?」
「うん。そう。茜さんも?」
「はい」
「良かったら、PvPしない?」
う……。
「他のフレンドともPvPするんだ~」
「そ、そうですか」
「ロビンがねー、あ。フレンドの一人で弓使いなんだけど。弓を大切にしない様な人はボコってやりたいって言ってたよ~」
止めて!
「どっちが勝つか楽しみ~」
止めて!
「じゃあ、行こうー!」
手首を捕まれてドナドナされた。
「貴女が例の弓使いね」
私は弓使い専用スレも覗いているので、知られている経緯は知っていた。
「初めまして、茜です」
「私はロビンよ。初めまして」
ロビンさんはこっちを嫌悪している様子だったが、ちゃんと挨拶してくれた。
「幾らゲームでも、して良い事と悪い事があると思うの」
「そう言う考えがある事は解ります」
「確かに、弓で殴るキャラが出て来るゲームとかあるけど」
あるんだ?
「弓は普通に使うべきよ!」
「そうかもしれません」
でも、未だ出て来てないけど魔法効かない敵には、弓殴技を使った方がダメージ上なんだよね。
「例え近距離でしか当たらないゲームでも!」
「大変でしょうね」
「そうなのよ! 運営は弓使いに何の恨みがあるのかしら!?」
「ロビンは真面目だねー」
ジャンヌさんの隣に、何時の間にか男の人が居た。
彼も弓を装備しているが、誰だろうか?
「良いじゃん。別に。ゲームだぜ? 荒唐無稽だって有りだろ? それに、現実でだって弓で殴る事はあったらしいし?」
「昔は昔! 今は今よ!」
「それを言ったら、このゲームの弓使いはスポーツマンじゃなくてウォリアーだろ? 弓で殴ったって良いじゃん」
「それは……」
絶句したロビンさんを尻目に、近付いて来た彼が自己紹介する。
「初めましてー。テルです」
あ、私の情報出した人だ。
「茜です。初めまして」
「自己紹介済んだし、話す事も終わったみたいだし、そろそろやろうよ!」
ジャンヌさんが待ち兼ねたように声を掛けて来た。
「ロビン。一戦したら、勝敗に関わらず茜さんと仲良くしてよ~?」
「解ってるわ。茜さん。弓殴技無しで勝負よ!」
あ、はい。魔弓術は使って良いんですよね?