2×××年1月2日(日):本サービス開始日翌日
今日は、VRMMO【聖女伝説4】リメイク版【聖女伝説外伝】の本サービス開始翌日である。
因みに、時刻は午前3時である。昼夜逆転生活をしているので、こんな時間なのだ。
私――空朱音――は双子の兄と折半して購入した『コクーン』を起動して中に入った。
そして、予めインストール済みの【聖女伝説外伝】を選択すると、ゲームが起動し主題歌とムービーが流れた。
リメイク版追加キャラの『ダイズ』がモンスターと戦っているシーンや、主人公『アズキ』が戦闘指揮を取っているシーン。更に、アズキが歌う『聖歌』で発動する強力な魔法、それによって倒されるドラゴン等を眺める。
ムービーが終わりログイン画面に変わった。
<キャラクターメイキングです。先ず、主人公であるアズキを作りましょう>
【聖女伝説】シリーズは、『理想の女の子と旅をする』のがコンセプトなので、聖女のキャラメイクが出来るのだ。
デフォルトでは、ストレートロングヘアの金髪・碧眼・華奢巨乳。……キャラクターイラストでは、華奢じゃ無くてお尻も大きい、グラマーとかボンキュッボンとかで表される体型なんだけど、ゲームでは、大きな頭・棒のように細い腕や脚・くびれの無いウエスト・小さなお尻と、胸が大きい事を除けば幼児体型に近いと言う謎仕様。
私は、デフォルトのままで決定ボタンを押した。
好きでも無いキャラに、労力を掛ける趣味は無い。
私は【聖女伝説4】をプレイした事があるのだが、アズキはそれまでのシリーズの主人公と違って、『いかにも聖女』という性格からかけ離れていた。
『選ばれた存在である事を鼻にかけた傲慢女』。それが、アンチがアズキの性格を露わす言葉の一つである。
βテスターによれば、その性格は変わっていないとの事。
恐らく、『聖女伝説4』を未プレイのプレイヤーも多いだろうから、アンチが増えない事を祈っておこう。
<名前を変更しますか?>
変更せずに決定ボタンを押した。
<次は、貴方が操作するキャラクターを作りましょう>
目の前には、自分の特徴を掴んだ等身大3Dモデルが表示されている。リアルでは無いのは、キャラクターデザインをした人の画風に似せている為だ。
髪型を三つ編みお団子にして、銀朱色(黄身がかった鮮やかな赤)にした。
更に、目は葵色(灰色がかった明るい紫)にして、肌を色白にした。
後は変えずに決定ボタンを押す。
<次は、職業を選択してください>
戦士
武闘家
魔法使い
盗賊
弓使い
この五つか。でも、私が選ぶのは決まっている。
弓使いだ。
何故かと言えば、βテスターの情報で、弓使いだけがアズキと行動せずに済むと知ったからだ。
アズキが同行しない場合のデメリットは、『メインストーリーに関われない』・『クエストが受けられない』というもの。
そして、弓使いのデメリットは、……『命中率が低過ぎる』事。
弓道・アーチェリー経験者でも、全く当たらない。勿論、矢が逸れられない近距離なら当たる。
弓使いは前衛職では無い筈なのに、前衛で戦うしかない仕様。
因みに、矢は無限らしい。お得だね。
<弓使いで宜しいですか?>
OKを押す。
<ステータスポイントを振ってください>
物攻:0(お勧め:戦士・武闘家)
物防:0(お勧め:戦士・武闘家)
魔攻:0(お勧め:魔法使い)
魔防:0(お勧め:魔法使い)
器用:0(お勧め:盗賊)
敏捷:0(お勧め:盗賊)
SP:100
……弓使いがハブられてる。
因みに、前述から想像出来る通り、器用に極振りしても弓使いの命中率は上がらない。
悩んだが、お勧めが無いから平均的に振った。
物攻:17
物防:17
魔攻:17
魔防:17
器用:16
敏捷:16
<アビリティを選択してください>
【 】 【 】 【 】 【 】 【 】
AP:100
5個か。何にしようかな? あ、魔法も剣も何でも覚えられるんだ。
アビリティ枠って後で増えるのかな? その辺の情報見て無いからな……。
【鉄壁の守り】:5AP。パッシブ。パンチラ等を防ぎます。
【光属性】:40AP。火・風・光の魔法を使えます。
【闇属性】:40AP。水・土・闇の魔法を使えます。
【解析】10AP。モンスターの弱点等を知る事が出来ます。
【記録】5AP。スクリーンショットを撮れます。
デフォルトではパンチラしてしまうとは酷い。
因みに、初期装備はどの職業でもズボンである。スカートに着替えて、知らずにパンチラしちゃう人も出るんだろうな。……そんな下品なゲームでは無かった筈なのに、【聖女伝説4】からそうなった。アズキがパンチラするのだ。
属性は一つずつ取った方が消費APが少ないのだが、アビリティ枠が増えるか知らないので、思い切った。
<名前を決めてください>
朱音の漢字を変えて、茜と入力。
<未使用です>
良かった。良くある名前だから、使用済みかもと心配していたのだ。
ログインボタンを押して、ログイン。
画面が暗転した。
<王都ワンス>
女声の歌が聞こえる。
発動する『聖歌』。
巻き添えになる都民達。
目の前には、痛みを堪えて立ち上がるダイズ。
その向こうから、駆けて来るアズキ。
『何すんだよ! 悪党!』
『邪魔!』
杖でダイズを殴り、プレイヤーをも殴ろうとするアズキ。
プレイヤーの身体は自動で動き、アズキの杖を受け止める。
『……逃げられた』
呟いて飛び退くアズキ。高く飛んで宙で縦にクルリと回転し、着地を決める。
『貴方達の所為で逃げられた。責任を取って貰うわ』
腕を使いファサッと髪を動かして、ダイズとプレイヤーにそう告げる。
『知るか! お前が責任を取れよ!』
『……何も知らないのね。私は聖女アズキ。世界を救う為にあの男を追っていたのよ。それを、貴方達が邪魔してくれた』
アズキは此方を睨んで説明する。
『お前! 自分が何をしたか解ってるのか?!』
『当然ね。ところで、何時まで名乗らないつもり? 礼儀を知らないのかしら?』
『……ダイズだ。ダイズ・オブ・ダース』
渋々といった様子で、ダイズが名乗る。
「『茜です。弓使いですね』」
読み上げるよう表示された文章を読む。
『弓使いですって?! 貴女は付いて来なくて良いわ! ダイズ、行くわよ!』
アズキはダイズの右手首を掴むと、引き摺るようにして駆け去った。
画面が白くなり、イベントシーンが終わった。
途端に辺りが騒がしくなる。
「誰か! 回復魔法を!」
私は、魔法リストを確認してみた。
『中級回復魔法:ヒール』がある。
何故レベル1で中級魔法があるのか解らないが、それを使って回る。
アイテムストレージ内のMPポーション(柚味)を3つ全部使い切った。
幸いにも死者は居なかった。
「ご協力感謝します!」
<治療報酬:MPポーション(柚味)×5を受け取った>
「ところで、犯人を目撃しませんでしたか?」
「目撃しました。金髪碧眼で、胸が大きかったですね。聖女アズキと自称していました」
目撃していないと嘘を付いたらどうなるんだろう? 興味はあるけどやらない。
「聖女様ですか……。本物なら厄介ですね」
<情報提供報酬:HPポーション(リンゴ味)×3を受け取った>
「あの、ダイズ・オブ・ダースと言う少年が連れ去られたのですが」
「何ですって?! ダイズ様が?!」
様付けか。どうやら、貴族か何からしい。
「はい。敵を逃がしたのをダイズ様の所為にして、責任取れと連れて行ってしまったんです。済みません。止められなくて」
「報告に行かなくては! 情報提供に感謝します!」
<情報提供報酬:1000モネを受け取った>
モネは、聖女伝説シリーズの通貨単位だ。
兵士が去った後、私は所持品を確認した。
HPポーション(リンゴ味)×8
MPポーション(柚味)×5
1000モネ
木の弓:物攻+2
皮の胸当:物防+4
皮のゆがけ:物防+2
皮のブーツ:物防+2
布の服
以上である。最初は無一文って、納得いかない。
まあ、それは兎も角、折角だから街を見て回ろうかな?