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恋×罪

作者: 文月 彩

 最初で最後の最高の恋…。

 一度に体験してしまった。

 もう恋は出来ない。



 私は小学校五年生の頃に、当時の担任と上手くいかずに反抗した。

それが周りの父兄や親から「不良だ」とレッテルを貼られ、田舎の小さい町ではすぐに話は広まり、冷たい目線を送られる生活が続いた。

クラスメイトからも孤立していき、友達もいなかった。


 そして、よくあるストーリーだが、私は孤独と“誰も自分を理解してくれない”という寂しさから、荒れていった。

放課後には文通相手募集の記事で知り合った、隣町の同世代の子と夕方まで遊び、夜になると、十歳年上の従兄弟の家に遊びに行った。

親が煩かったから、私は従兄弟に勉強を教わっているということになっていた。

でも、実際は従兄弟の部屋は友達の溜まり場で、いつも従兄弟の先輩、後輩、友達でにぎやかで、私は社会人や大学生の人たちと一緒になり、飲酒を覚えた。

さすがに煙草は煙が鼻について吸いたいとは思わなかったけど。

私は、中学生になってもそんな生活が続いた。

年齢が離れているせいで、なかなか溶け込めなかった時期もあったが、さすがにその頃には仲の良い友達が3人できて、最初は私がまだ未成年だからと、夜のドライブとか休みの買い物とか、飲み会には誘ってもらえなかったけど、徐々に一緒に行動するようになっていた。


 仲間の一人、梨香は大学を卒業したばかりで、とても綺麗だった。色白で、細身で、軽くしているメイクがそれを引き出している感じで、私も将来は梨香みたいになりたいと思っていた。  そして、もう一人、愁也は梨香の幼馴染で、私の従兄弟の彼氏だった。ちなみに梨香も愁也も同性愛者だった。二人はずっと一緒で、周りからはカップルだと思われていたみたいだけど、そのほうがお互い都合が良いから、構わないと言っていた。

 そして最後に陵。陵は、従兄弟と同じ大学で仲良くなった学友で、怒ったりするのなんか見たことなくて、飲み会とかでも気の利く彼は、みんなから好かれていた感じがした。

 そしてすごいのは、三人ともそれぞれ大きな会社のお嬢様や御曹司だった。そういう話はみんな好まないので、私も詳しく聞いたことはなかったけど、私なんかには信じられない話もちらほらあって、新鮮だった。


 本当に楽しかった。

つまらない学校も、四六時中、三人の誰かとメールでやり取りしていたので、すぐに終わった。

そして、今まで以上に休みが楽しみでしょうがなかった。

 ある日、愁也と陵とドライブに行った。

星空が好きだと言う二人は景色の良い所を教えてくれると言って、連れてきてくれたのだ。

最高の世界だった。私は言葉もだせないまま星空を見上げていた。

フッと気づくと愁也が車に戻っていて、陵が私のすぐ近くにいた。そして「今度は、二人で来ないか?」そう言った。

 私はビックリした。私たちって、良く集まってバカ話してたけど、皆のことは大好きだけど、そういう感じになった人っていなかったから。

でも、私は皆に信頼されてて、気が利いて、私が学校であった嫌なことなんかをメールすると、親身になって話を聞いてくれる陵に、友達以上の感情があった。でも、顔も悪くなくて、その性格じゃ、すごくもてるんだろうな…。と思っていたから、本気じゃないのかな。とか、色々考えた。でも、この人になら騙されてもいいか。と開き直り「うん。」って答えた。陵は、私のことを強く抱きしめ「僕が紗由実のこと守る。」そう言ってくれた。


 その日から、陵の隣は私のポジションになった。

飲み会でもずっと隣。

ドライブに行く時も、いつも運転役の陵を今までは後部席から見てたけど、助席に昇進した。

愁也以外は私たちが付き合っているのを知らないはずだったのに、スグに皆にばれた。

 何回か皆と今まで通り遊んでる中で、手をつないだりはしたけど、それ以上はしばらくなかった。

 そして、告白から1ヶ月後くらいに初めてデートに行った。

なんか、二人っきりって初めてで、すごく緊張して、車に乗った時から一言も発せられなかった。

でも、陵は普通に話しかけてきたし、ちょっと尊敬した。男の人って、そんなものなのかとも思った。

二人で映画を見た。見たのは恋愛ものだけど、私はすごく涙もろいから、号泣していた。

男の人の前で泣くの初めてで、恥ずかしくて、アクションものとか選べばよかったって、けっこう後悔した。

よくあるパターンだけど、二人はずっと手をつないでいた。

 薄暗い映画館をでると、陵は私の鼻が真っ赤だって言って、笑った。

私はやっと緊張がほぐれて、ちょっぴり怒った。

そしたら、「良かった。なんか今日いつものマシンガントークが封印されちゃってるから、もしかして嫌々だったのかなって思って、すごいあせったけど、やっぱり紗由実だね」ってすごい悩殺系の笑みを浮かべた。

私は改めて陵が好きだと思った。

でも、恥ずかしかったから、「どうせ、鼻の赤い私なんか、ピエロみたいで可愛くないもん!もう陵ちゃんの馬鹿チン!」って言った。そしたら、私の頭を持って、顔を上に持ち上げた。これはキス!?と思い、ハッと目をつぶったら、思いのほか、されたのは鼻だった。そして「可愛いよ」って言った。私はそれからしばらく鼻が熱くてしかたなかった。


 その後、ファミレスでランチして、車に戻ると、車内はすごく暑くなっていて、クラクラした。 

そこで陵は「どこか涼もうか?」って聞いてきたから、私は普通に「うん」って言った。

お子ちゃまの私はその言葉の意味に全然気づかなかったけど、着いたのはラブホだった。

でも、私は陵のことが好きで、別に構わないと思った。

だけど、まだ陵に話していないことがあった。

 部屋に行って怖い顔をしている私をぎゅっと抱きしめて「何か言いたいことがある?今なら聞くよ」と言った。

私は言った。「陵ちゃんゴメン!私、後悔してる。私、処女じゃない。」すると、陵ちゃんは、すかさず言った。「そんなの気にしないよ。僕たちまだ始まって1ヶ月だ。だからお互いに、それ以前の過去があって当然だ」そう言って、私たちは深い深い、そして長いキスをした。何も考えられなくなって、気がついたら私は陵の腕に支えられて立っている状態だった。

恥ずかしくて、目が潤んだ。

初めてのキスは陵の吸う煙草の味だった。大嫌いだった煙草のにおいも、大好きな陵の香りになった。

 シャワーは別に浴びさせてってお願いした。そして、私が先に浴びることにした。

一応、デートだったから、準備はしてたけど、急展開に頭がついていかなかった。

ほてった顔をクールダウンすることしか考えてなくて、頭から思いっきりシャワーを浴びてから後悔した。私のロングヘアーは乾かすのが一苦労だ。

 シャワーから出ると「遅いから、お風呂でのびちゃったかと思った」って、陵は笑ってた。

私はそんなに長い時間シャワーを浴びていたのかと思った。お風呂になんか入っていないのに…。自分ってこういう時は、意外と乙女なんだと実感した。

 そして、陵がシャワーから出てくるまでに急いで髪を乾かして、テレビをつけてみた。

そしたら、普通にアダルトチャンネルがついて、慌てて消そうと思ったらスイッチが見つからなくなって…。そこに、陵が出てきた。

必死に消そうとしてる私に「そんなに興味があるなら、つけたままでもいいよ。」って、不敵な笑みを浮かべていた。でも、結局消してくれた。


 私たちは始め、何をするでもなく布団をかぶってた。

私は恥ずかしくて、丸くなって陵の胸に埋もれた。心臓の音が頭にまで響いた。

しばらく経って、「さっきより顔が赤いよ?」って、私が言ったら「全部見せて。」って言われた。

陵は、私が顔を上げるまで待っててくれた。

顔を上げたら、すごく長いキスをされた。

気がついたらバスローブが脱げてて、キスは全身に及んでいた。自分の体が信じられなかった。

首とか耳、足、普段なんか、どうでもない部分が熱い。吐息が漏れた。

陵は優しく私を舌で転がした。私は始めての感覚に悶えた。「死んじゃう。」そう叫んだ。

体中が痙攣して、陵にしがみついた。

陵は一つ一つ私の表情を見ながら、動いているのが分かった。

私は、眠くもないのに意識が遠のきそうになった。

陵が果てたときには、私は何を言ってるか分からなくなってた。

そして、猛烈に眠気が襲い「ゴメン。もう眠い。」そう言って、寝てしまった。


 どのくらい寝てたのか、目を覚ますと陵は「ありがとう。」そう言って、軽いキスをしてきた。

何がありがとうなのかと思って、「ん?」と聞く私に、「本当は紗由実がせめて高校生になるまでは告白しないでおこうと思ったんだけど、飲み会でもいつも無防備な格好してるし、誰にでも隙を見せるから、心配で仕方なかった。そのうちに学校で同級生の彼氏が出来たとか言われたら、ショックだし。それで、愁也に相談したら、気持ちを伝えるのに年齢や性別は関係ない。って言われて、思い切って告白したんだけど、まさか紗由実も僕のこと思ってくれてるとは思わなかったから。」そう言った。

私は確かに告白をOKしたし、陵のことは好きだけど、いつ陵本人に好きなんて言ったんだろう?と思って、「うん…。でも、私まだ好きって言ってなくない?」と言ったら、「やっぱりね。Hの最中に僕が好きだって言ったら“私も”って言ってたし、寝てる時に僕のこと好き?って聞いたら“大好き”って言ったから、気持ちを知ることは出来たんだけど、ひょっとして覚えてないんじゃないかと思ったんだ」って笑ってた。

顔が真っ赤になっていくのが自分で分かった。そして、また陵の胸に埋もれた。

 そしたら、今度は真面目な声色で「ところで僕さぁ、結構、紗由実の情報は色々聞いているんだけど、初Hの相手はだれ?」って、言われた。

私は困った。

彼氏なんて陵が初めてだ。でも…。悩んでいると「紗由実が僕を信用できたら話してくれればいいよ」と言ってくれた。

私はそう陵が言い終わると同時くらいに話し始めた。


「違うの。陵の事は信用してる。でも、怖かった。自分でも消してしまいたい。私がむっちゃ荒れてたの知ってたでしょ?その頃は、死にたくなるほど自分がどうでも良くて、ダメだって言われることをどんどんしたくて、できるだけ反抗したかった。早く大人になりたいとも…。そして、そういう行為に調度、興味が出てきた頃だった。そこに、前に引っ越した泰雄って大学生いたでしょ。そいつに誘われたの。もっと大人に近づくにはHしなきゃって言われて…。んで、たまたま従兄弟の部屋で二人になったときに…。でも、キスもしなかったし、急にいれてきて、痛くて、生でやられてて、気がついたらお腹の上にアイツの…」

陵は私を強く抱きしめた。そして「そんなのHでもなんでもない!そんなの忘れろ!いいか、Hって言うのは今日、お前とオレがした行為だ。お前は今日始めてHしたんだ。」そう言った。

私は泣いていた。初めてだった。涙がす〜っとこぼれた様に頬を撫でていった。

 陵は私に色々な感覚を教えてくれた。


 そうして、私たちのデートは回数を重ね、私は陵に開発されていった。

そこで私は、ずっと疑問に思っていたことを聞くことにした。「ねぇ、陵ちゃんって何人くらい経験あるの??すごくこういうの手馴れてるよね…?」と。

すると、ちょっと気まずそうに、


「気になる?あんまり人に言えた話じゃないんだけど、中学受験から家庭教師を親が頼んでてね。大学生の女性だった。中学三年くらいになると、僕はその女性に好意を持つようになった。そして、高校に合格したら付き合ってくださいって、告白したんだ。でも、その答えは意外なもので、先生には彼氏がいる。でも、体の関係を持っている男性が他に二人ほどいるんだって。それで、愛してるのは彼氏だけど、彼氏とはHのほうは上手くいってなくて、すごく欲求不満を感じてるって。だから、陵君が高校に受かったらHしましょうって。僕も男だからね。目の前の自分好みの女性に、欲求不満だからHしましょう。そう言われて断ることはできなかったよ。そして、高校生になり僕と彼女は、一般的に言うセフレって言う関係になったんだ。でも、僕は初めてだし、なにより彼女は主導権を握ってHするタイプだった。でも、高校を卒業する頃には僕もそれなりに経験が増えたし、自分なりに自信がついてきて、逆に彼女の主導権を握ってやりたいって思い始めたんだ。そして、良く彼女を観察し始めると、僕は意外と冷静だった。あぁこうすれば良いんだ。とか、反応を見て行動する余裕が出来た。そして、今に至るって感じかな。彼女とは大学に行くのに地元を離れるときにそのまま終わったよ。だから、普通の同級生よりは…。って感じ。」


そう言って、遠くを見ていた。

なんか、陵が哀しそうな目をしたように見えたから、「変な事聞いてゴメンネ。でも、陵が好きだから、何でも知りたいの。そんなことで嫌いになったりしない。」そう言ったら、続けて陵は話し始めた。


「前にもね、やっぱり同じような質問されて、その話をしたら、愛のないHができる男は絶対に浮気する。セフレがいた男なんて信用できない。そういわれてふられて。でも、僕は少なくともそのときその時、好きじゃない人を抱いたことはない。思いは届かなかったし、それでもそういう関係を引きづった僕が悪いのは分かってるけど、僕はずっと彼女が好きだったんだ…。でも、そう言われて始めて、自分は非道徳なことをしてしまったんだって、気づかされた。僕はずっと女の子から“セフレのいた男。”そう思われるんだってね。だから、それ以来彼女っていなかった。こういう話をするのが怖いし、でも上手く誤魔化せるほど僕は大人じゃないから。」


始めて私は陵の弱い面を見た。

でも私は、そんなトラウマになっている話を自分にしてくれたっていうことが嬉しかった。


 陵と付き合い始めて、数は減ったけど、愁也や梨香とも遊んだ。

 でも、ある日梨香のアパートに遊びに行って、手料理をご馳走になった後、急に向かいに腰をかけた梨香が、私にキスをした。

これにはひどく驚いた。

そして梨香は「私は同性愛者だけど、紗由実をそういう目で見たことはなかった。でも、やっぱり美味しそうにご飯食べてる紗由実を見たら急に可愛く見えちゃって…。ダメかな?愁也と紗由実の従兄弟だって付き合ってるけど、紗由実の従兄弟は彼女だっているじゃん!私も、紗由実と陵が付き合ってても構わないから。」そういって、押し倒された。

スポーツをしてるせいか、梨香は意外に力があって、スカートに手を入れられて太ももを触られた。でも、私はつい弱い部分を触られて、体が反応してしまった。

その反応を梨香は見逃さなかった。続けて首にキスされた。でも、スグに梨香は離れた。

そして「やっぱり陵には適わないや!前に酔っ払った時にふざけて触ったときには、ここだってここだって何ともなかったのに…。紗由実さぁ、陵に大事にされてんだね。」そう言った。

 私は恥ずかしいような、何ともいえない気持ちになった。

そして、「気持ち悪いでしょ?愁也でも迎えに寄越すよ。二人で車乗るのいやでしょうから。」そう梨香が言ったから、私はこんなことで梨香との仲に亀裂が入っては…。と思い、「ううん。梨香が送ってよ!全然構わないよ。確かに驚いたけど、嫌いにはならない。だって、途中で辞めてくれたじゃん。梨香とは意味が違うかもだけど、私だって梨香のこと大スキだよ。」そう言った。

梨香は振られた相手にそんなこと言われたの初めてで、むしろ今まではその相手には避けられ続けたって言って、ちょっぴり目が潤んでた。

 それ以来も、私たちの仲は変わらなかった。

彼女にはそれから少し経って、可愛い彼女が出来た。


 なんとなく、言いにくかったから、その時には陵には話さなかった。


 そして、その次の日、愁也に遊びに誘われた。

 足のない私は、従兄弟と一緒に愁也の家に行くことになったんだけど、立派なマンションで、一人で住むのにはもったいないくらいだった。キッチンとトイレ、お風呂、玄関・・それぞれが別々で、その他に部屋が二つあって、一つをリビングに、一つをプライベートルームにしてるみたいで、私と従兄弟は近くのスーパーで食材を買い込んで行って、料理の得意な愁也に、パスタを作ってもらった。愁也は従兄弟のことをゆうって呼んでて、普段は皆、祐治くんって呼んでるから、ちょっと新鮮だった。ご飯を食べて、一緒にソファーに腰掛けながら、色々話してて、私が梨香に襲われた話も、梨香本人から聞いたらしくて、半分笑い話になりつつも、愁也が話し始めたけど、同じ同性愛者の愁也を目の前に、私は何て受け答えしたらいいのかすごく困った。そして、微妙に会話が途切れてきたから、私はお部屋を探検してくるって言って、リビングを出て、ジャグジーバスとか、男の一人暮らしとは思えない、使われてる感じなのに、綺麗なキッチンとかを見て、最後にプライベートルームへ行った。そこにはワークデスクと、DVDプロジェクター、ベッドがあって、シンプルだった。そして、始めて見るプロジェクターに興奮して、棚に整頓されているDVDから、面白そうなディズニー映画を一本とって、かけた。


少しの時間が経って、明らかにDVDとは違う声が聞こえた。なんだろ?と思って、隣のリビングに行こうと思ったら、なんと、すりガラス製のドア越しに、ソファーの上で二人が抱き合うシルエットが見えたので、ちょっとバックした。すると、中から従兄弟が「馬鹿か!紗由実が隣にいるんだろ!!!」って言って、抵抗したらしい声が聞こえた。でも、愁也は離れることなく従兄弟に乗っかったままだったから、慌ててプライベートルームに戻った。一体何を考えているんだ。私がいるのにHをし始めた??私はちょっぴり混乱した。でも、すりガラス越しにシルエットがちょっと見えただけだし、キスで終わっているかも。とか思って、一応壁に耳を当ててみた。そしたら、二人は始まっていた。ビックリだ。従兄弟が受け身だったことにもビックリだけど、イタヅラ好きの愁也のことだから、きっと私と従兄弟の反応を楽しんでるんだ!と思った。私はDVDなんか頭になくて、壁から離れられなくなった。二人の関係は知ってたし、大体の想像はついていたからか、気持ち悪いとか、そういう感覚はなかったけど、しばらくたって、やっぱりこれはいけない。と思って、大人しくDVDを見始めた。


さっきまで自分が耳をつけていた白い壁一面にプロジェクターが映し出す映像をぼ〜っと見ながらベッドに横になり、ちょうど陵がお昼休みの頃だろうと思って、電話した。そして、けっこう頭がいっぱいで、前日に梨香に襲われた話から、今の状況まで一気に話した。そして、昼休みが終わっちゃうから、とりあえず今は大人しく終わるのを待っていて、仕事終わったら愁也の家に行くから、待っててと言われた。そうしている間に二人の情事は終わったらしく、愁也が部屋に来た。私はすかさず、「信じられない!隣で何やってたの!?」って言ったけど、愁也は悪びれる様子もなく「ごめんごめん!ついね。ゆうはお風呂入ったからリビング戻っておいで。」そう言われた。そしたらお風呂場から従兄弟が「お〜い愁也!!オレの服どこだ?」って叫んでいるのが聞こえた。愁也は私といるリビングから「洗濯機の中だよぉ!汚れちゃたから洗った。乾燥までして、あと三時間くらいかかるから、俺の服着てろ!棚の上にあるだろ」って言った。もう、呆れて何も口に出なかった。そして、愁也に「聞いてたの!?」って聞かれて、私は正直に「途中までね。でも、途中で、陵が昼休みの時間になったから、電話してたから」って言った。そしたら私が陵に話したのを知ってか知らずか「げっ!陵怖いんだよなぁ。紗由実に関することには…。梨香のことだって、オレなら事前にとめられただろって、言われるはずだし…。もう、陵が迎え来る前にオレも紗由実のこと襲っちゃうぞ!!」って、意地悪っぽく言うから、私も意地悪っぽく「できるん!?」って言って返した。私たちはとても仲良しだ。だから、こんな状況でも、結局は笑って終わりになった。


もちろん、陵が私を迎えに来て、愁也にお説教をたれたことは言うまでもないけど、陵も愁也の性格は知ってるから、最後は「それで、紗由実に聞かれてると思って、大興奮ですか?」とか言って、呆れつつも三人で笑ってた。

 こんなやり取りも。きっと同級生同士ではありえない素敵な時間なんだ。たまに、仕事の話とか、大人の会話にはぐれて、聞いてることしか出来なくて、ちょっぴり寂しいけど、それでも、私はこっち側にいたいと思った。帰り際に愁也が私に「今度はラブホ付き合って!男二人じゃ入れないトコあるんだよ。」そう耳打ちした。私はまた陵に怒られるよ。と思いつつ、面白そうだから「OK!」って答えた。


 帰りの車で陵が「紗由実は隙がありすぎだって、いつも言ってるだろ!その、信頼しきってるっていう目線で見られるのって、見られる方からすれば、すごく快感なんだよ。変に誤解されても何も言えないよ」そう、諭すように言った。私は「そんなつもりないもん…。大体、信用してる人自体が陵と梨香と愁也しかいないし…」と、つぶやいてみたそしたら、陵が私の肩を抱き「分かってる。そういう紗由実が、愁也も梨香も僕もすごく好きだよ。でも、そういう話を聞くと、やっぱり心配だから。あと、愁也と祐治君が一緒に出かけるときには、一緒に行かないほうがいいんじゃないかな?特にラブホはね!男同士じゃ入れないだろ?でも、紗由実がいれば入れるから、つき合わされるよ。」そう言って、私の目を見た。私はビックリした。愁也との会話が筒抜けだったのかな…?と、何も言わない私を横目にまた陵は「大体予想はつくんだよ。」そう笑った。陵って、意外と切れ者なんだと思った。そういえば愁也も怖いって言ってたしなぁ。なんて思ってたら、家の近くに着いた。私たちはいつも家の近くでお別れだった。親にばれたりしたら大変だから。そして、お別れのキスをして車を降りる。キスはいつも陵からだった。でも、ここ二日は色々あったせいか、私も離れたくなくて、一度陵からされた後、今度は私から一度して、車を降りた。


 降りてから私は耳が、顔が赤くなったのが分かった。そして、すぐに次いつ会える??ってメールした。陵は会社の役員だから、あんまりまめには会えなかった。なんでも、祖父が建てた会社で、現在祖父は、会長って役職だけ就いてるけど、事実上は引退してて、お父さんが社長であり、実権を握ってて、陵も行く行くは社長を継ぐことになるらしいけど、今は一通り全部の部署を2年ずつ経験して、専務になって、お父さんの部署に入るんだって言ってた。でも、お父さんはとても厳しい人で、相手にNOとは言わせない人で、陵も逆らえないって言ってた。前に、陵はお父さんのこと苦手?って聞いたことがあるけど、陵は、むしろ苦手って言うほど話したことないって言ってた。う〜ん…やっぱり凡人には分からない世界かもって思った。だから、ただですら土日しか会えないし、私が親に怒られちゃうから、日帰りしなきゃいけないし、お泊りとか出来ないのに、下手すれば二週間とか会えない…。寂しくて、わがまま言っちゃいそうだから、あえて次の約束はメールですることにしていた。でも多分、陵がお願いするんだろうけど、会えない週は土日のどちらかは愁也や梨香が遊びに誘ってくれた。だから、私も陵が私と会う約束の日に急に仕事で後輩がトラブル起こしたって言えば、行って来てあげなって心から言えたし、どうしても今月中に終わらせたい仕事があるって言えば、そっちを優先してもらった。


 陵が、会社のことをいつも考えてて、仕事が好きって言うのは、話しの随所から分かってたし、デート中つまり土日にも、携帯が鳴って、後輩から仕事の相談を受けたりしてて、きっと職場でも頼りにされてるんだろうって思うと、自分のことじゃないのに嬉しくなった。やっぱり私のダーリンは最高!なんて、肩に抱きついて電話が切れるまで待った。そして、しばらく会えなかった後の久々のデートは、私にとってサプライズだった。レストランに予約入れててくれて、ランチした後に、大好きな映画に連れてってくれたりして、最後は最高の夜景を見せてくれて、甘いひと時を過ごす。私は愁也と陵に連れてってもらって以来、その景色から見る星空がたまらなく好きになった。星座も分からないのに、星が大好きになった。いつか私が「星はすごく気持ちが安らぐから好き。陵ちゃんと同じくらい好きかも。」そう言ったら、陵は「僕は月派かな。だって、紗由実って一緒に買い物行って、トイレから待ち合わせ場所に戻れなくなっちゃうくらい方向音痴でしょ。でも、月なら紗由実でも迷わず見つけられるから、僕は月になりたい。いつも迷わずに紗由実が俺の元に来られるように。」そう言った。思わず陵の胸に飛び込んで、その後は月に釘づけになった。その日から、月でさえも私の特別になった。その日はちょうど満月で、私は満月を見るたびに陵に会いたくなった。後で愁也に話したら、二人ともロマンチスト?って笑われたけど、実際、そうなのかなって思っちゃった。今までなら、気持ち悪い!とか言ってそうなのに、全然そういう気がしなかった。


 陵とはボーリング、カラオケ、ゲーセン、映画、遊園地、動物園・・色々な所に行ったし、愁也や梨香も一緒にバーベキューしたり、花火大会行ったりもした。でも、私は陵の家へ行ったことがなかった。行ってはみたかったけど、陵から誘われない以上、何か理由があるのかなって思って、ずっと言わなかった。でも、どこに出かけるのも飽きてきて、デートで少しドライブしたながら、この後どうする?って状況になった時に、陵が「家来る?最近は愁也くらいしか入ったことないんだけど。」って言うから、もちろん行くことにした。そしたら、愁也ほどの大きさじゃないんだけど、立派なマンションだったでも、どの部屋にも表札がなくて、「皆空き部屋なの?」と聞いたら、「実はこの階に全部で4部屋あるんだけど、住んでるのは僕だけなの。父が僕が女でも連れ込んで、変な噂が立つのが嫌だって、貸し切ったんだ。だから、そもそもこの階でエレベーターから降りるの自体が僕だけ。でも、一人でそんなにたくさんの部屋を使うことがないから、一部屋しか使ってないんだけど、前に大学の友達を連れて来たら、その話しが広まって、使ってないなら隣の部屋を貸してくれとか色々言われて、大変な思いしてから、愁也しか連れてきてない。あいつもすごい立派なマンションに住んでるから“どんな家の息子だ”って詮索されるの嫌で、友達を家には呼ばないから、仲間っちゃあ仲間だからね。それに、父の思う通りになるのが嫌で、女の人を連れこんだこともないんだ。でも、紗由実なら何言われてもいいやって思ったから。」そう言った。やっぱり陵の家ってすごいお金持ちなんだ。マンション一階が貸切なんて、テレビの世界だと思ってたけど、意外にも自分の彼氏の話だったことに驚愕した。でも、そんな陵の家の一角に踏み込めた気がして、嬉しかった。


 部屋の中はとてもシンプルで、陵らしいと思った。棚とかそういうのは全部メタルラックで統一されてて、広めのリビングにあるのはテレビとソファーと小さなテーブルだけだった。そこで、私たちは借りてきたDVDを見た。見終わってお腹が空いたから、ピザの宅配を頼んで、食べた。そしたら、お腹がいっぱいになったせいで急に眠くなって来て、陵の腕の中で、膝に座ったまま寝てしまった。目を覚ますと、まだその体勢のままで、陵が私を膝に乗せたままで、私の頭にこぼさない様にと、体を不自然にひねりながら、頑張ってピザの残りを食べていた。私は起きてすぐだって言うのに、爆笑した。ほんの十五分くらいの話しだからって言ってたけど、「下ろして食べればよかったのに。」って言って、また笑った。その後、陵が「一緒にお風呂入る?」って聞くから、初めて一緒にお風呂に入ることにした。お湯を張って来るから待っててって言って、陵はお風呂場に行った。いつも何でも準備してくれるのは陵だったから、普段はそのまま待ってるんだけど、私は少し経ってから、そういえばここは女の子らしく手伝ったほうがいいのでは?と思い、かなり遅れて立ち上がった。そして、お風呂場に行ったらビックリ。泡ブクブクだった。私はこういうのに憧れていたので、服のまま飛び込みたいと思うほど、喜んだ。陵はそんな私を見て、「前にラブホでライトがピカピカのお風呂見て喜んでたから、こういうのも好きかなと思って。」そう言った。陵は本当に私のつぼを完璧に押さえてるのだと感心した。


 お風呂は最高だった。泡で遊んだり、背中を流してあげたりした。お風呂でそのままHもした。その後、服を着ないで、タオルだけ巻いてお風呂を出て、プライベートルームへ移動した。そこは愁也の部屋と同じで、ワークデスクとベッドがあるだけだった。私たちはベッドでHを再開した。お風呂で既に何回か果てていた私は、ベッドでの情事中に快感に耐え切れず、意識がなくなった。目を覚ますと、普通に布団をかぶって寝てた。陵は隣で起きていて、私の頭を撫で、髪の毛を触ってた。私は髪の毛を他人に触られるのがくすぐったくて苦手だったけど、陵に触られるとくすぐったいってわけじゃなく、体中が熱くなった。私は途中で意識がなくなってしまったことを詫びて、初めて陵に自分から奉仕した。それからは、クリスマス、陵の誕生日なんかはしてあげることにした。私から陵への精一杯の気持ちの表れだった。


 その日以来、私たちは毎回一緒にお風呂に入ることにした。二人で買い物に行ったときに、色々なお風呂グッツを買いあさって、子供みたいに遊んだ。お風呂クレヨンっていう石鹸で出来たクレヨンを買ったときには、壁にハート書いたり、相合傘を書いたり、小学生みたいなことをして、喜んでいた。お風呂はどんなに汚しても平気なので、ローションって言うぬるぬるした液体を使ってHしたりした。何をしていても楽しかった。あまり子供の頃に友達と遊ぶってことがなかった陵はすごく楽しいって言ってた。その笑顔が大好きで、離れたくないと思った。


 それからも、ずっとずっと喧嘩もなく私たちはラブラブだった。むしろ、私が何かで怒っても、陵が笑って「じゃあ、こうしよ!」なんて、譲ってくれるから、喧嘩にもならなかった。そんな幸せ絶頂の日々は私が高校二年生になるまで続いた。


 春のある日、デートで花見に行った公園で陵が神妙な顔つきで「大事な話がある。」って、言ったまま歩き出した。私はいつもと様子が違う陵に違和感を覚え、黙って着いて行った。陵は少し小高い所にある、周りに人のいないベンチに腰をかけたので、私も隣に座った。いつもなら腕を組んだり、ひざに座ったりするんだけど、その日はそういう雰囲気ではないと思った。少しの沈黙の中、陵はゆっくりと話し始めた。


「紗由実には心配かけたくないって思ってずっと言わなかったんだけど、いや、僕自身もそんな話を真に受けてはいなかったんだけど、僕には親が決めた婚約者がいるんだ」


…。私は返事もすることなくただ陵を見つめた。なんとなく想像はしていた。


 梨香と愁也も婚約者だって、前に二人から聞いていたから。私には信じられないけど、彼らは子供のうちに、親同士が婚約を決めるのだと。私は梨香に「何で嫌だって言わないの?おかしいよ。今時そんな親が決めた相手と結婚だなんて、戦国時代とかじゃないんだから。」そう言った事がある。そしたら梨香は、「もともと私と愁也は遠い親類で、私の祖父の前の代くらいは一つの会社を共同経営していた仲らしいの。それが祖父の代で枝分かれして、別々になった。だから、同い年に生まれた二人を行く行くは結婚させて、そのついでに二つの会社を元のように合併して、大きくしたいって、お互いの親が考えていたんだよ。だから、生まれた時から決まっていたようなものだから。」そう、普通に答えた。私には全く理解できなかったけど、愁也も同じようなこと言ってて、「梨香の話に付け加えるとしたら、俺らの母ちゃんたちもそんなんで、大きな取引先の家だからとうちに嫁継いできた。そんなふうに、代々会社の為に子供利用したり、犠牲にしてきているのに、自分たちの代で私欲で終わらせるのは出来ないな。」って。私は益々理解が出来なくて、「だったら、別に今のままだって合併したらいいじゃん?」って言った。そしたら愁也がまた、「それはどちらかの会社にとってマイナスになるんだ。合併した後、どちらの社長がその会社の社長になるのかとか、色々な取り決めを行う際に、どちらが決定権を持つかと…。そして、社長にならなかった方の、社長は“相手の会社に吸収された”とか“会社を乗っ取られた”と言われる。それを恐れてるんだ。でも、二つの会社の社長がたまたま男女で、結婚して、合併したってことなら、変に思われることなく、めでたい!で話しは済み、決定権は男であるオレが持っても、何も言われないからね。」と答えた。


私は陵の話を聞いて、そんなやり取りを思い出した。


そして、ゆっくりと口を開き「それって愁也たちと同じ!?」そう呟いた。陵は一瞬驚いたような表情をしたけど、すぐに真顔になって、


「そんな感じ。聞いていたんだ。驚いたよ…二人がその話ししたの俺と祐治君にだけだと思っていたから。ただ二人と違うのは、僕の婚約者には兄がいて、会社はその人が継ぐから、合併はしない。ただ、とても大きな取引会社で、父はその娘と僕を結婚させて、自分の会社の安泰を願っているんだ。そして、先方も乗り気でその話が決まった後には、自分たちの会社があり続ける限り、御社との契約をし続けよう。とね…それで、僕は中学生の頃に“お前には婚約者がいる”そう父に言われたけど、まともには聞いてなかったし、そんな会った事もない人と結婚なんてするわけがない。そう思ってた。なにより、昨日父にその話をされるまで、忘れてた。それで、その話しの内容なんだけど、僕たちももう、結婚適齢期だから、秋に婚約を正式に双方の会社で発表するから、それまでに身辺の整理をしておけ。そういう内容だったんだ。僕はもちろん反論したよ。そんな急に言われて、ハイそうですかって言える訳がないだろ。そしたら、父は僕を脅してきた。“婚約を解消したら、取引を切られる。それがこの会社にとって、どれだけ痛い損害か分かるだろう?それに、そんな奴は勘当だ。お前は何不自由ない生活をしてきた。それが、身一つで社会に出て、耐えられるわけがないから、馬鹿なことは考えないことだな”って…。でも、今のような生活は出来ないけど、それでも、こんな年上の僕でよかったら、一緒に家を出ないか?会社も家も捨てる。一緒になろう。」って…。


私は泣いていた。どうしたらいいのか、何を言ったらいいのか分からなかった。

私の答えは、考えなくてもスグだ。陵と一緒にいたい。

でも、私がいなければ…。でも、そんなのできっこない。でも・・でも・・。“でも”という言葉が頭をいっぱいにした。


お互いに無言の状態が続いた。でも、陵は私の答えを待ってると感じた。だけど、やっぱりそんなに簡単に答えが出せることじゃないっていうのは、私にだって分かった。その答えが、陵という一人の人生を変えてしまうのだから。


私は考えた結果「夏までには返事するから、この話しは保留にしといて!」そう言った。その日から、心につっかえたものがあって、夜も寝つきが悪くなって、学校行っても何もする気が起きなくて、急に気持ち悪くなって早退したりが続いた。


ある日、元気がないのを心配した、愁也と梨香にドライブに連れててもらって、そこで私は洗いざらい話して、出ない結果に心のもやが晴れないって、涙した。愁也はティッシュを黙って出してくれて、梨香は肩を抱いてくれた。すごく救われた気持ちがした。そして梨香が「私たちは、そんなに結婚っていうのを深く考えたことないから、紗由実のその葛藤がわからない。でも、二人が共に幸せになれない結果なら、私は自分の幸せを優先するな。」そう言った。私は梨香らしいと思いつつ、変に“その気持ち分かるよ”なんて同情されなくて良かったと思った。「ありがとう」そう言って、覚悟を決めた。


愁也たちに会った次の週、陵とデートをした。

その日は、一日ドライブをした。別にこの間の話なんか、なかったんじゃないかと思うくらい普通だった。そこで何かの拍子に、お互いの夢について語り合った。私は「大きくなくていいから、二階建ての一軒家を建てて、優しい旦那さんと、可愛い子供に囲まれて暮らすこと。あぁ、家には大きなわんちゃんが庭を走り回ってて」なんて言った。本気だったのに、陵は爆笑してた。そして、やっと笑いが収まった頃に「僕は、早く会社をついで、そしたら結婚して家庭を持つ。会社は規模を大きくとかそんなのいらないから、従業員と俺ら役員、みんなが一つになって、大きな企画を完成させたいんだ。そして、子供には将来なりたいものになって欲しいんだ。僕は、別に次の社長は自分の子供じゃなくたって構わないんだ。会社を大切に思ってくれる社員に明け渡したって構わない。」そう言った。これが夢ってことは、今は全然そんな状況じゃないのかぁ…。って思って、ちょっと反応に困った。そして、少し間が空いて陵が再び「でも、これは昔の夢ね。今は、大好きな人が隣にいてくれれば、どんな未来でもいいってそう思う。」そう言った。私は、一日忘れてた、例の話を思い出して、また泣いてしまった。


また少しの沈黙があり、陵が「最近僕、紗由実のこと泣かせてばっかだね。僕が紗由実を守るって言ったのに、ごめんね」そう言って、私の肩を抱いた。私は背中に陵の熱を感じ、口を開いた。

「私が泣く理由分かる?陵が好きだからだよ。いくら私が涙もろいからって、好きでもない人の為にこんなに悲しくならない。そして、私が陵をこんなに好きなのは、陵が今まで私を大切に守ってきてくれたからだよ。」そう、半分叫ぶように行った。私のせいで陵がこんな目に遭ってるのに、謝らないでと心の底からから思ったからだった。


その日は、珍しくHをしなかった。


そうして、私は結局、陵に答えを言いだすきっかけをつかめないまま、前に家に着いてしまった。


 次の週もデートした。やっぱり今までみたいな、何事もなかったかのようなの雰囲気で、その日は陵の仕事の都合で夕方からだったけど、二人でご飯を食べて、他愛のない話をして、星空を見に連れてってもらった。私は今度こそ答えを言おうと思った。言うならここしかない。私たちの始まりの場所だから。でも、ここに来て、芝生の上に三角座りをして、星空を見ながら、言い出す機会を伺っていたところで、まだ少し冷え込む外気に私の体がブルって震えたのを見て、陵が裏から抱きついて温めてくれた。こんなことされたら余計に話せないよ…。そう思った。こういう、いつも私のことを見ててくれて、ちょっとした様子に気づいてくれる、そんなところがたまらなく好きなのだから。


この日も肝心なことは何も言えないまま、家に着いた。

自分でも、こんなに自分が気が小さいとは夢にも思わなかった。


あの、星空を見ても言い出せなかったんだから、きっと普通に言い出すのは無理だ。そう思って、違う方法を考えた。部屋にこもって、何日か考えた。そこで耳に入ったのが、私の大好きな女性シンガーのある一曲だった。


「 (前略) 未来を語る横顔 とても好きだったから

 その夢守っていくには 私がいちゃいけなかった

 (中略) この手を離さずに行けば どこまででも行ける気がした

 同じ道歩いていくと 疑うことなく信じた

 どうしてそれなのに私は どうしてそれなのに私は

 だけど私は・・・(後略)」


と言うものだった。私は、まるで今の自分たちのようだ。と思い、また涙が出た。でも、“これだ!!”と思った。


次のデートは、カラオケにしようと思った。でも、この時はひと月以上続いた体の不調と、初めて陵へ相談できないことが出来てしまったというストレスで、思考回路がおかしくなってしまっていた。


次のデートのとき、私は始めて自分から陵に「ラブホ行こう。」そう誘った。その時は、ただ陵と離れたくないって、一つになりたいって、それしか考えられなかった。でも、部屋に入ると私は、これから出す私自身の答えが怖くて、完璧におかしくなっていた。


部屋のドアを閉めると同時くらいに、キスをした。長い長いキスを求めた。

そして、シャワーも浴びないで、ベッドに乗り「早く!」そう急かした。

陵もそれには驚いたようで「シャワーいいの?」って聞いてきた。私は「いいの。」そう即答した。始めて自分から陵の上に乗って、陵のシャツを脱がせた。陵は「おい!」って言って、私をひとまず離そうとしたけど、私は「今日は私の好きなようにやるんだから」そう言って、続けた。私は、滅多にしないご奉仕を自分からした。陵も男だから、さすがにしばらく経つと準備万端だった。私は、そのモノに上から乗っかって、飲み込んだ。でも、少し動いたところで、陵に突き飛ばされた。すぐに、逆に上から腕を押さえられた形になった。そして、見たこともないような表情で「何するの?赤ちゃん出来ちゃうよ!?」そう怒鳴った。私は負けずに「私に赤ちゃん出来たら困る?そうだよね。未来がないもんね」そう叫んだ。自分でも最低な奴だと思った。そしたら、陵はさっきまでの怖い顔とはまた違った、不機嫌そうな、でも哀しそうな顔をしたまま、私に侵入してきた。私は暴れた。「やめて」そう叫んだ。そしたら、陵は「困るのは紗由実だ。」そう言って、私を解放し、シャワーを浴びに行った。私はベッドで泣きはらした。声を出して泣いた。始めて見た陵ちゃんの怒った顔。私がした最低な行動。全てが私の頭の中でリーピートされた。私は今まで、人に本気で謝るってことをしたことがなかった。でも、今がその時だって思った。そして、慌ててベッドから下りた。本当に後悔していた。すぐ近くのドアへ行くのに足がもつれた。


シャワールームのドアを思い切り開けた私は「ごめんなさい!!」そう叫んだ。シャワーを浴びていた陵は、ビックリした顔で振り返り、私にすごい力で抱きつき「僕こそゴメン。そこまで追い詰めたのは僕なのに、僕は最低なことをした。」そう言って、声を枯らした。私も大号泣した。そして、強く抱きついてくる陵の肩に自分の手を回した。しばらくそのままだった私たち。どれくらいの時間が経っただろうか。私たちは出しっぱなしのシャワーが頭上から降り注ぐのなんか気にもせずに、濃厚なキスをした。そして、ゆっくりゆっくり、初めてのHを思い出すようなHをした。何回も何回もした。私が立てなくなって、意識が遠のきそうになったので、ベッドに戻った。また何回かした。そして、私のベストポジションである、陵の胸の中に、丸くなって寝た。


目を覚ますと、いつものように私の髪を撫でている陵がいた。

幸せすぎて、またちょっぴり涙がでた。そして、私は最初で最後の「愛してる」という言葉を伝えた。陵は私のおでこに軽いキスをして、頭を抱いていた。


そして、その時が来た。私はラブホを出て車に乗ると、「カラオケに行きたい。」と言った。

行きつけのカラオケ店の中、私は緊張に耐え切れずに、甘いアルコールが飲みたいって言って頼んでもらった。陵は運転なので、ウーロンだった。そして、しばらくは普通にお互い歌った。陵がある男性シンガーの曲を歌ったのがとても印象的だった。その歌詞は私の心に歌いかけてきた。


「(前後略)ぼんやりと見つめてる空を いくつもの風が運ぶ

 何もないことが 二人だけの幸せだった」


私は、この曲の後にアノ曲を入れた。そして、前奏のときに陵に言った。「この曲が、今の私の答えであり、私の気持ち。良く聞いてて。」そして、歌った。途中で涙が出そうになって、堪えた。なんとか最後まで歌いきった。


陵は、私の手を握り「分かった。自分には紗由実を幸せに出来る権利はないから、止められない…ありがとう。」そう言っいながらも、強く私の手を握ってきた。私はこのまま泣いてしまっては、自分の気持ちに嘘をつけずに“ずっと陵ちゃんと一緒にいたい”そう言ってしまう。そう思って、必死で我慢した。


その後、私たちは始めて、車内で一言も話さないまま、家に着いた。そして、始めて二人で出かけて、最後に別れのキスをしなかった。そう、もう私たちは彼氏彼女ではない。そう思い、陵の車が見えなくなると同時に、泣き崩れた。


外が暗くなって、近くの街灯が点いてもまだ、そこを離れられなかった。親から怒りの電話が来たから、家のすぐ近くにいたのに、「友達と市内に遊びに行って、帰りの電車を逃しちゃった。そしたら、友達の親が迎え来てくれて、夕ご飯をご馳走になることになったから、遅くなるから。」そう、嘘をついた。でも、どこかに移動する足もない私はどうしようもなくなって、梨香に電話した。そして、「陵ちゃんを振っちゃった」そう言って、また泣いた。梨香かは三十分くらいで来てくれた。梨香の家からうちまでは急いでも、四十分くらいかかるはずだった。きっと、私のただならぬ様子に、かっ飛ばしてきてくれたんだと思う。助かった。私は泣きすぎてフラフラしていた。


車に乗っても、泣いていて何も話さない私に梨香は「どうしたって言うの??しかも、振った!?意味が分からないよ。あんなに仲良いのに…。」そう、痺れを切らしたって感じで聞いてきた。だから、私は梨香にきちんと気持ちを説明するために、なんとか涙を堪えて、鼻水をふいた。そして、陵本人に話せなかった気持ちを話した。


「私は、陵ちゃんと一緒に居たい。でも、それにはやっぱり陵ちゃんが家族と会社を捨てなきゃいけない。私は陵ちゃんが会社を継ぐために頑張ってきた姿を見てるから、そんなことは出来ない。でも、陵ちゃんは私といる為に捨てるって言う。このままでは中途半端に二人とも良くない方向に進んでしまう。この際、大人しくお父さんの言うとおり結婚して、それでも私を囲って欲しいとか、色々考えた。でも、どれも陵のためにも、もちろん私のためにも良くないことは明らかだし…。」


涙ぐんで私が話すと、いつも冷静な梨香が「だからって、紗由実から!」って怒った。

私は二の句を梨香が言い始める前に、付け加えた。


「相手が陵だから。普通は陵の立場なら、障害になる女が自分から身を引いてくれれば、迷わず会社とか、都合のいいほうを選ぶでしょ?でも、陵は優しいからきっと私が、私のことは忘れて。って言っても、聞かないでしょ?だったら、こっちから振るしか手はないって…。しかもね、私最後に陵に最低な事したんだよ。陵に襲い掛かって、赤ちゃん出来たら困るくせにって・・って…。なのに、陵が泣いてた。」


梨香は今度は何も言わずに「そっかぁ…もう紗由実は決めたんだね」そう言った。私が頷くと、「実は今、愁也の家に陵が来てて、大体の話は聞いたんだ。陵があんなに落ち込んでるの始めて見たし。それで、紗由実の気持ちしだいでは私と愁也で二人を復縁させようって言ってたけど、そんな簡単な問題じゃないみたいだから。」そう言って少しの沈黙が流れた後「もう大丈夫?誰かに話すとスッキリするでしょ?」そう言って、綺麗な顔で微笑を浮かべていた。私は「うん」そう言って、少し笑ってみた。まもなく家の近くに車は戻って来た。そして、私は「ありがとう。」そう言って梨香に軽く抱きつき、車を降りた。


家に帰り部屋に篭った。独りでいると、陵のことしか考えられなかった。

部屋には陵が誕生日に買ってくれたカーテンがかかってて、一緒にゲーセンで獲った熊のぬいぐるみがあった。携帯を広げれば、二人のメールのやり取りが全て保存されていた。もうかかって来ないであろう電話。その着信履歴まで消せなかった。一週間が経っても、一ヶ月が経っても、私の頭の中は、気づくと陵との最後のHをしたラブホと、別れの場所に戻った。私は陵のことを少しでも近くに感じたくて、陵と同じ銘柄の煙草を吸い始めた。

 梨香や愁也から何通もメールが来てたけど、返事を返そうとすると、頭に陵の名前が出てきた。三人との思い出が蘇った。二人との思い出には全て陵が出てくる。どうしても、返事が返せなくなった。


 私は、何かで気を紛らわせようと、しばらく連絡を取り合ってなかった飲み友達の数人に連絡を取った。そのうちの一人と飲みに行く約束をした。最初は普通に飲みに行く予定だったけど、飲んでいる途中でそいつにホテルに誘われたから、Hした。そしたら、Hしてる時には何も考えなくて済むって事に気づいた。連絡を取った数人の男、その全員と会って寝た。


一人は私を好きになったって、告白してきた。こんな、荒れた私、ホントの私じゃないのに、好きなんて可笑しいし、彼氏なんて要らないから、断った。

一人はセフレになろうって言って来たから、OKした。

一人は食事を割り勘しようって言ってきて、私はそういえば、陵ちゃんと一緒の時は、一銭も出したことないなぁ。って、つい考えちゃって、私に陵のことを思い出させたから、頭にきて、財布の中にある札を投げつけて帰って来て、それまでだった。


 セフレとは普通にそいつの友達とかを呼んで一緒に遊んだりもした。まぁ、最後は結局、そいつとラブホに行くことになるんだけど。でも、その友達の中に、私によく構って来る男がいた。私は彼に告白された。嫌いなタイプじゃないし、何より「まだお互いよく知らないし、好きとかって分からないから、とりあえず付き合ってください」っていう、告白に、それなら良いかぁって気になった。私も“好き”って言う気持ちが見えない状態だから。そして、彼と付き合い始め、セフレは辞めてって言われて、辞めた。彼は四六時中、メールをまめにくれるタイプだったから、寂しさも紛れて調度だった。でも、ある日彼と初めてHをした後に、「好き。」って言われた。私は「えっ?」って言った。彼は私が聞き取れなかったのかと思ったらしくて、今度ははっきりと「好き。」そう言った。私はこの後、彼に「別れよう。」そう言った。


今の私に、愛だとか好きだとかそういう感情はウザイだけだった。

そうして、自分から全てを遠ざけた私はまた、独りになった。


そして、ある日夢に陵が出てきて、私の頭を撫で、その後に「汚くなったな」そう吐き捨てる様に言った夢を見て、飛び起きた。涙がこぼれた。そう、私は汚くなった。何人もの男とHをして、私を思ってくれた人を簡単に裏切れるような、そんな奴になった。今度こそ、陵を諦められる。今までは、どこかで、陵も私のことがまだ好きなんだって、そう思ってたけど、こんな私を陵が思い続けていてくれるなんて、可能性は皆無に近い。そう思った。それからの行動は早かった。


アドレスも携番も消去。

メールも着信歴も消去した。


そして、もう吹っ切れたんだって、自分に言い聞かせるように、梨香と愁也に「心配かけてゴメンネ。もう大丈夫。」そうメールした。


 私たちは久しぶりに三人で飲むことにした。まるで陵と言う存在は、最初からなかったかのように感じた。二人とも、必死で気を使って「陵」と言う単語を出さないようにしてるに違いなかった。おかげで私も気が楽だった。でも途中で、「今までどうしてた?」って梨香に聞かれた。私は悩んだけど、「家に引きこもってただけ。」そう答えた。私はこれまで、親友って言うのは絶対的な信頼をおける者で、嘘ついたりとかそういうことはないって、馬鹿みたいに信じてたから、これが梨香たちについた初めての嘘だった。でも、まもなく気まずそうな顔で、愁也が「あのさぁ…」と、切り出した。私と梨香かは口を揃えて「何よ??」と言った。すると愁也は柄にも無く、口の中をゴモゴモとさせながら、話し始めた。


「風の噂で、紗由実が男たちを次々に食い荒らして、ポイしてるってオレ聞いて、まさか、陵のことで、そんなんなったのかなって思って…そうだったとしたら、陵に告白しろってけしかけたオレにも、少し責任あるんじゃないかって思って…。でも、梨香も紗由実のことすごく心配してたから、相談できなくてさ。しかも、なんか引きこもってた割には紗由実、しゃべりも雰囲気も違うじゃん?もしかして、本当だったのかなって。」 


私が初めて親友についた嘘は「風の噂」によって、三分も持たずにバレた。

梨香が私を痛いほどに見つめていた。愁也は申し訳なさそうに、下から私を見上げた。

私はとりあえず「ハハッ」とうすら笑いをしてみた…。でも、誤魔化せるはずもなくて、二人は私の方を見たままで、私は渋々と話し始めた。この人たちには、この世で二番目に聞かれたくなかったなぁって思いながら。


「本当だよ。私、陵を忘れられなくて、独りになりたくなくて、でも二人にメールしようと思ったら、陵のことを思い出しちゃって…。昔の飲み友達を飲みに誘ったの。そしたら、ホテルに誘われた。それで、Hした。そしたら、気づいたの…。Hしてる間は何も考える隙が無いから、陵を忘れられるって。だから、何人かの男と寝た。でも、皆私が陵を思い出すような行動や言動をするし、私彼氏なんてもう要らないのに、告白してくるし…。だから、皆断った。そしたらそんな噂がたったんだね。でも、今は皆嫌になっちゃって、また独りだから、安心して。」


そしたら、梨香が私の肩を鷲掴みして「じゃあ、何で今頃になって、私たちに連絡してきたの?また、独りが嫌だったから?」そう哀しそうな目をしつつも、怒りを露わにした。私はまた、その状況を打開するように、一拍おいてから微笑をして、言った。


「ううん。私、また気づいたの。それまでは、どんなことをしても陵は私を好きでいてくれるって心のどこかで思っていた。でも、こんな汚い私を陵はもう好きになりっこない。今度こそ諦めるしかない。ってね…。それで、今まで消せなかったアドレスも、メールも消した。そしたら、急に二人に連絡取りたくなってね」


すると、ずっと肩を掴んでた梨香の手が離れ、まもなく私は頬にチリチリとする痛みを感じた。何があったか分からなかった。でも、ビンタされたのだと数秒経って気づいた。梨香は泣いていたものの、もう一度腕を上げたところで腕を愁也に押さえつけられた。そして、今度は愁也が言った。「紗由実はどこかで、こういう結果を望んでいたんだろ?自分の気持ちが抑えられないなら、どうにもならない状況を作るしかないって。でも、それは二人にとって、一番不幸なやりかただよ。この風の噂って言うのは、実は陵から聞いた話なんだ…。」


私はさっき、二人にこの話をする時に“この世で二番目に聞かれたくなかったなぁ”そう思ったが、まさか、この世で一番聞かれたくない相手が、一番最初にこの話を知っていたとは思わなかった。まだ続きがありそうな愁也の話を遮る様に、私は「何で??何処から?意味分かんない」そう言って、取り乱した。今度は私が愁也に押さえつけられた。


「いいか、良く聞け!オレと陵が買い物へ行った時だった。陵の後輩だかなんだか良く分からない奴が、紗由実の元彼ですよね。そう言って近づいてきた。“自分は紗由実と付き合ってた。でも、あいつってホント最低ですよね。紗由実はオレの友達とセフレで、オレと付き合い始めて、二人の関係はやめてもらった。でも、そいつは紗由実が他にも関係がある奴が何人かいるって言ってた。だけど、自分は紗由実を好きだったから、信じてた。けど、一回だけオレもHしたんだ。そしたら、その後に「バイバイ」って言われて、捨てられた。友達の話は本当だったんだ。紗由実は誰とでも寝て、すぐにポイだぜ”ってね。陵はその時は何も言わなかったけど、後からオレに“紗由実はそんな奴じゃない”って言ってた。でも、オレがその話しが嘘ならいいけど、真実ならどうする?そう言ったら“もう一度、紗由実と話さなきゃ…。俺のせいだ」そう言ってた。でも、真実かどうか確かめられないことには行動できないってさ…オレ、やっぱり陵ともう一回ちゃんと話したほうがいいと思うよ」


話が一通り終わった頃に梨香が「私もそう思う。殴って悪かったけど、紗由実が辛かったのと同じに陵も辛かった。そうでしょ?…もし、陵に電話かけるのが怖いなら、愁也も私もついててあげるから」そう言ってくれた。私は色々な意味で泣いた。そして、「本当にありがとう。二人はやっぱり最高の親友だよ。今日はもう帰るね。帰って、陵ちゃんに電話しなくちゃ。やっぱりこれは二人の問題だから、私の口でちゃんと陵に話すよ。」そう言って、急いでお店を出た。帰り際に愁也に「おぉい!携番は?」そう聞かれた。私は「頭に入ってるから、大丈夫!」そう言って、手を振った。二人は私を笑って見送ってくれた。何度も陵に電話かけようと思って、電話帳を開いたまま画面とにらめっこしてたから、消した後も番号は頭に残っていた。


ドキドキした。

呼び鈴が七つ鳴ったのを覚えている。


「はい。」

そう聞いた、電話越しの久しぶりの声に、それだけで涙が出そうになった。何でこんな簡単なことが出来なくて、あんな馬鹿なことをしたのかと後悔もした。

「紗由実です。お久しぶり…。」

何だか、なんて切り出したら良いのか分からなくて、かしこまった言い方をしてしまった。

「元気してた?…。って、そんな訳ないか。噂で聞いたよ。僕のせいだったら、何て言って詫びたらいいんだろう…」

私は、自分ばっかり傷ついてると思っていたけど、私をこんなにしたのは自分だって、きっと陵ちゃんは優しいから、自分を責め続けていたに違いないと思った。私の中に、初めて罪悪感が生まれた。

でも、それと同時に私は自分で思っているよりずっと、陵ちゃんを諦めかけているのかなって思った。この時に“じゃあ、責任とって私と付き合って”って、陵ちゃんの優しさに漬け込めば良いと頭に浮かんだのに、そうしなかったから。

「陵ちゃんは悪くない…」

言葉に詰まった…。その間を陵ちゃんは黙って待っていた。

「私が弱いから、陵ちゃんに依存しすぎたから…。」

陵ちゃんはやっと口を開いた。

「今度は僕から紗由実を振るよ。紗由実一人に全てツライ役をを背負わせたりしない。僕、紗由実と別れてから、恥ずかしい話、睡眠不足と栄養失調で貧血を起こして、会社を何日か休むハメになって…。それで、母親が心配して一人暮らしの僕の為に、お手伝いさんを頼んだんだ。朝・夕ご飯を作ってくれるように頼んだ。掃除は自分でするからって断ったけど。その子はとても優しくて、僕の話を聞いてくれた。そして、泣いてくれた。恋愛感情は無かったけど、単純に嬉しかったんだ。それからは、一緒にご飯食べようって言って、作ってもらうだけじゃなくて、一緒に食べてもらうことにした。毎日毎日、一人のご飯がどんなに寂しいかって考えていたからね。そしてある日、その子は香月って言うんだけど、カヅに告白された。カヅは“陵くんが紗由実ちゃんをまだ好きならそれで構わないし、陵くんが結婚するならそれでも良いから、側にいさせて”って言ってくれて…でも、僕は紗由実にヒドイことをして、自分だけ幸せにはなれないって思ったから、断った。でも、カヅは“気持ちが変わるまで待つ”って言ってくれた。僕、OKするよ!」

そう言った。私は多少、寂しさを覚えたけれど、心のどこかですっきりした気持ちがした気がした。

そして、悲しみからか、怒りからか、それとも喪失感からなのか、どこの感情から出てきた言葉なのか自分でも分からなかったけど、なぜか「私カヅちゃんに会ってみたいな。」そう言った。陵は普通に「いつ会う?」って、聞いてきた。私の意外な答えにビックリしたに違いないと思ったのに。さすが陵だった。


 早速、次の休みに私たちは三人で会った。お手伝いさんって言うから、失礼ながら、もうちょっと年増の方かと思いきや、大学生ってことは、自分と変わらないってことに気づいた。調理学校に通ってるカヅちゃんは、料理が得意という事で、とりあえず三年間の専門学校を卒業するまでって、陵のお母さんと契約したそうだ。すごく細くて、白くて、なんだか、失礼な話、本物のお嬢様の梨香よりもお嬢様に思えた。話し口調もとってもおっとりしてたから、余計なのかもしれない。しかも、会ってまもなくカヅちゃんから私に抱きついてきて、「私よりずっとお姉さんぽいですねぇ〜。私なんか、全然高校生くらいにしか見られないのに。」って、話し始めた。てか、それで感動して、抱きついてきたの??変わり者だと思ったけど、なんか憎めない可愛い人だった。一緒にランチをした。私は久々に会った陵が、何も聞かずに普通に接してくれるのが嬉しかった。そしたら、いきなりカヅちゃんが陵ちゃんもいる目の前で、しかもファミレスの中で「陵くんって、H求めてこない人ですか?」そう言った。近くの席の人が振り返った。私と陵は「ちょっと!」と二部合唱をして、笑った。そして、ご飯は食べ終えていたので、私が「カヅちゃん次どこ遊びに行くぅ?」って、陵がお会計に立った間に外に連れ出した。幸い、陵ちゃんはお会計で前にカップルが二組いて、まだ戻りそうに無かったから、私も興味半分で「陵ちゃんとは、まだしてないの?」と聞いた。カヅちゃんは「聞いてくださいよぉ!」って、また私の肩に飛びついてきた。この子はボディタッチをする癖が激しくあるんだと思った。「私に手を出してこないんです。この間だって、目の前でパンチラしてあげたのに、まだキスも…」私は驚いた。そして、「カヅちゃんって、なんとなくウブそうだし、襲いにくいんじゃない?それに、大事にされてるんだよ!大体、陵ちゃんが本気になったら、意識飛んじゃうよ!?」って私は一人で笑った。カヅちゃんは「そんなぁ!!私だって元彼とHくらい経験ありますよ!でも、意識飛んじゃうって…ありえない!!」って、恥ずかしいくらい、叫んだ。でも、マジで膨れた顔が可愛かった。でも、気がづくと、一体いつから話を聞いていたのか、後ろに陵が立ってて、「二人で何の楽しい話しているのかなぁ??何か、卑猥な話を公道で堂々としていないかな?」って言って、私と私の腕にマスコットみたいにくっついたカヅちゃんの頭をポンって叩いた。三人で、笑った。こんな日が来るとは思わなかった。正直、二人に会うまでは、会ったらまた陵ちゃんのこと忘れられなくなっちゃうんじゃないかと思ってたけど、私はこの時カヅちゃんと陵が幸せになればなぁ・・って思った。

 大体、私が言えなかった“結婚しても良いから、側にいて”その言葉を平気に言い捨てたカヅちゃんに、私は会う前から敗北していたから。


 それから、私とカヅちゃんと陵ちゃんは普通にメールしたり、たまに会う仲になった。

カヅちゃんから、初Hの報告受けたときには、愁也と梨香にも教えてあげて、皆で笑った。カヅちゃんはその憎めない人柄が幸いしてか、いつの間にか梨香や愁也の心もゲットしてて、愁也の話によると、梨香がカヅちゃんに「陵と別れたら、私と付き合いなぁ!いいこといっぱいしよう。」っておっさん臭いプロポーズして、陵に怒られたとか、愁也も愁也でカヅちゃんのボディタッチがお気に入りで、肩に頻繁に抱きついてくるカヅちゃんに、フニフニしてて可愛いって言って、抱きつき返してふざけてて、梨香に蹴られたとか、色々聞いた。


 そして、数ヶ月が経ち、梨香と愁也が正式に婚姻届を出して来た話を聞いた。二人は仮面夫婦となって、同姓を始めることになったらしいけど、お互いの親の干渉が煩いって言うのと、早く子供作れっていう文句が頭にきたらしく、隣県に土地を買って、一戸建てを建てることにした。会社までは交通の便がいいから、電車を乗り継がないで行けるって言ってたし、親もそんなに暇じゃないから、あまり来なくなるだろうと。それで、二人は家が建つまで、その近くのマンションを借りることにしたらしく、引っ越すことになった。これからは、お互いの親が社長を退くまでに、色々と準備をしなきゃいけないし、ただですら私たちの溜まり場からは一番遠い二人だったから、それ以上遠いところへ引っ越したら、会えなくなるって言って、最後に仲の良い人だけ集まって、二人の偽装結婚と引っ越し祝いをかねて、パーティーをした。梨香が、左手の薬指を私たちに見せて「結婚しましたぁ」ってふざけて言った後、「僕たち一度もHをしてない、枯れた老夫婦のような生活です。」って、愁也が笑いを誘った。いくら男と女の関係にならないって言っても、幼馴染であり親友の二人は、そこら辺の夫婦以上の絆があると思った。私とカヅちゃんは、大号泣した。カヅちゃんはお得意の抱きつき攻撃を一人ひとりにしながら「さようならぁ。」ってしていて、私も「今までたくさんお世話になったのに、何の恩返しも出来ずにゴメン。でも、二人はこれからも私の親友だよ。ありがとう。」って、カヅちゃんの真似して抱きついた。それからまもなく、二人は引っ越していって、会うことはなくなってしまったけど、たまにメールすると元気そうなのが分かる。新しい家に梨香は彼女を連れ込んでるらしくて、独り身の愁也に絶えず小言を言われ続けてるって言ってた。なんか、想像できちゃうところがすごいけど…。


それからなんとなく、皆で集まるってことは少なくなった。ムードメーカー二人を失った今、イマイチ盛り上がりに欠けるところがあるような気がするのは、私だけじゃないみたいだった。


 それからしばらく経ち、今度は陵がカヅちゃんと別れたってメールしてきた。まもなく、カヅちゃんからも長い長いメールが届いた。二人のメールを読むところによると、やはり原因は、陵だ。って言っても、陵本人が直接的な理由って訳ではないんだけど、二人がデートしているのをたまたま陵のお父さんの乗った車に発見されて、お父さんが怒って「二人がこれ以上付き合っているようなら、相手の女の子を解雇にする。別れるなら、その子には我が家の方で働いてもらうことにしよう。」そういったらしい。陵はもちろん反論して「それならば婚約を解消する」って言ったらしいけど、やっぱり私の時と同じで、それは陵の為にならないと、カヅは「陵の為になら、学校辞めるからそんな事言わないで。」って言った。でも、カヅは母子家庭で、自分の学費はお手伝いをしてる給料から払っていた。それを、もちろん陵も知ってるわけだから、今度は陵が、それはカヅの為にならないと振ったらしいのだ。


何だか複雑なことになった。

むしろ、二人の相談相手が私って言うのが何より間違いではないか?とも思った。

陵は望まない結婚を前にブルーな感じで、しばらくらしくないこと言ってたけど、カヅちゃんは意外と強いタイプみたいで、少し経ってから「やっぱり、無理だったんです。その時はすごく好きだったけど、冷静になると、愛人なんて続くわけがない。早くに気が付いて良かったんです。」と言った。


でも、ここで私はまた新たな自分に気づいた。私ってやっぱり陵のこと好きなのかもと。しょげている陵をなんとか励ましてやりたいと思うし、別れてからもずっと冷静でなんかなかったんじゃないかと…。ちゃんと気持ちの整理がついていれば、今のカヅちゃんのように、陵に夢中になっていた頃を“あの頃は…”って過去に思えるはずだ。でも、私は違う。気づくと陵は今何してるかな?って考えてしまう。ただ、今まではカヅちゃんっていう、彼女の存在が在ったから、無理に気持ちを押し殺していただけなのかと。そう思ったら、居ても立ってもいられなくなった。


陵に「相談乗ったげるから、会おう。」そう言った。私はズルイ女なのかもしれない。こんな状況の陵に漬け込もうとしているのかもしれない。そう思ったら胸が痛かったが、私はそんな事を考えていると、また前の二の舞になってしまうと思い、顔を上げて歩き出した。


陵の家へ行った。私のことを信用しきっている陵は、私に色々話してくれた。私は思いっきり涙していた。陵も泣いていた。これは私が見る、二度目の涙だった。陵は優しい。前は私の為に泣いてくれて、今度はカヅちゃんの為に泣いている。結局、私はズルイ女にはなれなかった。泣いている陵を押し倒して、しまうことくらい簡単だったし、それが出来なくても、優しい言葉で陵を落とすことは、今なら簡単だっただろうと思う。でも、そう考え付いたのは家に帰ってからで、実際は力なく座って泣いている陵の頭を、黙って抱きしめてあげていただけだった。そう、いつも陵が私にしていてくれたように…。


 何かの本で、人間はお母さんのお腹の中で、お母さんの心音を聴いて育つから、心音を聞かせると、とても落ち着くのだと読んだのを思い出した。だから、私はいつも陵の胸に埋もれて、安心しきって眠っていたのか。なんて、ふと思い出しながら、私はしばらく陵の頭を抱いたまま、お膝立ちしていた。ふと、足がしびれたことに気づいて一まず離れてみると、陵はもう泣き止んでた。私はもう平気かな?と思って普通に陵に「いつから泣き止んでたの?私、足がしびれちゃったよ。ひょっとして、私の巨乳に顔をうずめて喜んでたんじゃないでしょうね?」なんて、意地悪っぽく言ってみた。そしたら、そこに居たのは私の知っている陵ちゃんで、「まぁね!」って笑ってたから、私は頭をポンって叩いた。陵ちゃんは後から「でも、すごい落ち着いた気がする。ありがとう!」そう言った。あぁ、私はこの笑みに弱いんだから、辞めてよねって思った。でも、心音の話は本当みたいだった。少しは読書してて良かったと初めて思った。


 それ以来、本当にカヅちゃんのことは吹っ切れたみたいで、話題に上がらなくなった。

私たちはその頃、よく電話をするようになった。そしてある日、いよいよ陵に「結婚」っていう言葉が重くのしかかってきたみたいで、その時も初めて相手の女性と対面してきた日だった。すごく陵を気に入ってくれてるみたいって話だったけど、陵はため息ばかりついていた。私が「綺麗だった?」って聞いても答えは「まあ。」の一言だった。でも、さすがは陵だった。意外と計画的で、結婚すると、お互いの親が建ててくれた新居に引っ越すようで、今のマンションはお父さんが借りてくれてるから、手放すことになるんだけど、大家さんに話をつけて、今住んでいる部屋だけ陵本人が借りることにして、憩いの場にする予定らしい。


 それからしばらく陵は、色々と忙しかったみたいで電話もメールもしなかったけど、代わりに久しぶりに愁也から電話が来て「陵の結婚式の招待状が来て、俺と後何人かの大学の友達で友人代表挨拶と、歌を一曲任されてるんだ。もちろん、オレは歌のほうなんだけど、紗由実が選曲してくれないか?」そういう内容だった。きっと、結婚式には呼ばれることにない私へ、せめてもの陵へのメッセージを伝えさせてくれようとしてるに違いないと思い、「一日待ってて!」そう言って、電話を切った。最初に浮かんだのは陵と別れた日に最後に陵が歌った曲だけど、それはちょっとバラードだから、結婚式には相応しくない気がしたから、その歌手の出している他の曲から、もっとアップテンポなものを選ぶことにした。歌詞カードをめくってたら、ちょうど、胸を撃つ歌詞を見つけた。即決でこれに決めて、スグに愁也にメールした。私はその曲をリピートモードにして、しばらく聞き続けた。


懐かしい夢を見た

あの頃は寄り添うように

あふれる孤独を皆で分かち合って-

大切なものが何かと

気づいたときには遅すぎて

過ぎ去った思い出はいつも眩しすぎて-

(中略)

キミが叶えたい夢なら

うつむいて泣いたりしないで-

(中略)

君の笑顔を見せておくれ

誰より素敵な僕のその笑顔を-

数え切れない夢を語り合ったあの頃には

もう、戻ることはないけれど-


とても切ない曲だった。でも、曲調はアップテンポだし、だいたい、結婚式でそんなに真面目に歌を聞いてるのなんて、本人たちだけで、後は皆飲み食いに忙しいから、そんなに歌詞に気を使わなくても平気だろうと思った。


まもなく、愁也からメールが来て、絶対紗由実が選んだってバレるぞって笑ってた。

それから数日後、友達同士で集まってカラオケで練習したらしく、声だけ撮ったムービーメールが届いた。私の選んだ曲を歌ってた。微妙に音痴な人が紛れているのが気になったけど、上手だった。三十秒にも満たないムービーを、何回も何回も再生した。自然と涙が出てきた。


 気分が暗くなっちゃうからって、わざと結婚式の日取りは聞かないことにした。でも、ある夜に陵本人から電話があって、明後日が結婚式だって聞いた。しかも、まだ結婚の覚悟が出来てないとか…。陵らしくなかった。私は怒った。初めて陵を相手に怒りの感情が芽生えた。「馬鹿じゃないの!!何のために、私やカヅちゃんのこと悩んだか考えな!やるより先にゴタゴタ言わない!じゃ、メールする。」そう言って、電話を切った。


そして、私は泣きながらメールを打った。


『さっきはゴメン!紗由実、今日は珍しく真面目なメールだから、感動して泣くなよっ(笑)

私ね、こんな時じゃなきゃ言う機会ないから、言っちゃいますけど、別れてからもずっとずっと大好きだったよ。私から離れようって言ったけど、やっぱりキッパリとは切れなくて、手を伸ばせば届くような、身近な距離を保ち、引きずっていたよね。

私ね。陵ちゃんがカヅちゃんと付き合い始めたときも、素直に良かったって思った。でも、いつも“陵ちゃん何してるかなぁ”とか考えたし、落ち込んだ時とか“陵ちゃんならこんな時、何て言って励ましてくれるかな”なんて、都合よく考えてたよ。

でも、もうこれからはそんな事考えないよ。たとえ陵ちゃん本人が望んでなかったとしても、陵ちゃんは、相手の人と永久の誓いをしてしまうんだもの。

陵ちゃんさぁ、私が別れるって言った時に「自分には紗由実を幸せに出来る資格はない」そう言ったくせに、私の手を強く握ってきたでしょ?…あの時のあの手を離さずに「ずっと一緒にいる」そう言ってたら何か今とは違う結果にかってたのかとか、色々後悔したまま、結局は言えなかった私が、今も、あの時の、あの場所に居るんだよ。

でも、陵ちゃんは恵まれた生活を両親から与えられて、それと引き換えに自分の幸せを両親に返すんだよ。例えそれが陵にとって辛いことでも、苦痛そのものだとしても、私には止められないから…。

止めてあげられたら。そう考えた時もあるけど、陵の恵まれた環境、愛しい家族、大切に思っている会社、部下・・全てを奪ってまで幸せになる自信は、私にはなかった。

でもね、こんな時に不謹慎だけど、嬉しかった。陵がこうやって相談してくれたのが、他の誰でもなくて、私だったこと。


私は陵を好きでよかった。


・・・・・・これが、私の答えです。私は陵のツライ気持ち、少しは分かってるつもり。いつも近くに居たんだから。だから、容易く「頑張って」とは言えない。でも、「だから辞めろ」とも思わないよ。何のためにこれまで悩んできたか、考えて、答えを出したらいいと思います。


私はもう何も言いません。


〈追伸〉

体に気をつけて頑張ってね!

会社の益々の繁栄を心より願ってます。』



送信ボタンを押して、その後は声を上げて泣いた。今度の今度こそ終わりだって、自分に言い聞かせた。それでも、すぐには忘れられないものだったけど。



それから二年が経った。

陵からは、たまにメールがくる。憩いの場に借りたマンションが住処になりつつも、ちゃんと定期的に家に帰るようにしているみたいだ。子供を双方の親から望まれてるが、めっきりやる気が起きなくて、このままでは人工授精だって、言ってた。あんなに絶倫だったのに…と思わないでもないけど、気にしてるだろうから言わないようにしている。でも仕事では、めでたく専務に昇進し、うまくいってるみたいだから、私は別に陵の夫婦仲がどうだろうと口を挟むようなことはしない。


私自信はあてもなくフリーターをしている。将来の夢も何もない。

恋愛に関しては、何人かいいなぁと思った男性が居たけど、陵を好きになった時のように、心に沸き立つ様な波が起こらなくて、好きって言うまでには感情が追いつかなかった。

私はもう、一生分の恋は燃え尽きてしまったのだと考える。




恋は愛を産んだ


愛は罪を産んだ


でも


罪は孤独しか産まない


罪は未来を産めない


愛は罪に何も教えられなかった


そして


誕生の理由も分からないまま


罪は愛と言う親を拒んだ


恋と言う祖母を恨んだ


いま


クライクライ闇ノナカ


タクサンノ孤独ヲウンデイル


星モ月モ見エナイ。



恋×罪 fin...  




誤字脱字あります。

ゴメンなさい(;ω;`)


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