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旅人と謎の青年(3)


 宿へ帰ってきたオズワルドは、ベッドに身を投げ出して溜息をついた。その横にピョンッとアレックスがやって来る。

《あのセドリックって男、何だったんだ?》

「―さあな」

 オズワルドは適当に答えて、額に手を当てた。

 

 ―あの時、あいつがあそこまで接近していなければ、気付けなかった。気配の消し方といい、俺たちの一瞬の会話を聞き漏らさず、さらに確信まで突いてくるあの洞察力・・・ただの一般人でないのは確かだ。

 

 むくりと起き上がったオズワルドは、かけてあったマントを掴んで身にまとう。

《え?お、おいっ!何してんだ?また出かけるのか?もう外真っ暗だぞ?》

 突然身支度を始めたオズワルドを見て、何事かと目をパチくりさせているアレックスを引っ掴んで、オズワルドは音を立てずに宿を出る。


《おいおいっ!一体何なんだよっ》

 片手でガッチリと掴まれた状態で、体をぐねぐねとうねらせ抗議するアレックスをちらりと見てオズワルドは淡々と答えた。

「この街を出る」

 アレックスはあんぐりと口を大きく開ける。

《はああっ?!馬鹿かっ!もう夜だぞっ良い子は寝る時間だっ》

「お前、俺が良い子に見えるか?」

 後半の意味不明な発言に呆れ顔でつっ込むオズワルドをまじまじと見たアレックスは、しばしの沈黙。

《むっ・・・見えん》

「まあ、予定通り明日の朝でもよかったんだけどな。仮に、あいつがもう噂を流したにしても直ぐ状況が変わるとは考え難いし。だが、警戒するに越したことはないだろ?」

《・・・まあ、あいつは何処か不思議というか、侮ると痛い目観そう・・・な感じではあったな》

「分かってんじゃねえか」

 ニヤリと笑ったオズワルドは、アレックスを肩において真っ暗なファステルの街を駆けていった。


  ◇◇ ◇◇


「・・・おい、何でだよ」

《本当にな。何でだ?》

 疑問に疑問を重ね合う会話を繰り広げる二人は、大きな門の手前にいた。そこは巨大な塀で囲まれたこの街唯一の出入り口。当然、彼らはここから街を出ていく。・・・はずだったのだが、跳ね橋が上げられている。跳ね橋が架かっていなければ、この大きな堀は越えられない。

 普通、襲撃とかがない限り跳ね橋なんか上げないだろう。何で今こんなことになっているんだ・・・。

 

 予想外の展開に、どうやってこの街から出て行くか思案していたオズワルドを複数の兵が取り囲んだ。

「マジで、何なんだよ。これ・・・」

 本日何度目かの「何で?」を発するオズワルドに、兵士たちは問答無用で襲いかかる。

「―くそっ」

 オズワルドは舌打ちをして兵士たちの攻撃をかわす。反撃したいのは山々だが、何せ人数が多すぎだ。一々相手をしていたらこっちの体力が尽きてしまう。


 兵士から逃れ続けるオズワルドはある疑問を持った。

 

 それにしても、おかしい。こんな大人数の兵士がたかが旅人一人に用事あるとは思えない。こいつらに指示を与えた奴がいるはず・・・一体誰が命じた?


《オズっ!後ろだっ》

 思考に気を取られていたオズワルドは、肩に乗っているアレックスがそう叫ぶのを聞いた。しかし、動き出しが遅れてしまった。後頭部にずしりと衝撃が走る。

「ち、くしょ・・・う・・・」

 オズワルドの意識は遠のき、四肢はバタリと前のめりに倒れた。耳元で叫ぶアレックスの声が、完全に聞こえなくなる。


  ◇◇ ◇◇


 心地よい風に導かれ、オズワルドは意識を取り戻した。彼はむくりと起き上がる。

「―痛つつっ・・・」

 後頭部に鈍い痛みを感じた。痛みの原因を探ってみると、大きなコブが出来ていた。次に彼は首を巡らせる。そして、今自分はだだっ広い豪華な部屋のベッドにいることを知る。

 理解の域を越した状況に、収集のつかない頭を押さえるオズワルドは、あることに気付いた。

「―そういえば・・・あいつ、どこ行った?」

 一緒にいたはずのアレックスが見当たらない。逃げたのか、殺られたのか・・・。とりあえず、体は動く。ここが何処なのか知らないが、早くあいつを拾ってここから出て行かなくては。


 ベッドから降りた瞬間、ギィっと扉が開いた。バッと視線を向けると、見覚えのある人物がヒョコリと姿を現す。

「やあ、また会ったね」

 わざとらしい仕草で入ってきたのは、セドリックと名乗った青年だった。昨日の今日での再会、もう疑いようがない。

「・・・あれはお前の仕業か」

「そうだよ。だって、君が逃げたりするから」

 口を尖らせて言うセドリックに、苛立ちを覚える。

「だからって、兵を使うとかありえねえし・・・てか、お前何者だよ。兵を動かせるってことは、軍人の上の身分か何かか?」

 本当に興味があるのかないのか、訊いた張本人は漆黒の髪をガシガシと掻きながら窓の外を見ている。そして、そんな彼の耳に届いたのは、とても耳障りなハスキーボイスと、クスクス笑いだった。

「貴様っ!殿下に向かって何たる口の利き方っ・・・無礼にも程があるっ!!」

 そう叫んだのは、さっきからセドリックの一歩後ろに立っているメガネ男だった。

「・・・でんか?でんかって、あの殿下か?」

 腹を抱え、未だに笑い続けているセドリックが俺の質問にすっぱりと答える。

「うん、その殿下だね。僕はこのヴィザイア帝国の第三王子。ちなみに、君が今いるここはヴィザイア城ね」

「へえ・・・」

「あら?反応薄いね」

 きょとんとした表情のセドリックに、オズワルドは面倒くさそうな顔を向ける。

「別に、お前が何処の誰であろうと俺には関係ないからな。てか、俺は早くこの街出たいんだけど」

「それはダメ」

 笑って即答するセドリックに、苛立ちは頂点へ達した。

「何でだっ!俺はこの街に留まる理由ねえし。つーか、お前昨日からしつこいんだっての。一体俺に何の用があるんだっ」

「昨日言ったじゃないか。気に入ったから連れて行きたいところがあるって」

 セドリックはしれっと言うが、全く説明になっていない。

「だから、俺を何処に連れてくつもりだって聞いてんだ。そこへ行ったらもうここ出てっていいんだよな?」

 どちらかというと、目つきの悪い目でオズワルドはセドリックを睨みつけた。彼は笑顔で首を傾げて言う。

「ん?無理だろうね」

「は?何でだよ。行ったらそれで終わりだろ?」

 オズワルドはセドリックの表情と言葉が理解できない。したくもないが・・・。

「だって、君を連れて行きたい場所って、ファステル学園だから」

「・・・は?何だそれ?」

「ヴィザイア帝国の民を優れた召喚騎士へ育て上げる学園だよ」

「それと俺、何の関係があるんだよ」

 オズワルドは呆れた。

 そんなとこ連れてってどうするってんだよ。俺何にも関係ねえじゃん。

「君はこの学園に入るんだよ」

 セドリックはさも当然のように決定事項として言ってのけた。

「・・・・・・」

 

 ―意味がわからない。

 オズワルドはしばし沈黙した。



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