わたしに泪を花には愛を
或る晩の事でした。
私がいつもの様に外に出ると、
ぼおつと光が湧ゐて来て
ちかちかてらてら浮かんでゐる。
可笑しな物だと眺めた間
君はどんなに変わったろう。
その色が
そのゆらめきが
若しくは君自身か。
「雨にその燈は消されてしまふか。」
さふ問ふ私に
しんみりと、
しづかにひとつ斯う言つた
「消ゑるかどうか、
判りやしないよ。」
貴方はいつも悠遠の地に居る様だ
隣に居るのに、
こんなにも近いのに。
「消ゑたらきっと、まほらへ行けるさ。」
撫子と彼岸花を両手に持って。
貴方の最後の言葉を、
忘れずずっと
泪の中に。
光がひとつ、
山百合に入つて一休み
潰れた光のがぶがぶ湧ゐた
紅が流るる。
月夜に映るは
沢山の色。
緋、朱、白、黄、紺、桃、緑
凡ての色が混ざつて
新たしい貴方。
亦何処かへ
ひとり消ゑて行つた。