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混沌とする中東

 イスパイアが新たな体制に移行しようとしていたころ、瑠都瑠伊方面軍司令部を震撼させる出来事が起きていた。中東のペルシャ湾東岸、もっと細かく言えば、パーゼルの北にあるトゼル、そのさらに北、セラク神聖帝国とトゼルとの境界線、やや北よりにロンデリア軍が上陸するという出来事が発生していたのである。日本の抗議に対して、ロンデリア政府は、同地にあった調査団団員が殺害されたとしてその報復のためであると宣言していた。


 この調査団派遣というのは、セラージの日本領事館に事前通告があったため、事実であったが、調査団員殺害については真偽が不明であったといわれる。もっとも、日本や瑠都瑠伊の勢力圏外であり、実際のところは調査のしようがない地域であった。つまり、日本や瑠都瑠伊によって確認不可能な地域であり、何が行われているのかすらわからない地域であった。


 パーゼルやセラク共和国からの情報、パーゼルではトゼル領内に潜入した諜報員が十数人おり、彼らが現地で確認した、によれば、一時的な占領とは思えない装備が陸揚げ荒れている、との情報があった。セラク共和国では、将来の統一に向けてセラン神聖帝国内での情報収集がおこなわれており、彼らの情報として、恒久的な港湾施設の建設が行われている、との情報があった。いずれにしても、なぜ今頃、というのが日本の関心でもあったといえる。この時点で、北アフリカにおける油田(移転前でいえば、リビア油田といえた)の発見報告されていなかった。


 後に判明することであるが、ロンデリアでは北アフリカでの資源開発の一部、石油など、は中止が決定され、他の地域に矛先が移動することとなっていたようである。南米大陸の北東部には日本が、北部にはローレシアがすでに入っており、いまさら参入する余地はなく、結果として、中東に目が向けられたものであった。それ以前に、インデリアやセイロン島にも足を伸ばしていたが、インデリアは広範囲でそれなりに装備の整った軍が存在し、セイロン島には既に英連邦国が入っており、参入する余地がなかった。そして、ロンデリアの最大の目的は自分たちの意のままになる産油地の確保であったとされる。


 そういうことで、まだ日本の勢力圏外であったペルシャ湾東岸が選ばれたといえる。しかし、ペルシャ湾内に入るにはホルムズ海峡を通過せねばならず、日本の勢力圏であるセラージを避けて通ることができない。結局は何をやろうとも、日本に知られることとなる。そういうこともあって、先に述べた理由付けが必要であったのかもしれなかった。そうして、ペルシャ湾東岸に進出したのである。


 日本、いや、瑠都瑠伊としてはセラク共和国によるセラン統一は望んではいたが、それは今後の長い時間をかけての統一で十分と考えていた。その理由は、南米大陸のイスパイア、アフリカ大陸のローレシアとの問題もあり、自らがセラク共和国を支援するのが難しいからであったかもしれない。一応の懸念の解決を見ることができ、今後どうするか考え始めた矢先の出来事であったといえる。その結果、気づいたときには対応が取れないそういう状況であった。これが、トゼルとパーゼルとの境界線付近であれば、何をおいても介入しなければならなかったが、現地域であれば、あえて介入の理由がなかったといえたのである。


 そういうことで、対岸の火事というわけで、セラージの瑠都瑠伊方面軍はそれを見ているしか方法がなかったといえた。むろん、今のところ、航空戦力といえば、ヘリコプターのみであり、電子戦機や対潜哨戒機は一二浬外からの偵察や情報収集のため、飛ばしていたが、それ以上のことはしなかった。一二浬というのは、ロンデリアの存在していた世界においても、領海は一二浬であることを知っていたからである。もちろん、電子戦機や対潜哨戒機の接近にはロンデリアもヘリコプターを上げてはいたが、それ以上の行動を取ることはなかった。瑠都瑠伊側もヘリコプターには対空ミサイルが装備されていることを考えての行動であったといわれている。


 それは海上でも同様で、セラージに配備されていた艦艇も念のためということで、二〇浬以内に接近することはなかった。こちらも、対艦ミサイルでの攻撃の可能性も考慮していたからであろう。もちろん、ホルムズ海峡通過からの監視など論外で、あえてロンデリアを刺激するような行動はとっていなかった。とはいえ、セラー半島の海峡側にはいくつかの監視カメラが設置されており、それによる監視は行っていた。ちなみに、このモニターシステムはカラーチのイスパイア軍の上陸後に設置され、本来の目的はセラー半島への接近を監視するためであった。


 その後の情報収集によれば、ロンデリア軍は上陸地点から北上することはあっても、南下することはなかった。そして、単に北上するのではなく、いくつかの地点で井戸を掘っているのが確認されてもいた。目的は油田の発見とそれの確保が明確になっていたのである。ただし、ロンデリア軍が調査している地域は完全な砂漠地帯ではなく、あちこちに小さな草原やオアシスがあることから、石油が出ることはないだろう、というのが瑠都瑠伊の資源開発会社の見解であった。彼らによれば、ペルシャ湾最深部の砂漠地帯ならともかく、現状の位置ではまず産出しない可能性が高いという。現に、石油ではなく、普通の井戸、地下水が噴出する、が何箇所かあり、一部をそのまま放置したことで、野生動物の水飲み場と化している場所があった。


 それにも増して、瑠都瑠伊方面軍司令部を警戒させているのが、セラン神聖帝国軍との戦闘であったといえる。むろん、日本ほどではないにしても、それなりに進んだ装備を持つロンデリアが敗北することはないと思われるが、果たして、人海戦術で来られた場合、どこまで耐えられるかわからず、敗走させられる可能性があったからである。現状、上陸しているのは一個連隊規模の軍であり、それも、まとまっているわけではなく、一個大隊規模で分離行動を取っていたからである。事実、稀に負傷者を出していることが確認されていたのである。


 そして、彼らの進んだ兵器がセラン神聖帝国を通じてラームルに流れる可能性を考慮せざるを得ない、そういう理由があった。むろん、すぐに製造することはで着なくても、将来的には今よりも数段進んだ装備で武装したラーム教徒を相手にしなければならない、瑠都瑠伊方面軍ではそれを恐れていたといえる。そうなれば、セラク軍にもそれなりに進んだ装備を提供しなければならないからである。


 これには前例があって、ロシアで製造されている銃器類が幾度かインデリアやセラクに売却されていた事実があったのである。むろん、現在では国連の圧力により、途絶えてはいるが、セラン神聖帝国に渡っている可能性も考慮しなければならなかった。それは、ロンデリア軍が稀に負傷者を出していることも関係していないとはいえないのである。とにかく、日本や瑠都瑠伊としては、セラン神聖帝国やラームルに今以上に進んだ兵器が配備されることを望んではいないのである。


 とにかく、ロンデリアの中東進出は日本や瑠都瑠伊、国連から抗議がなされていたが、相手が国連に加盟していない以上、対して意味のあるものではなかったといえるだろう。国連からは最悪の場合、石油の禁輸も視野に入れた対応を取るよう忠告されていたのである。ちなみに、もっとも強い抗議をしていたのがローレシアであったとされる。ローレシアにとっては、中東の石油が現状ではもっとも必要な資源であり、セーザンやセラージから多量に輸入しており、その供給が滞ることをもっとも懸念していたといえた。また、ロンデリアの白人至上主義がよほど彼らの感情を害してしたといえる。


 そういうわけで、中東では新たな火種を抱えることとなり、日本、とりわけ、瑠都瑠伊方面軍も何らかの対応を講じる必要が生じていた。ここでの対応を誤れば、再び先進国同士の戦争に発展する可能性があり、対イスパイア戦争が終結し、戦後処理の最中である日本としては、武力衝突は避けたいところであった。少なくとも、この先数年は世界各地での問題発生は望んでいないことであったといえる。


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