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危機感募る瑠都瑠伊

「やれやれといったところね。これで欧州も安定してくれると助かるんだけど、ロンデリアがどう出るかしら」瑠都瑠伊の瑠素路にある州庁舎知事室で報告に訪れた今村に向かって沢木知事がいった。

「これで南米と北米は落ち着くでしょう。しかし、オーレリアとロンデリアの衝突の可能性も高くなりました。アメリカ両大陸でさしたる権利を得られなかったロンデリアがどう動くかによりますが」沢木の向かいに座る今村が答える。

「以前に中将が言っていたように、海洋国家と大陸国家では戦争は起こりえないという論で行けば、戦争は起こらないでしょう?」

「ですが、このところ、ロンデリアは南下政策を取っていますから、戦争の可能性があります。イスパイア戦に投入していた戦力を内陸部に向けていますから、ドイツ地域で衝突の可能性があります」

「ロンデリアも少し考えてくれるといいんだけど」

「おそらく、オーレリアの方が技術力が高く、戦力的に優れていると考えられます。結果として、オーレリアの領土が拡大する可能性もありますからね」


 このころ、ロンデリアではフォークランド諸島や南大西洋から引き上げた兵力、海軍兵力は本国のほか、バルト海や地中海南岸の北アフリカに展開しており、陸軍兵力は、バルト海南岸、ドイツやデンマークといった地域に展開していたのである。特に、ドイツ地域では南下する傾向にあり、既にフランス地域はほぼその勢力下においていたといえる。つまり、移転前でいえば、西欧を席巻し始めている状態であった。ただ、情報として、原住民への対応に問題があるようで、次々と植民地化している状態だといえた。むろん、これはロンデリアだけではなく、オーレリアやプロリアにしても同様であった。


 さらにいえば、ロンデリアでは自国の武力が常に最高であると過信しているのか、相手の武力、たとえば、日本やローレシアの力を見下す方向にあったといえる。今回のイスパイア占領により、若干の戦略のの変更があったものの、オーレリアに対してはそれをなしてはいないという事実があった。もし、オーレリアが日本と同等の技術力を持っているとすれば、ロンデリアにとっては到底およばないはずであり、ロンデリア自身はその点を見落としているように思えるのが今村の言葉からも伺えるのである。


「とにかく、日本や瑠都瑠伊に対してはオーレリアもすぐに行動を起こすことはないでしょう。ラーシア海やアドリア海がありますし、距離的にも大丈夫かと思います。問題はロンデリアの出方によります」今村は続けた。

「中将は何か起こると考えている?」

「ええ、必ず起こると思います。ただ、日本の介入はできれば避けたいですね。本国がそのあたりを理解しているといいのですが」

「そうね、一応知り合いには根回ししておくけど、政府の対応次第ね」

「阿部さんには既に進言してあります。しかし、総理はともかくとして、閣僚や議会がどう出るかでしょう。今はタカ派が多いですからね」

「そうね、それに状況理解能力が欠如している人が多いのはたしかよ。瑠都瑠伊のほとんどがあまりよく思ってないし、対応いかんではこちらの内部問題の発生する可能性があるわ」

「そういえば、最近波実来から移民が多いと聞きますが?」

「ええ、事実よ。完全に自己終結型の地域ですから。既に人口は二〇〇〇万人を超えたわ」


 新世紀二〇年四月現在、瑠都瑠伊の人口は二〇〇〇万人を超えていた。ここでいう瑠都瑠伊とはセーザンやセラージを含まない。含めれば、一〇〇万人が追加される。また、他の地域と異なり、成年、つまり、労働人口が増加していたのである。他の地域では人口増加の多くは若年層、つまり、子供が増えているわけだが、瑠都瑠伊では子供が増えているのは同じだが、それ以上に二〇歳以上の人口の増加が目立っていたのである。しかも、日系というよりも、生粋の日本人の増加が著しいといえた。そして、その多くが波実来やリャトウ半島から流れてきているといわれていた。


 つまり、移転前でいえば、もうひとつの東京都が中東に出現した状態といえたのである。波実来やリャトウ半島はいまだに日本本国の支援を受けているが、瑠都瑠伊ではそうではない。ちなみに、東京都も現在は国の支援を受けているとされている。波実来やリャトウ半島だけのときはそうでもなかったが、瑠都瑠伊が発展しだしてからは多くの企業が税金の安い瑠都瑠伊に本社を移すケースが増えていたのである。むろん、実際の本社機能は東京都であるが、書類上では瑠都瑠伊に本社が存在するという状態であった。


 特に目立つのが資源調査会社というか、鉱業関係であったといえる。南米に進出してからその傾向が目立つようになったといえる。ベーネラはともかくとして、イスパイア国内での調査にも手をつけているからであろう。その理由は石油や天然ガスの産出の可能性が高いとされていたからである。とにかく、日本が進出しているあらゆる地域に彼らの姿が確認されているのは事実であった。そして、本国ではブランド的に劣るとされる各種業界の下位メーカーの進出が多いといえた。そのため、本国ではブランドメーカーか、後発のメーカー品が中心で、中間品がないという状態であった。そして、その格差が開いた状態だといえたのである。


「で、これからの対応なのですが、準戦時体制という今の状況を継続しますか?」

「中将はどう考えているのですか?」

「警戒体制、いわゆるイエローの体制でよいかと思います。理由は陸続きではないこと、ロンデリアとオーレリアとの衝突であれば、中欧の内陸部での衝突であること、結果として、瑠都瑠伊に影響が出るまで時間的余裕があるからです」

「わかりました。ではそうしてください。派遣部隊はどうなります?」

「現状でローレシアにある部隊とトリスタン・ダ・クーニャ島の合わせて一個旅団規模ですから、戦力に影響を与えるほどではありません。もっとも、セーザンとセラージの軍は動かせないので、現状では陸軍は一個師団と一個旅団、海軍はすべての兵力が、空軍もすべての兵力があります」

「わかりました。万が一に備えて、各部隊には十分な休息を取るようにしてください」

「了解いたしました」


 この時点で、瑠都瑠伊州は本国とは異なる体制を敷くこととなった。突き詰めれば、危機に対する考え方が異なるといえたのである。それは何も今回に限ったことではないが、それでも対応は異なるといえた。瑠都瑠伊ではもしも、の事態に備えていたが、本国ではそうではなかった。結局、移転後の一時を除いて日本は変わらなかったといえるだろう。むろん、本国のすべての人がそうであるとはいわないが、全体として、危機感に乏しいといえる。移転前の過去を振り返っても、イギリスの黄金時代の終焉はちょうどこんな様子ではなかったか、というのが沢木や今村の想像したことであったといえる。


 結局のところ、万全な体制を持続させるというのは難しいといるだろう。でなければ、かっての地球上で興った国家が滅びることはなかったといえる。ローマ帝国しかり、オスマントルコ帝国しかり、英国帝国しかり、今回のイスパイア帝国しかりである。そして、今また同じことが起こる可能性があった。日本かもしれないし、ロンデリアかもしれない。あるいはプロリア帝国かもしれないし、オーレリア帝国かもしれない。


 こうして、瑠都瑠伊方面軍では表面的にはともかくとして、内実はデフコンレベルをイエローに維持したままであった。ただし、日本本国では、北米と南米の問題が片付いたことで、警戒態勢を解いていたとされる。もっとも、国外に二個師団規模の陸軍を派兵しており、海軍も一個機動部隊と数個の護衛部隊を派遣していたが、戦争が終わったといえど、すぐに撤収できるものではなかった。逆に、イスパイア国内の治安維持のためにはより増員する必要があったかもしれない。アメリカ合衆国海兵隊の行動監視も含まれていたからである。アメリカは移転前において、第二次世界大戦後の各地の紛争で介入したはいいが、収拾に難があったからである。その多くの場合、関連国でゲリラ兵を生むことが多かったからである。今回、同じようにゲリラ活動など行われては今後に禍根を残すことになるからであった。


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