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イスパイア侵攻

 オーレリア帝国との対話も進み、次官級会談が進められていた、一九年一○月終わり、ロンデリアとイスパイア帝国との本格的な戦闘が始まることが予想されることとなった。ロンデリア軍大艦隊、南下す、との情報がもたらされたのはベーネラの駐留軍司令部からであった。むろん、情報源は軍ではなく、民間船舶の船員からであったとされる。軍、少なくとも海軍が目撃したのであれば、艦種を含めた詳細な報告がなされるはずだったからである。


 しかし、このとき目撃された大艦隊は南米のイスパイア帝国攻略に向かったものではない、後にそう判明する。というのも、南大西洋に張り付いている原潜からの報告がなかったからである。実際はアセンション島に向かったものであったようだ。というのも、ロンデリアはアセンション島を南大西洋での一大根拠地としていたからである。これは衛星情報からも確認されていることであった。


 このころ、ロンデリアは既にサウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島にも軍を派遣しているとされていた。ここからフォークランド諸島をも視野に入れているようで、先の艦隊がアセンション島へ向かったのも、同様にフォークランド諸島を視野に入れるためで在ろうと考えられていた。移転前に発生したフォークランド戦争と同じような展開であると考えられていたが、それが事実となった。フォークランド諸島南沖で双方の艦隊が激突したのである。


 結果、フォークランド諸島を占領したロンデリアが優勢であったが、実際は痛み分けといえたかもしれない。というのも、ロンデリアの艦艇はその多くが大なり小なり損傷し、根拠地での修理が必要とされたからである。フォークランド諸島での駐留に耐えうる艦艇は空母一隻と駆逐艦八隻に過ぎなかったとされる。それでも、アセンション島から補給路を確保しているため、継続的に防衛戦闘は可能だったといわれる。


 その後の情報、日本海軍原潜とベーネラからの電子戦機による、で、イスパイア帝国内での異変を知った日本本国軍は米軍との共同作戦を実施することとなった。このとき、移転前から就役していた唯一の原潜、<ヒューストン>は燃料棒の交換作業とリストアのため、大湊にあった。つまり、この時点で動ける原潜は日本の原潜六隻のみであった。だからこそ、この情報を得ることができたといえるだろう。


 その情報とは、政変あるいは分裂といえばいいだろうか、フォークランド諸島が占領されたことで、軍の穏健派と民主化派が時の王家を伴い、軍事政権側の反対を押し切って首都ブエーノスを脱出し、移転後に占領した北部のベローテスに移動、多くの国民も首都を離れて西部や北部に移動している、そういう情報であった。日本が動いた理由は、この情報が事実なら、現状で判明している軍事施設への攻撃によって一般国民に被害が及ぶことが少なくなった、そう判断したからだろうと思われた。


 このとき、日本本国から太平洋を横断してパナマ海峡経由でベーネラに向かっていた日本海軍第一艦隊、航空母艦『ずいかく』を基幹に「あたご」型巡洋艦二隻、「あきづき」型駆逐艦六隻からなる、がこの作戦に投入されることとなり、ベーネラで米海軍第二艦隊、航空母艦『エンタープライズ』を基幹とする巡洋艦二隻と駆逐艦八隻からなる、と合流、対地攻撃を実施することとなった。日本陸軍は西部方面軍から抽出の一個師団、米海兵隊はグアムから一個師団、米陸軍は同じく、グアムから一個師団が投入されることとなった。「ぼうそう」型輸送艦、「ワスプ」型強襲揚陸間、民間貨客船多数を用いての輸送がネックとされたが、彼らがベーネラに到着するまでの期間、ベーネラでの共同訓練が実施されることとされていた。


 米軍が日本軍よりも多いのは、戦後を睨んでのものと思われた。日本よりも、イスパイア帝国に対する影響力を強くしたい、ロンデリアの影響力が強まることを恐れてた、そう考えていたからであろう。北米の軍を動かさなかったのは、東海岸を中心に展開しているロンデリアおよびアメリカ連合勢力に対する備えとしていたからであったと思われる。こうして、移転前にもなかった、日米の機動艦隊が合同で共通の敵に立ち向かうこととなった。むろん、移転後もこれまでは考えられなかったことであった。


 指揮系統は日本海軍司令官が統合指揮を執ることとなっていたが、実際は日米とも個別の指揮系統であったとされる。つまり、目的が異なるため、統合的な指揮が取れないという理由もあったのである。日本陸軍は王家を含めた穏健派との接触とベローテスの確保にあったのに対して、米軍は首都ブエーノスの占領にあったからであろう。僅か二個師団でと思われるかもしれないが、首都全域ではなく、政治中枢の占領にあったため、十分可能だとされていた。その理由は、大西洋に面しているため、内陸部の都市を占領するのとは異なり、空母艦載機による航空支援もあれば、艦砲支援も得られるからであったといわれる。


 しかし、この時期での日本軍の本格的な侵攻作戦の実施はロンデリアとの関係の悪化を招くこととなった。というのも、イスパイア帝国の艦隊戦力の多くがロンデリアとの戦いで消耗しており、ロンデリアとすれば、鳶に油揚げをさらわれる、ということになったからであろう。とはいうものの、ロンデリアとしても、事前にローレシアおよび日本との共同作戦実施を拒否していたわけで、その点においては若干の改善の余地が残されていたといえるだろう。


 ちなみに、この侵攻作戦に瑠都瑠伊方面軍が関与していないのは先に述べたように、日本と同等かそれ以上の技術力を持っている可能性のあるオーレリアの存在があったからであろう。近隣のトルトイに原子力総合施設を持ち、セーザンやセラージの油田を持ち、イスパイア帝国軍から外れたとはいえ、パーゼル地域がある以上、中東方面を空にはできないためであったとされる。いずれにしても、今回の作戦は、日本本国および米軍主導で実施されたのである。


 そうして、この作戦には最新鋭巡航ミサイルが使用されることとなったのである。在日米軍が所有していた巡航ミサイル<トマホーク>を参考にして開発された、一五式巡航ミサイルがそれであった。もっとも、その多くは空対艦ミサイルであるASM-2<九三式空対艦誘導弾>のパーツを利用しており、本家の<トマホーク>に比べれば、サイズは二周りほど小さく、その射程距離は遥かに短い。とはいっても、最長で一五〇〇kmの性能を持つ。ちなみに、米軍は日本で製造された<トマホーク>ブロックIVを装備している。これは契約により、日本軍が装備できないものとされていた。


 一五式巡航ミサイルの諸元は次の通りである。本体全長(ブースター除く)四.八五m、翼幅二.三二m、 直径○.五二m、速度八六○km/h、ブースター部分固体推進ロケット全長○.六九m、直径○.五二mとなっている。諸元を見てもわかるように、ブースター部分は<トマホーク>と共用であった。弾頭重量は四五四kgで、これも<トマホーク>と同じで、早い話が、サイズとエンジン、誘導方式が異なるだけであったといえる。


 こうして、新世紀一九年一一月五日、双方の巡航ミサイル三六発(日本側一二発、米側二四発)の発射によって侵攻作戦は実施されたのである。日本のそれは軍事施設、港湾や海軍司令部を中心に、米側のそれは陸空軍司令部や首都近隣の航空基地を中心に発射されることとなった。これら施設の情報は衛星情報および捕虜からの情報提供によるものであったとされた。その後、日本軍はベローテスに上陸し、米軍はブエーノスに上陸することとなった。


 特に米軍の場合、航空攻撃や艦砲射撃を念入りに行い、上陸したときにはほぼ廃墟と化していたという。航空支援や艦砲射撃は日本軍も同じであったが、そこまで強くは行わなかったとされる。日本軍の場合、王家を確保することが主目的であったため、ヘリボーン作戦が実行されているが、米軍ではそれは行われなかったといわれている。日本軍は犠牲者を出すも、一〇日には目的を達成し、米軍の戦闘終了を待つこととなった。日米ともに、戦後のことを考えており、テレビ局などメディア関連施設への攻撃は控えていた。


 一二日には米軍の戦闘も終結し、港湾を中心に半径五〇kmが確保され、以後は首都奪還を図るイスパイア帝国軍に対する防衛戦となっていった。こうも簡単に確保されたのはミサイルによる攻撃もあるが、イスパイア帝国陸軍が広範囲に分散していたからであったとされる。ある部隊は現王一家の確保のためにベローテスにむかい、あるいはベーネラ攻略に向かい、フォークランド諸島からの侵攻に備えて南部に移動していたりとしていたからであろうと思われた。


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