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日本の決断

現実の日本であれば、まず不可能な決定でしょう。ただし、資源が目の前にあるとしたらどうでしょうか。国内の問題もあってこう決断する政治家がいるかも知れない。そう思って書きましたが・・・・


「経済産業省の見解としては、油田が発見されたことで、エネルギー問題の一部は解消されたと判断します。なお、この北方に鉄鉱石の産地があるかもしれない、という情報に対しては、引き続き調査の必要があると考えます」そう報告をしたのは経済産業大臣の鈴木晋作であった。その表情は明るい。

「私としても、異存はありません。現地に調査をするよう命令しましょう」南原総理が答える。

「厚生労働省としては、現時点ではわれわれに有害な疫病は存在しない、そう報告いたします。少なくとも、頻繁に往来がなければ、民間人の渡航にはなんら問題はないと考えます。民間会社が進出することで、雇用が増大しますし、失業保険などの負担は減少すると思われます」そういったのは、厚生労働大臣の山本実であった。

「いずれにせよ、石油を確保するためには、国だけではなく、民間の力も必要ですし、いくつかの業種には許可を出すつもりです」南原が答える。

「総理、よろしいですか?」そう挙手したのは鈴木であった。

「どうぞ」

「進出しているこの現地駐留軍の報告では、現駐屯地の西方に軽くて水に浮く金属が取れる、という住民の言い伝えが書かれています。断言はできませんが、アルミニウムの可能性があります。できれば、こちらも調査したいと考えています」

「わかりました。先ほどの厚生労働大臣の発言もありますので、民間企業にも検討してもらいましょう」

「ありがとうございます」

「農林水産省としては、現地駐留軍指揮官の根菜、穀物、柑橘、という記載が気になります。おそらく、根菜はジャガイモのような食材、穀物は小麦のような食材、柑橘はオレンジのような食材だと判断しました。これらを食することが可能であれば、国内の食料事情も改善される可能性もあります。また、日本国内の野菜および穀物などの農作物の栽培も可能ではないか、そう判断します」そう報告したのは農林水産大臣の西村淳一であった。

「それについては詳しい検査が必要であろう、そう判断します。輸入に関しては見送りたいと思います。しかし、現地での日本の農作物の栽培は試験的に許可します。結果が出るには年単位の時間が必要でしょうから、気長に行う必要があります」

「この現地駐留軍指揮官は優秀ですな。われわれが欲する情報というものを理解している」そういったのは鈴木であった。


 その閣議室のドアがノックされ、二人の職員が入室し、防衛大臣の石波と、外務大臣の大村光太郎の元に書類を渡した。大村は体調を壊して退いた中田大臣の後任としてここにいた。それを一瞥した二人は対照的な表情を見せた。石波は、やはり来たか、という表情、大村は困惑の表情を浮かべる。二人は一瞬顔を見合わせたが、大村が報告する。


「先ほど、現地調査団団長より入った情報ですと、シナーイ帝国なる国が現地駐留軍に接触してきたようで、五箇条の要求を突きつけてきたようです」そういって、その要求を読み上げる。


 定例閣議の最中、それを聞かされた閣僚の一部には驚きの表情はあっても、困惑の表情はなかった。南原もその一人だった。少なくとも、戦争を恐れる南原ではなかった。逆に、怒りの方が大きいといえたかもしれない。


「たしかに、進出はしたが、侵略的目的はない。それをいきなり侵略と受け取られるのは心外だ。更なる対話を求めるべきでは?」総務大臣の沢渡久信がいう。

「いや、現地駐留軍の対応がまずかったのでは?」国土交通大臣の伊藤敦夫がいう。

「お静かに、調査団本部からの報告書では、交渉内容を録音したメモリーから起文した報告も入っております。読む限りではなんら問題もないと判断します。おそらくは、最初からわが国を敵対国と決めてかかっているように思います」と大村。

「たしかに、状況もわからずに進出したのはわれわれだが、初回の対話からあの要求は許せません。さらにいえば、先に攻撃を仕掛けてきたのは向こうです。今後も対話の必要性は認めますが、相互理解は難しいのではありませんか?」石波がいう。

「日本国総理大臣として許諾できる条件ではありません。石油はともかくとして、資源のある可能性の高い地域です。シナーイ帝国とやらが素直に開発させてくれるかどうか不明の点もあります。今後も対話は続ける必要はありますが、もし、攻撃を受けた場合は犠牲を出さないようにするため、反撃を認める必要があります。私はそう判断します」南原はそういって閣僚たちを見回す。

「防衛大臣、あなたのところへはなんと言ってきましたか?」

「はい、外務大臣と同じ内容ですが、武器弾薬の補給要請、渡航の許可が出たら、速やかに待機部隊を遣してほしい、と書かれています」

「それだけですか?現地の部隊だけで、シナーイ帝国とやらの攻撃を凌ぐことができるのですか?」

「これは閣議に計ってはいませんが、現地の軍事レベルは日露戦争時から第一次世界大戦時の間という報告がきていました。自動車の類は確認されておらず、移動は馬を使用しているとのことです。もし、そうであれば、現在現地にある部隊、一個連隊規模ですが、それで十分対応可能だ、というのが防衛省の見解です。ただし、敵兵力が一度に一〇万も投入されてくれば撃退は不可能ですが、一万程度であれば対応は可能です」

「現地軍のほうはわかりました。では、外務省の見解はどうですか?」

「外務省としては更なる対話を求めますが、相手が応じないのであれば、実力行使もやむを得ないだろう、そう判断します。現地軍には更なる情報収集をお願いしたい」

「それは理解しております。調査団団長の要請には従うよう命じておりますので。ただ、現地の情報収集には自動車以外の移動手段が必要です。現在、燃料事情から運用を控えているヘリコプターの無制限使用を許可いただきたいと思います」

「油田が見つかったとはいえ、埋蔵量は未だ不明です。しかし、必要とあらば、許可しなければならないでしょう」

「ありがとうございます。施設大隊からの報告では、野戦滑走路はあと二週間ほどで完成予定とのことです。完成後は空路での派遣も可能になります」

「わかりました。では大陸での対応はそういうことで、国民にはシナーイ帝国の存在と要求、それに対する答えを公表します。他に何かありますか?」

「特に異存は無いようなので、国民に向けてはそのように発表します。他に何かありますか?」

「在日米軍ですが、移転のときに佐世保にあった原子力潜水艦を各方面に派遣しているようです。むろん、シナーイ帝国との問題にも介入する可能性があります」と石波。

「各大使館には重ねて静観をお願いしてください。特に、中国と韓国には強く要請してください」

「わかりました」大村が答える。


 このころの在日米軍は駐日大使を長として動いているようで、とりあえずは統率の取れた行動を取っていた。つまり、日本の法律を犯すような愚は行っていなかった。南原が心配していた米軍による無秩序な状態には至っていなかったといえる。しかし、この先どうなるかはわかっておらず、最悪の場合、米軍による沖縄占領という事態も起こる可能性があったのである。


「北の大陸と南の島の調査はいかがいたしましょう。現在は余裕がありませんが、調査は始めるべきだと考えています」石波が尋ねる。

「早いうちに実施すべきだと考えています。ロシアの暴走を抑えるのが先決です」


 この当時、千島列島には約二万人近いロシア人が居住していると考えられており、軍も約六〇〇〇人が駐留していると思われていた。確定数ではないのは、ロシア大使館でもその実数を把握していないからであった。いずれにしても、現状では民間人にしても軍にしても行動を起こすことはなかったが、もし、何らかの行動、北の大陸への移動など無秩序な行動を起こされた場合の対処が懸念されていたといわれる。そして、ロシア大使館が彼らを掌握し、統制できるかという問題も浮上していたとされる。彼らの暴走を抑える必要があったのである。


「在日米軍の国外移動については規制すべきではありませんか?」

「そうです。無秩序な行動を取られては困りますし、何とか制限を加えるべきではありませんか?」石波に続いて大村が答える。

「外務省から駐日大使に養成してください。在日米軍が望むなら許可すべきである、と考えています。ただし、燃料や食料の援助については別に定める必要があるでしょう」

「わかりました。国外に進出するような行動は控えるよう養成します」大村が答える。


 結局、日本政府としては大陸進出と資源確保を続けることが決定されることとなった。そして、その目的に対して、平和的解決がなされない場合、強引に実施することを決めたといえる。そして、攻撃を受けた場合の反撃、武器使用、戦争になってもかまわない、そう判断したものと思われた。つまるところ、この世界に現れた日本にとって、自国の安定のためにはどうしても資源が必要であり、多少の強引な政策も容認する決定がなされたものと思われた。


 こうして南原政権は一つの決断をすることとなる。とはいえ、在日米軍、在日韓国・朝鮮人などの問題が山積みであるが、この世界で日本の行動方針を決定付ける決断でもあった。


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