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オーレリア帝国

 新たに出現した勢力はオーレリア帝国と判明する。撃破される直前の衛星情報から、移転前のオーストリアとハンガリーを合わせた地域であり、面積は約一八万平方km、ほぼ移転前の双方を合計した規模といえた。人口は約五五〇〇万人で、これはほぼ三倍にあたるが、これはよくある放送で、○○○万人国民の・・・、という放送で得たもので、実施あのところは不明であった。軍の規模としては、総数六〇万人との報道がなされていたが、陸空の比率や装備は一切不明とされた。


 これらの情報はプロリアおよびグルシャにある大使館(グルシャの場合は領事館)員および駐在武官によるものであった。瑠都瑠伊からは電子戦機があがってはいるが、先の衛星攻撃もあって、それほど接近することはできず、せいぜいがグルシャ共和国上空までであった。内陸部にあるため、海軍官邸による情報収集も難しいと思われた。こちらも不用意に接近すれば、問答無用で攻撃を受ける可能性もあったからである。現状、もっとも接近できるのはアドリア海の最深部であるが、そこまで進出することはなかった。


 政府の外交通信や軍の通信はいずれも秘話通信であったが、これら地域に進出している各種メディアの通信はそういったことはなく、日本の情報を与える機会となっていた。これにより、接触の可能性もありえたといえるだろう。つまり、このころには日本が外交官を派遣している地域には、テレビや新聞、ラジオなどのメディアが滞在していたといえる。もっとも、日本本国からのメディアは稀で、多くは瑠都瑠伊の通信社で、彼らは記事や映像を日本を含めた各国に売って利益を得ていたのである。


 とにかく、日本政府や瑠都瑠伊方面軍司令部としては、早期に平和的に接触、対談を持ちたい、そう考えていたといわれる。しかし、日本側から接触するのは不可能であり、となれば、相手から接触してくるのを待つしかなかった。これは、相手国が帝国制を敷いているということに最大の原因があったといえるだろう。ロンデリア王国やローレシア連邦王国のような平和的な接触なるかどうかといえば、それは難しいとされていた。


 特に懸念されていたのが、二国での接触が不可能であるという点であっただろう。内陸国家と海洋国家との接触となるため、日本側としてはプロリアなりグルシャなりで接触するしかなく、そうなれば第三国を経由しなければならず、スムーズな交渉など臨み得ないと考えていたからである。この場合、日本側が望んでいたのはグルシャを介しての接触であったとされている。


 これまで触れることはなかったが、プロリアとグルシャの戦争停戦後、瑠都瑠伊からの人材が派遣されており、その目的は監視任務であったとされる。当初はナトルからの人材派遣が検討されたものの、ナトル側が拒否、瑠都瑠伊から人材が派遣されることとなった経緯があった。ただし、その国内情勢の酷さから、若干の援助がなされ、現状では緩やかに改革が進んでいたといわれる。そういうこともあって、現在では領事館が設置され、いわば、日本の保護国ともいえる状態であったようだ。ために、この国を通じてのオーレリアとの接触であれば、ある程度は日本の希望がかなうこととされていた。


 しかし、オーレリア帝国は移転前のルーマニア西部で留まり、何かをなしていることが観察されていたが、撃破されたのとは異なる偵察衛星により、それが明らかとなった。彼らはそこで井戸を掘っているようであった。当初、誰もがその理由がわからなかったものの、やがてある事実が判明することとなる。それは油田ではないか、との情報が日本本国から寄せられたからである。そうして、瑠都瑠伊方面軍司令部の誰もが、ルーマニアのモレニ油田のことを知ることとなった。つまり、オーレリアではそこに油田が存在することを知っていたのであり、だからこそ、そこを開発しようとしているのだということである。


 とはいうものの、そう短期間で産油施設の建設ができるわけではないはずで、もし、短期間でそれがなされたとすれば、オーレリアの技術力は日本を凌いでいるということになる。ために、日本本国や瑠都瑠伊だけではなく、国連においても、それが注目されることとなった。ちなみに、このころにはシナーイ大陸北西部のの国を含めて国連に加盟していたが、ロンデリア王国、イスパイア帝国、プロリア帝国、グルシャ以外の国がすべて加入していたといえる。


 しかし、オーレリアからの放送電波のなかにそれらしいものはなく、瑠都瑠伊の沢木知事が電波による呼びかけ、すなわち、日本はオーレリアとの対談を望む、という声明を発することによって初めて反応が現れることとなった。しかし、対談場所については双方とも相手国を指名したため、決定に至らなかった。つまり、日本側はオーレリアでの会談を望み、オーレリア側は瑠都瑠伊ではなく、日本本国での会談を望んでいたということである。これは互いに相手国の技術力をその目で見ようという目論見があったためだといえる。


 結局、日本本国との距離がオーレリア側の予想よりも遠かったこともあって、瑠都瑠伊での予備会談、つまり、局長級の外交官と高級軍人による、が行われることとなったのである。とはいうものの、ここで新たな問題が持ちあがることとなった。内陸国家と海洋国家、当初は瑠都瑠伊側が船を用意する方向で話しが進められたのだが、オーレリア側がクレームをつけることとなったのである。結果として、航空機、軍用機ではない旅客機を利用する方向に修正されることとなったが、どちらの航空機を使用するかでもめることとなった。


 最終的に、オーレリア側が自国の航空機を用いて瑠都瑠伊に向かい、地中海上空で瑠都瑠伊の対潜哨戒機P-3C<オライオン>と合流し、先導すると伊いうことで落ち着くこととなった。P-3C<オライオン>が選ばれたのは、オーレリア側が戦闘機での誘導を拒否したためであった。


 瑠都瑠伊方面軍司令部としては、トルトイの原子力関連施設の情報を隠したいと考えており、上空から視認できる飛行コースを極力避けたかったため、あえてその軸線上を飛行することとした。長く見られるよりも、短時間で通過するほうがよいとしたのである。もっとも、操縦席にカメラなど映像記録装置が取り付けられていればあまり意味がないとされた。むろん、自国で原子力機関を利用していれば、おおよそ見当が付く可能性もあったが、それは不可抗力とした。


 もっとも、衛星情報ではオーレリアにはそれらしい施設が確認されていなかったが、少しでもその可能性があるなら避けるべきであろうとしていたのである。ちなみに、偵察衛星はオーレリア上空を四度通過し、五度目に撃破されたが、その間に貴重な情報を多く地上に送っていたとされる。また、撃破された後、大気圏に突入したが、ほぼそのすべてが燃え尽きているはずで、破片は地上に落下していないとされていた。


 ここで問題とされているのは先に述べたように、双方が異なる国勢による国家、つまり、方や内陸国家であり、方や海洋国家であるという点にあっただろう。内陸国家では海軍は存在せず、陸空軍が、海洋国家であれば、陸海空三軍が、あるいは海兵隊を加えた四軍が発達することとなる。結果的に、軍人の思考も変わってくることになるのである。当然として、同じ陸軍であっても、内陸国家の陸軍と海洋国家の陸軍ではその思考はまったく異なると思われた。結局のところ、日本や瑠都瑠伊にとって、これまで内陸国家との交流がない、その一点で今回の対談の問題が発生する可能性が高いといえただろう。


 そうして、新世紀一九年一〇月一六日、瑠都瑠伊で初めて双方がその人的接触を果たすこととなった。日本側の予想通り、人種的にはゲルマン系そのものであった。降りてきたのは、軍人、中将の階級章をつけたものが一人、少将が一人、大佐が二人、中尉が四人、そして、背広組が二人の一〇人であった。旅客機の乗員の八人はそのまま機に残り、警備に付くようであった。彼らの身に着けている軍服はかってのナチスドイツのそれに似ていたかもしれない。彼らにすれば、瑠都瑠伊の気候は暑かったのかもしれないが、そんな素振りを見せることなく、宿舎となるホテルに入っている。


 彼らを迎えたのは瑠都瑠伊の知事である沢木と副知事、瑠都瑠伊方面軍司令部から今村を含めて四人、本国から駆けつけた外交官二人、統合作戦本部から派遣された二人の大佐であった。このうち、今村と副官、本国からの大佐二人とその副官である中尉が二人、そして外交官二人は同じホテルに同宿することとなる。こうして、出現から一ヶ月を経てようやく対談のテーブルが用意されることとなったのである。


 ディナーにおいてもめることも心配されていたが、その点は何も起きなかった。むろん、本格的な対談は翌日から行われるが、少なくとも、交流は始まっているといえた。外交官は双方とも既に対話を始めており、互いに腹の探りあいをしているようであった。今村とて同様で、二人の将官と対話している。双方の大佐はやはり腹の探りあいをしているといえた。これは翌日から始まる対談の前哨戦だともいえる。軍人にとっては、所属する国家は違えど階級がすべてであることは双方とも変わらないようで、それなりの対応は成されていたといえるだろう。


 少なくとも、対話に応じている、という点でイスパイア帝国とは異なるといえた。その点においては日本側も一縷の可能性があるとしていた。つまるところ、日本の、瑠都瑠伊も含めた考えとしては、ラーシア大陸においての問題、ここでは戦争なり紛争を指すが、起こらないようにしたい、そういう考えであったかもしれない。いずれにしろ、日本側としては最初の予備会談である程度の情報を得、それに見合った情報提供を考えていたとされる。そういう意味では、沢木も今村も本国から派遣されてきた外交官が一抹の不安材料といえたかもしれない。


 結果からいえば、会談は何の問題もなく進んでいったといえる。最初こそ、双方の立場の主張から会談の行く末が危ぶまれたものの、日本側がある程度の寛容さをみせたことで、進展することとなった。さらに、国交を開くための次官級会議の開催、外交チャンネルの開設に向けた準備会議の開催、と一応の成果を上げることができたといえる。


 バルカン半島においては、これ以上北進あるいは南進しないことで合意を得たが、国土や領土については明確に境界線を決定することはできなかった。それは当然といえたかもしれない。バルカン半島はともかくとして、それ以外の地域には明確に国家と呼べるものがなく、線引きは不可能だといえたからである。仮に西進すれば、欧州西部に進出しているロンデリアと、北進すれば、ロンデリアの影響圏に達することとなり、ここでもロンデリアの対応次第では紛争が発生する可能性があったといえる。


 日本側はバルカン半島の北のプロリアと南のグルシャを認めさせたこと、イタリア半島(移転前よ小さく、七割程度の大きさであった)への進出が押さえられたことで一応の満足を得ていたといえるだろう。ちなみに、イタリア半島には瑞穂国が標識を立てており、瑞穂国の勢力圏であるとされていたからである。つまり、この時点で、オーレリア帝国を何とか内陸に封じ込めることに成功していたといえる。もっとも、これまで海軍をもたないオーレリアが海軍を編成したとしても、一〇年や二〇年で外洋に出られるはずがないので、意味のないことだったかもしれないといえた、


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