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対話

ちょっと短絡過ぎるような気がしますが・・・・

まあ、絶対的な一神教なんて日本では受け入れられないでしょう。おそらく。日本は八百万の神という考え方がありますから。


 三〇〇〇人の軍勢は中州まで約二kmほどのところで停止し、展開を始めた。それは、銃撃に対する備えであろうと思われた。布陣を終えたそれは、一〇個のグループに分かれていた。少なくとも、固まっていれば、銃撃によって被害が大きくなることを知っているものであった。そして、中州から最も遠い位置にあるグループから、騎馬の一騎が中州に向かってくるのが見えた。橋の向こうで警戒に当っていた四一二分隊に何か声をかけているようだが、今村がいる地点までは聞こえない。


「今村だ」しばらくすると無線機が着信を告げ、応答すると、分隊長の三浦浩和伍長の声が聞こえた。

「話し合いを求めています。話し合いに応じるなら、後ほど代表者を二名遣す、とのことです」

「応じると答えよ、ただし、武器の持ち込みは禁止するとな」

「了解しました」その答えを聞いたのか、伝令らしき騎馬は駆け戻っていった。

「少なくとも、いきなり攻撃はないようだな」木村にそう声をかける。

「そうですね。会談の結果次第では攻めてくるでしょう。どうされます?」

「まあ、会談が終わって相手が向こうに戻るまでは攻撃はないだろう。それから判断する。しかし、会談中の攻撃もないとはいえないから、油断だけはしないようにな」

「はっ、それで会談はどこで?」

「会議用テントを使おう。あそこなら、長机と椅子もあるからな。会談には貴様も出てくれ。その間の指揮は池田に取らせよう」

「了解しました。準備します」

「頼む。俺は服を代えてくる。先に向こうが来たら会議用テントに通しておいてくれ」

「はっ」


 そうして、今村は戦闘服から第一種軍装に着替えるため、宿舎に向かった。調査団責任者の佐藤からはシナーイ帝国との交渉は今村に一任されていた。それは、現在地以北の確保と情報収集であった。少なくとも、佐藤には現在確保されている地域を手放すつもりはないようで、撃退を含めて強攻策の許可が出ていた。それには、今村がオレフやアメリア、その他にこの地の住民から仕入れた情報が関係していると思われた。


 服を着替えて中隊本部に戻ると、既に代表者は来ているという。以外に早い対応に今村は少し驚いたが、会議テントへと向かう。既に木村は相手をしているのか姿が見えない。会議用テントの前には二人の衛兵がおり、今村を認めると、ドアを開け、中隊長入室、と声を上げた。中に入ると、木村が立ち上がって敬礼していた。それに答礼して、木村の隣の椅子まで歩いてゆく。


 代表者は座ったままであり、木村が立たせようとするが、それを手で制して木村の横に立ち、代表者を一瞥してから腰を下ろす。そこで木村の意図がわかる。つまり、今村たちが座るほうが上座に当るのである。むろん、相手は理解していないかもしれないが、もし、理解していたら激怒していたかもしれない。否、知っていて受け入れているのかも知れない。彼らの国は帝国制であり、こういったことにはうるさいはずだからだ。


 代表者のうち、一名はひと目でそれとわかる格好をしていた。地球でいえば、キリスト教の修道院で見られる格好とそっくりであった。おそらく、オレフがいっていたラーム教の僧侶であると思われたが、その地位まではは不明であった。もう一人は、これもひと目でわかる格好をしていた。第二次世界大戦時、中国国民の多くが着ていた服とそっくりであった。ただ、いくつかの勲章などが付けられていた。おそらく、シナーイ帝国の軍高官、もしくは領主のように思えた。


「ようこそ日本軍ウェーダン駐屯地へ、私が責任者である今村です。お会いできて光栄です」

「ラーム教シナーイ支部司祭のアブラハムだ」つっけんどんに答えたのは僧侶と思われる男だった。

「シナーイ帝国ウェーダン総督府三等総督員、チェンエイだ」こちらもぶっきらぼうに答える。

「使節をお迎えできたことは今後のわれわれにとって有意義なことです。して、いかようですか?」

「ラーム教を信じない異教徒どもを即刻引き渡してもらおう。お前たちもラーム教信徒であれば、異教徒を匿う罪は判っておろう」

「残念ながら、わが国ではラーム教など誰も知りません。それに、わが国では信仰の自由が認められており、個人に対して信仰を強制することは認められていない。ただし、一般社会に害を及ぼす場合は宗教であっても排除される」

「なんと!ラーム教を知らぬと申すのか!」

「ええ、今初めて聞きました」

「ではすぐに改宗したまえ。わが支部から司祭を遣わそう」

「司祭、改宗する必要は認めません。先ほどもいったように、わが国では信仰の自由が保障されている」

「ではラーム教の教えに背くのだな?」

「そうではありません。信仰はあくまでも個人の自由ですから、それを守るだけです」

「司祭、その話は後ほどにしてください。まず片付けねばならない問題があるのですから」この話しぶりでどちらが高位にあるのか今村にも理解できたといえる。

「日本国とやらがなぜシナーイの領土を侵すのかね?ウェーダンはれっきとしたシナーイの領土である。それを侵すのはおかしいのではないかね?」

「むろん、侵しているつもりはない。ここがウェーダンという地域であり、日本国は一時的に駐留しているだけです」

「では、日本国はわがシナーイの民を殺害し、あまつさえ、領土を侵していると帝国政府に報告しなければならない。それでもいいのかね?」

「その言い方に誤りがあります。シナーイの民かどうかは知りませんが、平和的に対応しようとしていたわれわれに最初に攻撃を仕掛けてきたのは彼らです。日本国はやむを得ず、自衛的目的のために反撃しただけです。お間違えのないようにお願いします」

「それはおかしいではないか。目撃者によれば、先に攻撃を仕掛けてきたのはお前たちだという。嘘を言うな!」

「嘘ではありません。一〇〇人近い目撃者がいます」

「異教徒の言うことは信じられんよ。ラームに誓って本当のことを言え!」

「彼らはれっきとした人間です。日本国は万人の平等を是としています。われわれは防衛のために戦うが、侵攻はしない」

「どうしても異教徒を渡さないというのなら、ラーム教に誓って矯正する必要がある」

「司祭殿、ますはこちらの問題からです。割り込まないでいただきたい。では、どうしても先に攻撃をを仕掛けたのはわれらだというのだね?」

「事実を述べただけです。お間違えのないように」

「では、われらは日本国を強制的に排除せねばならないが、それでいいのかね?」

「日本国は侵攻はしないが、攻撃を受ければそれを排除しなければならない。本国へは報告するが、私には脅威を排除する権限が与えられている。私はあなたがたが真実を知り、改めて対話できることを望みます」

「ではこれを本国に届けるがよい。わがシナーイ帝国から日本国に対する平和的解決法を明記しておる!」

「聞きましょう。三等総督員の口からどうぞ」


 先にも述べたように、会話は成り立たっても、文字の判読は今のところ、不可能である。だからこそ、口頭で言ってもらわなければならない。むろん、この会話内容はすべて録音されており、これが調査団本部に対する報告の一つとなるのである。


一.未確認勢力(日本国のこと)は直ちにウェーダンから立ち去ること。

二.未確認勢力はシナーイ帝国領を侵略したことを認め、賠償金二〇億元支払うこと。

三.未確認勢力はシナーイ帝国の政治的統治下に入り、シナーイ帝国が派遣する人物を総督として受け入れること。

四.シナーイ帝国は未確認勢力を政治的、思想的に指導する権限を有することを宣言する。

五.ラーム教司祭は未確認勢力にラーム教を唯一の信仰対象とすることを宣言し、それ以外の宗教の信仰を禁止する権限を有する。

六.三日以内に返答が無き場合、シナーイ帝国は武力による制圧を実行する。


 むろん、これに対しては今村に権限がないため、即答はしなかった。本国に伝える、とだけ返答していた。だたし、その三日間の日本国駐屯地に対するシナーイ帝国の使節の滞在は拒否していた。調査団本部には無線で知らせるとともに、ヘリを要請している。六音したメモリーを引き渡すことと詳細な報告を行うためであった。他方、シナーイ帝国軍は一〇〇人ほどをその場に残し、引き上げていった。


 その対談の模様を聞いた佐藤はラーム教に対する批判を強めるとともに、日本の領土内、あるいはこれから興るで在ろう日本の影響国からの駆逐を決意したといえる。彼は以前に日本で起きた、ある宗教団体によるテロ事件と同等だと断じた、と後に今村に話している。結局、この対談、否、シナーイ帝国の要求がその後の調査団のラーム教に対する姿勢、ラーム教駆逐、という基本方針につながることになったといえる。


 結局のところ、日本は宗教の国政介入を恐れたといえるだろう。日本は宗教に関しては比較的寛容であるが、自らにそれを押し付けるような、あるいは強要するような宗教に関してはそうではないといえる。いずれにしろ、この時点で調査団の基本姿勢が決定することになったといえるだろう。それが、調査団だけではなく、日本の基本姿勢となってゆくこととなる。


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