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ローレシアの軍備

 ローレシア対イスパイア戦は、ローレシアが日本の支援もあって、本国への上陸を阻止したことで膠着状態に陥っているといえた。イスパイアにとっては、都合四度の侵攻作戦、といっても前段階の海上戦で抵抗を受けたことで作戦の根本的な見直しを余儀なくされたと思われた。特に、セラージの攻略が早期に撃退されたことで、ローレシア戦線への日本軍の参戦を恐れていたといえるかもしれない。


 もちろん、日本としては今の段階で本格的に参戦する意思はなかった。当然として、この方面を担当する瑠都瑠伊方面軍にしても、日本政府からの指令がない限り、動くつもりはなかったといえる。あくまでも、日本軍の一方面軍に過ぎない以上、独断横行するつもりはなかったからである。しかし、セラー半島での戦闘が発生していたこともあり、準備だけは進めていたといえるだろう。


 他方、もうひとつの戦闘発生国であるロンデリアにおいても、南大西洋での戦いの後、戦略の転換を図らざるを得なかったとされる。彼らにしてみれば、自らの海軍がああも簡単に撃退されるとは考えておらず、被害の大きさに政府および軍上層部は困惑を隠せなかったといえるだろう。つまり、ロンデリアは日本の情報を信用せず、イスパイアを甘く見ていたのかもしれない。その結果が海軍の敗退という結果に表れていたといえる。


 また、国内的志向、自らこそが最高の海軍を有しているという考えと人種的偏見、白色人種こそが最高の人種であり、有色人種は一段低くみる、があったため、共同戦線の構築を行わなかった。結局、ロンデリアとローレシアは個別の作戦を実施していたため、イスパイア軍を助けることとなっていたといえる。これが共同戦を張っていれば、また違った結果であったかもしれない。


 そんなわけで、ローレシアとしてはイスパイアの侵攻がなくなったことで、軍の再編と新兵器、多くは日本製であった、の配備が進められていくこととなった。さらに、対イスパイア帝国への新たな準備、逆侵攻作戦の作成が進められることとなった。これらは、瑠都瑠伊から派遣された安西大佐以下三名が関与することとなるが、日本本国に知られることはなかった。いわゆるローレシアの軍事機密であったからである。


 瑠都瑠伊から派遣された安西陸軍大佐、室田陸軍少佐、磯村空軍少佐、中井海軍少佐のうち、安西陸軍大佐は自身を除く三人を統括、室田陸軍少佐はローレシア陸軍を、磯村空軍少佐は同空軍を、中井海軍少佐は同海軍をそれぞれ担当していた。今回は特に中井少佐への比重が大きいといえた。なぜなら、逆侵攻作戦では南大西洋を渡らなければ、ならないからである。


 今回の作戦では、航空母艦と重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦が主流となる予定であり、戦艦は運用されないこととなっていた。艦載機がこれまでのF-17<バッカス>海軍仕様と異なり、新鋭機のF/A-21<バッカーニア>になり、搭載数もこれまでの二四機から四八機に倍増、対地攻撃能力が大幅に向上していたためであった。


F/A-21<バッカーニア>は瑠素路重工がローレシア側に提案、正式採用された機体であり、外観的にはF-17<バッカス>とよく似ていたが、サイズ的には二周りほど小さいものであった。その諸元は次のようになっていた 全長一七.三m、全幅一一.三m、全高四.六m、自重八三六〇kg、全備重量二万○三○○kg、最高速度M二.一六(高空)、M一.○五(海面高度)、上昇限度一万七〇〇〇m、航続距離三二八〇km(空輸時)、戦闘行動半径八九〇km、エンジン瑠素路重工TF3-RE-80ターボファン×二、推力七五八○kg×二、武装二○mmバルカン砲一基(弾数五六〇発)、AIM-7スパロー空対空ミサイル×四、AIM-9サイドワインダー×四、ASM-1×四、対地誘導爆弾、増槽など六五〇〇kgまで選択搭載可能、乗員数一名というものであった。


 F-17<バッカス>に比べれば、対地および空対艦攻撃能力が格段に向上、空対空戦闘能力も大幅に向上していた。何よりも、機体サイズが小さく、空母に倍以上搭載可能なことが大きいといえた。また、電装関係が最新(とはいえ、日本軍採用機よりは若干劣る)であることから、日本製のミサイルや爆弾などのほとんどが使用可能であったといえる。


 つまり、ローレシアの機動部隊兵力はF/A-21<バッカーニア>を配備することで、それ以前に比べて数倍の向上を見ることとなった。F/A-21<バッカーニア>は移転前の米軍のF/A-18<ホーネット>やこの世界のF/A-6<海鷲>と同様、空対空戦闘から対艦および対地攻撃までこなす一種の万能機ともいえたからである。さらに、名ばかりの万能機ではなく、高性能で使える万能機であったといえるだろう。


 また、F/A-21<バッカーニア>がF/A-6<海鷲>に劣る点はそれほどなく、あえていえば、中射程のAAM-4対空ミサイルとASM-3対艦ミサイルが装備されない、その一点にあったといえる。AAM-4の射程は一〇〇km、対してAIM-7Eスパローは二六km、それだけであったといえる。実際はF/A-21<バッカーニア>もAAM-4およびASM-3対艦ミサイルを運用可能であったが、日本軍がその輸出を認めなかった、それだけであったからだった。


 先にも述べたように、日本軍は米国にライセンス料を支払うのが嫌で、多くの兵器を国産化していた。それは、空対空ミサイルに限らず、艦対空ミサイルや地対空ミサイル、艦隊艦ミサイルなどあらゆる誘導兵器におよんでいた。つまり、それほどの性能を、カタログスペックでは持っていたといえるだろう。もっとも、カタログスペックと実際の性能は異なるが、日本軍はそれを信じていたといえる。


 つまるところ、日本の国産兵器において未知数とされるのが、実戦経験のなさであるといえた。あくまでも、試験においては優秀な結果を残していても、実際の戦闘ではそれと同じ能力が発揮できるかどうか、その一点にあった。対して、AIM-7EスパローやAIM-9Lサイドワインダーにはそれなりの実戦経験あったということである。特に、移転前のベトナム戦争当時、AIM-7スパローやAIM-9サイドワインダーなどのミサイルが試験結果を下回る結果しか出せなかった、そういう経験がAAM-4対空ミサイルやASM-3対艦ミサイルにはなかった、とそういうことであった。


 艦艇においては先に述べたように、改「むらさめ」型駆逐艦が一二隻提供されていた。VLSも装備しているが、日本海軍の装備する○四式艦対空ミサイル(AAM-4の派生型)ではなく、従前のシースパローを搭載していた。それでも、艦隊防空能力は格段に向上していたといえるだろう。従来型駆逐艦にも、八連装短SAM発射機一基が搭載され、四連装艦対艦ミサイル発射機二基が搭載されている。逆に、艦載砲は一二七mm連装砲三基から一基に減らされ、四連装魚雷発射管も三基から二基に減らされている。


 重巡洋艦においても、八連装短SAM発射機四基が搭載され、四連装艦対艦ミサイル発射機が四基搭載されているが、艦載砲は二○三mm連装砲五基から一基に減らされ、四連装魚雷発射管も四基から二基に減らされている。水偵搭載能力も三機から一機に減らされている。いずれも、日本海軍の艦隊防空および対艦戦闘思想に基づく改装が行われていた。しかし、対潜装備は有しない。


 軽巡洋艦においても、八連装短SAM発射機二基が搭載され、四連装艦対艦ミサイル発射機が二基搭載されているが、艦載砲は一五五mm連装砲四基から一基に減らされ、四連装魚雷発射管も四基から二基に減らされている。水偵搭載能力も二機から一機に減らされている。こちらも対潜能力は付与されていない。


 ちなみに、近接防御兵器、日本軍の場合は二〇mmCIWSであったが、ローレシアには類似の機関砲、二五mm自動砲が開発されていたので、改「むらさめ」型も「あぶくま」型もそれを搭載していた。これは単銃身のチェーンガンともいえるもので、発射速度は劣るものの、照準から発射まで自動で行うため、それなりの能力を有していたためである。


 電装関係はレーダーが換装されているが、対潜装備は搭載されていない。そこまでの改装を行うとなると、それなりに期間を要するためであった。そのため、対潜戦闘は提供された改「むらさめ」型駆逐艦だけでは足りず、退役が真近であった「あぶくま」型駆逐艦がすべて提供されることとなった。そして、少なくとも、機動部隊の防空と対潜能力は格段に向上していたといえるだろう。


 これら以外の艦、戦艦や航空母艦、その他の艦艇についてはそのままとされた。というのも、改装にはかなりの期間を要することが判っていたからである。ただし、ローレシア側で小改装、多くは対空機関砲を連装あるいは三連装の二五mm機関砲から二五mm自動砲に換装されている程度であった。これはイスパイア帝国軍の空対艦および艦対艦ミサイルにより、損害が増えていたため、日本海軍の個艦防御思想を反映したものと思われた。


 ロンデリアとは異なり、ローレシアは日本軍の思想を理解し、必要かつ可能なものであれば、取り入れることに貪欲であった。結果として、かっての日本が米軍との共同作戦が行えたように、徐々に日本との共同作戦が可能なようになりつつあったといえる。当然として、たとえ、自国の工業施設が破壊されたとしても、日本からの支援により、継戦能力が低下しないようになりつつあった。


 海空の戦闘方法についても、陸軍国家であったローレシアは日本の支援を受け入れていた。それが瑠都瑠伊から、というよりも、今村から派遣されてきた四人の武官であったといえる。つまり、海軍においては、戦艦による決戦指向の強かったローレシアに対して機動部隊戦の運用についての意見を直接聞くためであっ他といえる。むろん、日本海軍に近代機動部隊運用実績はないものの、各種データだけは持っていたからであろう。


 陸軍においては日本軍はほとんど関与していない。能力的にはともかくとして、実戦経験はローレシアの方が上であったからである。ただ、いくつかの装備、携帯対戦車ミサイルや携帯地対空ミサイル、地対空ミサイルの運用には日本の方が各種データがあったため、それを伝えるためであったといえる。つまり、誘導兵器関連については、ローレシア以上に日本の方が経験があったといえる。


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