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襲撃受く

 新世紀一七年一二月二四日、日本やアメリカ、英国連邦、その他日本の近隣地域ではクリスマス・イブを迎えていたころ、瑠都瑠伊ではある出来事に対応していた。ついにセラージへの侵攻が始まったのである。このセラージへの侵攻については、電子戦機と対潜哨戒機の交代の隙をつかれた形で、対応が遅れ、そのために水際での攻防戦とならず、既に多くの敵が上陸していた。


「第三六師団司令部より入電、イスパイア帝国兵力約三〇〇〇、セラー半島最東部に上陸を始めた、との事です」瑠素路にある瑠都瑠伊方面軍司令部指揮管理センターにオペレーターの声が響いた。

「まさかヘリによる低空侵入攻撃があるとは思わなかったが、上陸舟艇は何か?」今村がオペレーターに聞く。

「いずれもゴムボートです。一〇〇艇ほどが往来しています」

「セラク軍の動きはどうか?」と今村。

「現在、約一〇○〇人が応戦中、しかし、損害が多数発生している模様で、第三六一連隊が急行中ですが、後三五分ほどかかるようです」

「P-3<R-STARS>は?」今村が参謀の一人に聞く。

「はっ、発進準備が完了、いつでもいけます」

「よし、発進させろ!」


 イスパイア帝国軍はヘリコプターによる上陸地点攻撃と支援の下、対岸からゴムボートによる上陸を行っていた。近いうちに何か起こるだろうという動向はあったが、事前に察知できなかったのは電子戦機の燃料補給と交代の対潜哨戒機(電子戦機には劣るが情報収拾は可能として上げられていた)との僅かな隙をつかれたためであった。また、セラー半島にはセラク軍三〇〇〇が展開しており、第三六師団からの部隊展開は行われていなかったためであったとされる。第三六師団司令部ではヘリを上げて情報収集にあたっていたが、いずれも後手を踏んでいたといえた。


 今村のいったP-3<R-STARS>とは何か、それは米陸空軍が共同で開発をした地上目標捜索・監視機、E-8<ジョイントスターズ>を参考にして改造された機体であった。ベースは対潜哨戒機P-3C<オライオン>で、対潜装備をすべて取り外し、マルチモードドップラーレーダーや合成開口レーダーを搭載したものである。特徴は胴体下部のカヌー型レドームであり、データコンソールが一〇基搭載されていた。データコンソールの数はE-8<ジョイントスターズ>に劣るが、デジタル情報リンクシステムが搭載されており、衛星通信が可能なことで、性能的には決して劣るものではなかった。


 この機体は今村が本国に要請していたものの、受け入れられず、瑠都瑠伊で関連企業数社との共同開発がなされたものであった。予算は当初、瑠都瑠伊州政府から出すとされていたが、ローレシアおよびロンデリアとイスパイア帝国との戦争勃発により、本国から出されることとなった。とはいうものの、本国からの予算が支給された時点で、ほぼ開発が終わっていた。現在は一機が完成し、一機が改造中であった。セラージに派遣されたばかりで、訓練の予定日が明日の予定で、訓練が実戦に変わったため、今回が始めての実戦投入となる。


「試験と同じ性能を発揮するなら、一〇〇km先の戦車は確認できるはずですし、一分で約二万平方mの範囲にある地上目標を探知する事ができるはずです。それに地上部隊とリアルタイムで連携が可能です」栗林正道陸軍中佐が答える。彼がこの機体の陸軍開発責任者であった。

「それはいいのだが、問題は第三六師団とは初めての連携という点が気にかかるんだが」と今村。

「第三六師団長は大山元彦中将ですし、幾度も機体のことで話をしています。状況は理解されていると思います」

「とにかく、連絡を厳になせ。産油施設には一歩も入れるな」

「はっ!」


 ベースとなる機体が海軍機であるため、乗員は海軍から三名が派遣されているが、操作員一〇名は陸軍が担当している。今回の戦いで結果が出せれば、今度は国産旅客機MRJをベースにした機体が本国で開発されるはずであった。とはとはいうものの、今村としては今ある機体で対応しなければならない。試験には立ち会っており、その能力は十分に理解していたし、満足してもいた。問題は地上部対のほうで対応できるかどうかであった。瑠都瑠伊の部隊でしか試験していない点が引っかかるのである。


 もうひとつ、このP-3<R-STARS>は作戦行動時には高度八〇〇〇mを六○○km/hで巡航するが、ターボプロップ機であるため、敵機や地対空ミサイルに狙われる可能性が高いことであった。敵機については心配していないが、地対空ミサイルには注意しなければならなかった。ちなみに、本家のE-8<ジョイントスターズ>は一万mを八九○km/hで巡航するし、最高速度も一〇〇〇km/hが可能である。対して、P-3<R-STARS>の最高速度は七四〇km/hしか出ない。


「敵上陸部隊の装備が歩兵用だけとは思えんが、確実なのか?」今村が聞く。

「今のところ、ゴムボートしか確認されておりませんので、間違いないかと思われます」オペレーターが答える。

「気になるのは昨日出発したという貨物船です。最初の上陸地点に向かったとの事ですが、何かの車両を載せてくる可能性があります。それに、港に機雷らしきものが確認されているため、駆逐艦が出せないことです」主席参謀である八原繁春陸軍大佐が答える。

「電子戦機は何も捉えてはいなかったというが?」

「はっ、無線交信はありましたが、目的については何も得られなかったようです。交代で上がった対潜哨戒機も現在は見失っています」大田信繁海軍中佐が答える。


 瑠都瑠伊方面軍司令部は陸海空軍をその指揮下においているため、参謀として空海軍から計四人が参加している。むろん、方面軍司令部の下に陸海空軍司令部が存在する。各軍司令官は陸軍が中将で、空海軍は少将がその指揮を執っているが、これは方面軍司令官が中将であること、陸軍の場合は師団長は中将が任じられるという理由からであった。空海軍司令官は志願者を充てているため、階級が異なるといえる。このあたり、日本本国とは明らかに異なる。結局、瑠都瑠伊はあまりにも遠いため、こうならざるを得なかったといえた。


 セラージ港付近に浮遊機雷と思われるものが確認されたのは敵の上陸が始まる直前であった。浮遊機雷とはいっても、根のないものではなく、機雷の一方にワイヤーが取り付けられており、その先に錘が付いているとされていた。数は約五〇、ほぼ港の入り口に半円状に設置されていた。この機雷の設置も見落とされていた。動き回るゴムボートを探知していたのだが、セラクの漁船と判定されていたためである、結局はセラージ派遣軍が急場しのぎのためであったことが原因であろうとされていた。


 あまりにも、海空軍は日本本国のマニュアルに沿っていたことの表れだといえた。これは大陸調査団派遣という経験の少ないためであり、対して、陸軍はそれなりの経験を積んでいたことの差であったかもしれない。当初から多くの志願者を出していた陸軍と異なり、海空軍は志願者が少ない、いや、志願者はいたのかもしれないが、派遣される機会が少なかった、それが原因であったかも知れない。


「P-3<R-STARS>が現場に到着、任務に就きました。デジタルリンク情報が入っています。もうしばらくしたらスクリーンに表示されます」栗林中佐がいう。

「カラス(P-3<R-STARS>の符丁)より、現場に車両は確認できず、ヘリコプターを二機確認、以上です」オペレーターが答える。

「ヘリ?、対空ミサイルを搭載しているのではないか?カラスをヘリに近づけないように注意させろ」今村がいう。

「はっ!」

「イスパイア帝国軍の空対空ミサイルはこれまで確認されておりませんが、装備しているのでしょうか?」田代雄二空軍中佐がいう。

「判らん!空対地ミサイルが装備されている以上、装備していると考えたほうがよかろう。護衛は?」

「二機上げています。ヘリを攻撃させますか?」

「やらせよう。放っておいては地上部隊の障害となるだろうからな。輸送船が確認されたらこれも攻撃するが、対潜哨戒機に任せよう」

「了解しました」


 初動が遅れたとはいえ、セラク軍は別として、日本軍は挽回しつつあった。P-3<R-STARS>の投入により、それまで以上に対応が可能だったからである。性能的にはともかくとして、十分使用に耐えることを証明してみせたのである。P-3<R-STARS>の航続距離はE-8<ジョイントスターズ>に比べれば短いが、空中給油が可能なため、E-8<ジョイントスターズ>の一回分並みの飛行距離が確保されている。とはいうものの、乗員や操作員の環境を考えれば、それ以上は不可能であった。


 翌日の昼にかけて、敵上陸部隊をセラー半島東端、海岸線から半径一〇km圏内に封じ込めることに成功し、戦車や装甲車を持つ日本軍と体制を立て直したセラク共和国軍は掃討作戦に移行したのである。むろん、降伏勧告はしているが、イスパイア帝国側は応じることはなく、そのため、戦闘が継続されることとなった。瑠都瑠伊方面軍司令部では、海上封鎖を望む声があったものの、こちらは機雷の処理がまだのため、不可能であった。結果として、ゴムボートによる後続の上陸が続けられる羽目になっていた。


 そうして、対岸のイスパイア帝国軍に対する航空攻撃が実施されることとなった。ゴムボート一艇ずつに対する攻撃は費用対効率の面から見ても、得策とは思えなかったからである。地対空ミサイルの配備を恐れたため、ヘリによる攻撃ではなく、空軍機による通常爆撃とされた。つまり、第二次世界大戦後初となる、日本軍機による本格的な地上爆撃が実施されることとなった。トルシャールでのそれとは異なる、半個飛行隊一二機による大規模なものが実施されたのである。


「セラー半島での戦闘は終結しました。わが軍は負傷者こそ出ましたが、戦死者はいません。セラク軍では戦死者一五〇〇人弱、負傷者五〇〇〇人強です。対して、イスパイア帝国は概算で戦死者約一万人、負傷者五〇〇〇人、捕虜約一五〇〇人です。対岸のラームアレスには三〇〇〇人ほどが確認されています」八原主席参謀が報告する。

「当然だろう、敵ヘリの攻撃の矢面に立ったのはセラク軍であってわれわれではないからな。敵の戦死者が負傷者よりも多いとは・・・・ 一種の虐殺になるか」今村が眉を顰めていう。

「とはいうものの、航空攻撃がなければ、こちらにも戦死者が出ていた可能性は大です。それに、セラージ港で民間船舶に被害が出ています」と八原。

「機雷はどうなった?」

「すべてが処分されました。現在は残余機雷が存在しないか調査中ですが、何もなければ、三日のうちに開港されるかと」

「捕虜は?」

「現場で後処理が終わるまで拘束、監視しています。高級士官、といっても大尉クラスですが、五人から事情聴取を行っています」

「何かわかったら知らせてくれ。それと、捕虜は丁重に扱うこと、セラク側にも通達しておいてくれ」

「はっ、既にそのようにいっておりますが、徹底させます」


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