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対談

 新世紀一六年一二月、年が改まるまで一週間という時期にローレシア代表と日本代表との対談がポートマレーで行われた。ポートマレーは移転前の南アフリカ共和国のケープタウンと同じ位置にあった。即席とはいえ、移転前の南アフリカの地図を仕入れていた今村はそう思った。同席する沢木も同様の考えを持ったようである。今回の使節団を運んできたのは、もう退役してもおかしくはないといわれる輸送艦『おおすみ』であった。護衛として、駆逐艦『あさかぜ』『ゆうかぜ』が付いている。


 以前、「おおすみ」型輸送艦に搭載されていたホバークラフト型輸送艇(LCAC)は搭載されておらず、揚陸機能は撤去され、純粋に輸送任務に就くよう改装されている。これは後継艦の「ぼうそう」型輸送艦に引き継がれているからであろう。ちなみに、「おおすみ」型の八九〇〇トンに対して「ぼうそう」型は倍の一万八〇〇〇トンになり、LCACも四隻搭載されている。これも、国連の要請により、陸軍部隊の輸送および揚陸に応じるためで、こちらは上甲板は固定翼機の運用が可能なように補強されていた。準同型艦(排水量は二万トン)は「ワスプ」型として、米軍に二隻存在する。


 ともあれ、対談はポートマレー近郊の高級ホテルで行われた。日本側は先に述べたように今村と沢木、官僚が二人、軍人が一人の計五人、対して、ローレシア側は背広組三人に軍人三人の計六人であった。いずれも黒檀の肌といえるほどに黒い肌に瞳は茶色から青色まで、髪も赤毛から金髪まで、ただし、髪は黒色がなかった。顔立ちはスラブ系のそれに似ていたといえるだろう。移転前の地球ではあまりいない人種であったかもしれない。


 もちろん、今村たちは到着してすぐに対談に挑んだわけではない。前日の夕方に上陸、ローレシア側の用意したこのホテルで一泊、この対談に挑んでいた。そして、対談に出席する人物は双方ともに前もってその経歴を含めて公表されていた。ローレシア側からは陸海空三軍の長官、外務官僚、日本で言うところの事務次官とその部下であった。相手側に対して日本側は格下の人物の出席、という感は否めないが、二人には、今回に限ってある肩書きが付け加えられていた。日本においてはしばらくはなかったと思われる肩書き、今村には日本軍全権、沢木には日本政府全権という、が付いていたのである。だからこそ、ローレシア側もそれにふさわしい人物をたててきたと思われた。今村も沢木も今回の対談に挑む前に日本本国へ帰国し、それぞれの部署で会議をこなしている。


「なるほど、貴国も我らと同じように移転、というのか、それによってこの世界に一六年前に出現したということですか?」ミッシェル・ルソー外務次官が沢木の説明を聞いて答える。

「はい、以後の状況は今話したとおりです」沢木がいう。


 むろん、すべてを話しているわけではない。特に日本近隣のことについては多くは端折っている。沢木が詳細に話したのは中東についてのことである。多くの動画、パソコンの画面上で表示しながらの説明であった。ちなみに、ローレシアでもパソコンは普及しており、それほど驚かれることはなかった。もっともシステムは異なっていたようである。


「このセーザンおよびセラージの原油はわれわれにとっても魅力的ではあるが、供給はしていただけるのでしょうか?ミセス沢木」ルソー次官が続ける。

「もちろんです。国交正常化と通商条約締結後は対価を支払っていただけるなら可能な限り供給できるでしょう。もし、早急に必要であれば、一〇万klまで無償で提供する用意があります」

「ほう、それはどうしてですかな?」

「人道的な面からです。これまでラジオ放送で発電所が稼動せず、多くの公共機関、とりわけ、病院での電力不足が報じられておりましたし、昨夜もテレビで見ましたので」

「なるほど、情報の収集が得意なようですね」やや皮肉をこめてルソー次官がいった。

「いいえ、マダガスカル島にはわれわれの側の多くの民間人が居住しておりますし、中には遠く離れた地域の人々と無線通信で話すことを趣味にしている人もいます。今回は彼らの情報提供もありました。中にはお国の方と話した、という人もいますよ」


 そう、アマチュア無線家がマダガスカル島にも進出していたといえる。彼らの中にはローレシア人と話した、という人物が多くいたのである。むろん、瑠都瑠伊でも数は少ないとはいえ、そういう人物が存在していた。このあたりにも、この世界が一部を除いて安定化しているといえるだろう。もっとも、今回のそれは奇跡とも言えたかもしれない。なぜなら、世界が違う上に、規格が異なっていたと考えられるからである。


「なるほど、ところで、今村将軍」ルソー次官が始めて今村に言葉を発する。

「はい、何でしょうか?事務次官閣下」

「日本軍の領海については一二浬、それに間違いはありませんか?」

「ええ、間違いありません。その海域内に軍艦が侵入すれば攻撃の対象となります。それ以外に排他的経済水域というのがあり、二〇〇浬以内では許可なく経済活動、ここでは漁業という意味ですが、された場合、警告が発せられ、攻撃の対象となることもあります」

「ふむ、それについては若干の相違が認められる。われわれの世界では二五浬が領海ラインで、排他的経済水域という概念は存在しない」

「それは今後の課題として対話を重ねるしかないでしょう。未だ、海洋ではお国を含めて四ヶ国としか出会っておりませんし、そのうちの一ヶ国は対話に応じませんから」

「イスパイア帝国、ですかな?今村将軍」ここで初めて軍服姿の一人が口を開いた。海軍長官のシラーク・ドロワ海軍大将であった。

「おっしゃるとおりです、ドロワ提督」

「ふむ、先ほどまでは判らなかったが、われわれはイスパイア帝国とやらに領海を侵犯されたことがあるが、そちらでは起こっていないようですな?」

「今のところはありません。少なくとも、セーザンを含めた近海では日本の法律を犯していません」

「なるほど、彼らとて石油が必要とみえる。しかし、なぜわが国に接近したのかわかりませんな」

「われわれも現在調査中です。が、セーザンとの中継地に使用しようとしていたのではないか、そう考えています。お国が出現するまでは未開の地でしたから、それまでに上陸していたのかもしれません」


 この時点では日本側はイスパイア帝国に関してはそれほど詳しく話してはいない。南米南端の国家であり、南米を席巻していること、日本側が望む国交および通商条約が締結できていないことなどが知らされているに過ぎなかった。侵攻の意思があるなどとは一切知らせていない。なお、ロンデリア王国については国交正常化と通商条約を締結していること、セーザンに渡航していることなどが知らされている。プロリアについてはそのような国が存在するとだけ知らせていた。


 さらにいえば、この世界の地図は公表しているし、太平洋の各国やラーシア海南岸諸国についても公表している。シナーイ大陸南部については、未だ調査中とだけ公表していた。これは、ローレシアがこれら地域に進出した場合に、問題の発生を極力抑えるためのものであったといえる。少なくとも、移転前の日本に近い科学力を持っていると考えていたため、いずれはこの世界の各地に乗り出すだろう、との予測がなされており、その際の衝突を避ける意味があったといえる。


「今村将軍、マダガスカル島では航空機の発着は確認されていないが、まだ運航はしていないのだろうか?」二人目の軍服を着た人物、空軍長官のアンフェス・オンシノ空軍大将が口を開いた。

「ええ、おっしゃるとおりです。オンシノ将軍。開拓に入ってまだ三年ほど、空港設備が整っていませんし、それほど需要があるわけではありませんので、民間企業も進出をためらっているようです」

「なるほど、セーザンには空港設備は整っているのでしょうか?」

「あります。しかし、軍用空港なので、あまりお勧めできません。少し遠くなりますが、瑠都瑠伊でしたら国際空港が整備されており、民間機も多数乗り入れています」

「瑠都瑠伊というのはお国の領土でしたな。かなり発展しているようですが?」

「ええ、ロンデリア王国と日本本土の中継地として整備されていますし、近隣諸国の安全確保のため、重要拠点となっています」

「というと、陸軍もそれなりに配備されているということですかな?今村将軍」三人目の軍服を着た人物、陸軍長官のアラン・マトーラ陸軍大将が口を開いた。

「それほどでもありません。が、セーザンの東方が不安定なのでその備えのために一個軍が配備されています。マトーラ将軍」

「正直な方だ。普通は軍についてはそれほど知らせることはないだろうに」ルソー次官がいう。

「そうではありません。日本としてはお国とは平和的に、かつ友好的に進めたい、そう考えております。そのためにもできるだけ譲歩するように、との考えです」

「さらにいえば、お国の代表を瑠都瑠伊にお招きすることも考えています。国交が正常化すれば、日本本国へも招待しますし、わが国の現状をご覧いただけたらと考えています」今村に続いて沢木が答える。

「なるほど、よくわかりました。そろそろ昼食の時間ですので、午後からはもう少し突っ込んだ話し合いを望みます」ルソー次官の言葉で休憩とすることとなった。


 そうして、午後からの対談において、早期に国交正常化を計ること、実務会談の早期開催、代表団の瑠都瑠伊派遣が決定された。また、原油一〇万klの無償提供が確認され、以後は資源、多くはインゴットの形であるが、鉄、銅、チタン、タングステン、マンガン、モリブデンなどが当面の交易品とすることで合意している。


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