表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/109

新たな事件

日本国の官僚や政治家があまり外に出ず、瑠都瑠伊の知事や軍に対応を任せている原因の一端が明らかになりますが、実際にありえるかどうかわかりません。こじつけもいいところかもしれません。

 新世紀一六年一二月、インド洋に面したシナーイ大陸西南部、ここでいうのはセーザンやセラージといった地域である、で大きな地震を感知した。むろん、これら地域には津波などの災害は起こっていなかった。瑠都瑠伊方面軍司令部は周辺地域の調査を本国に依頼するとともに、対潜哨戒、P-3C<オライオン>を一六機発進させて調査に当たらせている。これは地震による災害、特に付近を航行中の船舶に対するものであったといわれている。


 そうして、二四時間後、アフリカ東岸を含む衛星情報および衛星写真が転送されてきたのである。が、アフリカ大陸南端、この世界では原始的な原住民が確認されていた地域に、突如として近代的なビル群を有する地域が出現していたのである。地域的には、南アフリカ共和国、ナミビア、ボツワナ、ジンバブエといった地域にわたっていたのである。


 日本本国では緊急閣議が、国連本部では緊急安全保障会議が開催されていた二日後、今度はマダガスカル島の日本領事館からの通報が入ることとなった。それまではほとんど確認されなかった電波が多数確認された、とのことであった。瑠都瑠伊方面軍司令部は海軍艦艇のマダガスカル島への派遣を決定、巡洋艦『こんごう』、駆逐艦『おおなみ』『しらなみ』の出港準備を始めた。瑠素路の空軍部隊のうち、二個飛行隊をセーザンへと派遣することとなった。


 瑠都瑠伊方面軍司令官の今村中将は新しい国家の出現であると判断、万が一に備えたのである。マダガスカル島にはむやみに接触することを避け、様子を見ることが命令された。とはいうものの、同地には軍は進出しておらず、命令は今後派遣されるであろう軍に対してのものであり、領事館に対しては、瑠都瑠伊の佐藤知事からの指令として通達していた。そうして、可能な限りの情報収集と状況報告を義務付けたのである。そうして、完全装備の陸軍一個大隊を貨客船によって派遣を決定していた。


 このとき瑠都瑠伊方面軍司令官今村および瑠都瑠伊知事佐藤が危惧していたのは、出現した国家とイスパイア帝国との関係であったといわれる。もし、出現した国家がイスパイア帝国と同様に好戦的な国家であれば、瑠都瑠伊方面軍との戦闘になる可能性があった。また、新国家とイスパイア帝国が対立し、戦闘に至れば、インド洋の安全が損なわれ、逆に連携するようであれば、中東方面の安全が損なわれる可能性が高いからである。仮に、両国が連携して産油地であるサージアに攻めてきた場合、現状では防ぎようがないと思われたからであろう。いずれにしても、イスパイア帝国よりも先に接触、可能であれば、平和的に、する必要があった。そのための対応であった。


 このころ、イスパイア帝国がアフリカ大陸南部の西側、大西洋側にたびたび上陸していたのが確認されており、それが佐藤や今村の頭にあったからだと思われた。このイスパイア帝国のアフリカ上陸はセーザンへの侵攻の前触れ、と捉える意見が瑠都瑠伊方面軍司令部では多かったのである。いくら軍事国家であるイスパイア帝国でも、侵攻作戦を行うには、本国からはあまりにも遠すぎた。途中に中継地が必要であり、彼らのアフリカ南部への上陸はその中継地の確保ではないか、という見解が多かったのである。


 出現から一週間を経て件の出現国の情報がマダガスカル島から続々と入っていた。というのも、彼の地ではラジオ放送が行われており、その傍受によってある程度の情報が入っていたからである。少なくとも、マダガスカル島では受信できていたのである。その多くは日本でもあったようにパニック前の状態であったといわれている。この時点で本国から原子力潜水艦『はくりゅう』が派遣されており、情報種集に当たっていた。


 衛星情報では、技術的にかなり進んだ国家のようであり、相応の軍事力を有すると考えられていた。幾つかの港湾には多数の軍艦、多くは駆逐艦や巡洋艦であった、が確認されており、大きい空港施設が数箇所存在することも確認されていたからである。また、テレビ放送と思われる電波も確認されていたが、方式が異なるためか、マダガスカル島では受信することは不可能であった。ちなみに、これはイスパイア帝国でも同様であったが、ロンデリア王国に対しては情報公開により、瑠都瑠伊でも放送を見ることが可能であった。


 この時点で、少なくともイスパイア帝国よりは進んだ科学力を有していると考えられた。しかし、接触しているわけではないので、詳細な情報を得るまでには至らなかった。やがて、不審電波の情報がかの国のラジオで流れるようになった。この不審電波とは、マダガスカル島の民間ラジオ放送であった。マダガスカル島では未だテレビ放送が行われておらず、日本および周辺各国からの移民、島民に向けたラジオ放送が行われており、それを受信したものと考えられた。


 出現して一〇日経て、同地域の国名あるいは地域名がローレシア連邦王国と判明する。つまり、マダガスカル島でも、不審電波の受信とその内容が放送され、島民には慎重に対応するよう呼びかけていたのである。むろん、その目的は出現した国家あるいは地域にマダガスカル島の情報を与えるためであった。当然として、その放送の中には、軍が派遣されていることや侵略を受けた場合の対処方法などが織り込まれていた。


 つまり、一種の情報戦ともいえたわけである。むろん、それらは瑠都瑠伊方面軍司令部の依頼を受けて行われたといわれる。このころには、歩兵三個大隊からなる一個連隊が当地に派遣されており、また、フェリーを含めた貨客船一〇隻および護衛の艦艇四隻が派遣されていたのである。空港施設が不備なため、空軍戦力は派遣されていない。というよりも、無給油でセーザンからマダガスカル島まで飛べるような機体は瑠都瑠伊方面軍では限られていたのである。民間の旅客機であれば可能であったが、先に挙げたように、空港設備が不備なため、運航はされていなかったのである。


 出現から二週間後、ついに接触することとなった。マダガスカル島南西部沖、一二〇浬で哨戒任務に就いていた駆逐艦と北進してきた巡洋艦が接触、当初は睨みあいが続くも、発光信号による対話がなされることとなった。むろん、艦載砲をお互いに指向するなど緊張も高まったが、やがてそれも修正され、平和的な接触となった。双方とも自艦に相手を招待しようとしたが、結局、日本側が折れ、相手の巡洋艦、『シュフラング』に移乗しての対話となった。


 先のロンデリア海軍艦艇にもいえるが、ここまで簡単に相手側と接触するのは日本国の厚生労働省からはあまり良く思われていない。というのも、未知の病原菌に感染する可能性が高いというのがその根底にあったからであろう。しかし、いずこの海軍、たとえ、世界は違っても、艦艇では洋上での疾病発生を恐れるものであり、先進国の艦艇であれば、防疫体制は徹底しているであろう、そういう考えの下、接触が許されていたといえるだろう。日本側艦艇に相手を招待しようとしたのは、そのあたりのリスクを軽減するためのものでもあったとされる。結果的に今回は相手側の艦艇に移乗したが、これまでと同じく、艦艇は桟橋に接舷する前に外部を洗浄され、乗員においては一定期間、多くは一週間とされる、隔離されて健康状態を調べられることとなる。そうして、異常がなければ、通常業務に戻ることとなる。それが、厚生労働省の最低限の条件であった。


 ちなみに、これまで、一度だけ発見された疾病があった。それは未知のものではなく、衆知のもので、天然痘であったようだ。これは公式には公表されていないが、大陸調査団派遣軍時代に多くの兵から確認されていた。幸いにして、発症するものはおらず、安全とされた。しかし、日本国内では高齢者を中心に多数発症したが、それほど重い症状は出なかったとされた。ただし、感染力はそれほど強くないものとされ、若年層には感染例が報告されない。報告されているのは七〇歳以上の高齢者のみで、なおかつ、移転後に海外渡航の経験のないものに限られているようである。現在では予防接種により感染を防ぐことが可能とされている。


 巡洋艦と判断されたのはその大きさと艦影にあった。排水量一万トン、主砲塔が大口径(後に二〇.三cmと判明)連装四基と、第二次世界大戦時の巡洋艦に似ていたからである。ただし、航空機は固定翼機ではなく、ヘリコプターが搭載されており、高角砲の代わりにミサイルランチャーと思われるものが四基搭載されていた。そういうこともあって巡洋艦、しかも、重巡洋艦と判断されたのである。


 ちなみに、接触時にここまで緊張が高まったのには理由があって、この接触が行われる前に、かの国は領海侵犯してきた国籍不明艦との間で戦闘が発生したことに由来する。対話の中で、その国籍不明艦がイスパイア帝国軍の艦艇であったことが判明することとなった。この対話において、両国軍高官および外務官僚による対談の早期実現、で意見が一致、一週間後に場所はポートマレー、出現した彼らの国でも有数の港湾都市だという、で行われることとなった。


 接触した駆逐艦『あさかぜ』艦長によれば、移転前の一九九〇年代初め、と思われる技術力を持っていると思われた。そうして、この会談に派遣されるのが、瑠都瑠伊方面軍司令官今村と副知事を務める沢木の二人、さらに数名の官僚および参謀が佐藤によって指名された。護衛のために海軍陸戦隊一個小隊が帯同することとなった。このあたりにも、日本本国、というよりも、厚生労働省の思惑が感じ取れるかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ