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欧州情勢

 この世界に現れたロンデリア王国は瑠都瑠伊との接触で、一応の国内安定化を果たしていたといえる。当面の懸念であった石油についても、セーザンという原油の輸入先を確保できたことで、国内での消費がまかなえることとなり、移転前の状態に戻りつつあったといえるだろう。彼らにとっての問題があるとしたら、これまでは植民地から格安に入手できていた香辛料などが輸入によって、しかも、価格が上昇していた、による入手しか方法がなかったといえる点であったかもしれない。


 そして、いまや最重要となったシーレーンの安全確保のため、幾つかの方策を打ち出すこととなった。その中のひとつが、ドーバー海峡とジブラルタル海峡の安全確保にあったといえるだろう。その結果、ドーバー海峡はラーシア大陸側のカレーとジブラルタル海峡のアフリカ大陸側のセウタの開発が推し進められることとなった。瑞穂国人によるマルタ島開発もそのひとつであったといえる。


 石油が確保されたために稼動し始めた本国の工業力の三割、多くの失業者をこれにつぎ込んでいたといえる。むろん、日本やその周辺国からの資源輸入にも踏み切っていた。いまはなりふり構わず、移転前の国力にいかに戻すか、ということに重点が置かれていたようである。とはいうものの、日本からの、というよりも、瑠都瑠伊からの工業製品の輸入は制限していたが、日常品や医薬品といったものは受け入れていたといえるだろう。


 彼らは未だ黄色人種である日本人のすべてを受け入れているわけではなかった。同じ白人であるトルシャール人や英米仏人たちにおいても、その根源が日本に移住していたということで、受け入れを躊躇していたといえる。それでも、国内では外政のことよりも内政重視、ということで先送りにしている常態であるといえた。


 とはいうものの、近隣には進出を始めていたといえる。移転前のデンマークやオランダ、ベルギーといった地域である。移転前は彼らの勢力圏であった地域であったが、国内にこれら地域から多数の人が移住していたこともあり、開発に乗り出していたのである。むろん、日本から移転後に取った方策も聞いていたため、それに習ったものであろうと思われた。ただし、彼らの不幸な点は、これら地域がいずれも資源が少なかったという点にあったといえる。また、食料生産は急務であり、本国よりも温暖な地域への進出が急がれていた。それがフランスのカレーであり、ジブラルタルのセウタであったといえるだろう。


 彼らの進出は内陸部ではなく、多くが北海や北大西洋沿岸部を目指していたといえる。フランスやスペイン、ポルトガルといった地域である。これら地域はロンデリア本国よりも温暖で、農作物の栽培が可能であろうと考えられたためであると思われた。幸いにして、これら地域には原住民が多数居住しており、彼らなりのやり方で勢力圏に組み込んでいったといえるだろう。むろん、日本では決してやらない方法であった。もっとも、戦前の日本では稀に行われたいたかもしれない。


 ロンデリア王国の常備軍は八〇万人といわれていたが、多くの植民地を失ったことで、この時点で六〇万人であったが、さらに、縮小されて四〇万人まで減らされる予定だったといわれる。もっとも、東のプロリア帝国や南大西洋のイスパイア帝国の存在を知らされていたことで、今すぐにというわけではなかったようである。その多くは欧州にあって、地中海東部には進出することはなかった。


 もちろん、日本としては実際に確認したわけではなく、ロンデリアからの通達であった。日本の軍事力を重く見ていれば、軍事力を縮小するようなことは普通考えられないが、それでも、実際には部分的に実施されていたようである。というのも、衛星情報ではそう思われたからである。日本としても、余計な問題を起こしたくないため、地中海には稀にしか軍艦が進出することはなかったといわれている。


 いずれにしても、地中海においては双方による非武装化という状態であった。もちろん、双方によって話し合われたわけではなく、暗黙の了解という状態といえた。そして、瑠都瑠伊駐留海軍が地中海に出る場合、駐瑠素路ロンデリア領事館への連絡が常態化していた。とはいうものの、その回数は多くはなかったといえる。日本海軍の多くはラーシア海や紅海の通行がほとんどであったからである。


 紅海の通行はセーザンやセラージへのものであり、インド洋北部の哨戒が主な任務であった。とはいうものの、最近では艦艇によるものよりも、対潜哨戒機による哨戒が主であり、艦艇は両港に移動するための場合がほとんどであった。瑠都瑠伊方面軍司令部ではそれほどこの地域を重要視していたといえる。いうまでもなく、イスパイア帝国に対するものであったが、この点においてはロンデリア側もある程度は了承していたといえる。


 結局、日本軍も地中海以西には進出することはなく、現状では衛星情報とロンデリア側の公表、瑞穂日本国の情報以外に欧州の情報を得ることはなかった。というのは表向きであり、実際には駐在武官や大使館からの情報もあった。その多くは同国のテレビニュースなどであったが、稀に非公式のニュースも混じっていたといわれる。このころには、NHKを含めた放送局がロンデリアに人員を派遣しており、それらの情報も含まれていたといわれる。


 もっとも、日本はともかくとして、欧州各国、特に英仏蘭はロンデリアの欧州進出を良くは思っておらず、双方の大使による個別対談で不快感を表すことがあり、それは各種メディアで報道されてもいた。ただし、日本政府としては各大使に関与しないことを通告してもいたため、日本に類がおよぶことはなかった。彼らとしても、かっての祖国が存在した地域に対する愛着は強かったということになる。


 欧州西部はそのような状況であった。プロリア帝国も今のところはあえて西進することはなく、国内整備と瑠都瑠伊との交易に傾注していた。東部もウラル山脈を越えることなく、ラーシア大陸東部に進出しているロシアとの衝突は起こっていなかった。ちなみに、このころのロシアは歩兵用装備、拳銃や小銃といった武器弾薬は自前で生産できるようになっていた。当初は日本の六四式自動小銃とその弾薬を購入していたが、三年年前から工業機械の導入を始め、当初は六四式自動小銃をライセンス生産していたが、その後はAK47突撃銃とその弾薬の製造を始めていた。その他、トラックやジープといった自動車は輸入している状態であった。


 当初、日本も国連も反対意見が多かったのであるが、プロリア帝国が出現してからの強情さは各国とも辟易するほどであり、結局、最新式でなければ、ということで工作機械を供給し、ライセンス生産を認めるということになったのである。そして、AK47突撃銃の製造に関しては、わざわざ事前に通告まで行っていた。ロシア側としては、第二次世界大戦当時のソビエト連邦と同じ技術レベルであれば、歩兵主体で十分対抗できるとしたものであろうと思われた。これに対して、日本はたとえプロリアと武装衝突が発生しても、ロシア側から仕掛けた場合は一切の支援は行わないと強く通告している。


 ただ、日本にも国連にも確認はされていないが、数少ない原住民を強制的に軍備に付かせたり、多産制度を強要したりしているとの噂もあった。そのため、ここ一年ほどは日本との対立、というよりも国連との対立が進んでおり、孤立化が進んでいたともいえる。少なくとも、自給自足が可能なまでになっていた証ともいえるだろう。もっとも、完全に孤立してしまえば、将来的には技術が失われ、退化していく可能性もあり、国連脱退はありえないだろう、というのが日本や英米仏の見解であったといえる。


 このロシアに対しては、レナ川を越えて西進した場合、日本は支援しないとも通達しており、国連決議としても決定していた。そういうこともあり、現状ではレナ川を越えることはなく、プロリアとの衝突は回避されていたといえる。また、日本軍の一部には、ロシアとプロリアの連携を懸念する声もある(今村もその一人であった)が、現状では双方とも相容れないだろう、という意見が主流を占めている。結局、瑠都瑠伊方面軍はこちらにも対応しなければならなかったといわれている。


 当然として、日本軍を駐留させることは不可能であるため、これはキリールやウェーダンの海軍が対応せざるを得ないだろう、そう今村は考えている。ちなみに、このころには両国とも、一〇○○トンクラスの巡視船一二隻からなる海上警備軍を練成していたのである。ウェーダンはファウロスにも同規模の海上警備軍を配備していたが、徐々にファウロス側を重視し、ラーシア海側は軽視するようになっていった。結果として、キリールのサリルが日本海軍にとって重要な根拠地となっていく。さらに、両国北部のラーシア海側には一個師団程度の陸軍も配備されていた。これはラーシア海対岸の有事に備えたもので、今村が両国軍部に通告して整備させていたものであった。それは一〇年前に遡ってのものであった。


 話がそれたが、瑠都瑠伊にとってはラーシア大陸西部が重要であって、東部、もっと言えば、ウラル山脈以西は重要であったが、それ以東は大して重要とは考えていなかったといえるだろう。なぜなら、中東、というよりも、瑠都瑠伊の安全にはそれら地域の安定が影響するが、ラーシア大陸東部の国情は影響を受けないからであった。むろん、日本にとっては逆であったかもしれないが、現状でまともな海上輸送能力を持たないロシアなど、脅威ではないとする意見が多かったのは事実であった。


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