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瑠都瑠伊

遅くなりました。


 新世紀五年一二月、沢木の瑠都瑠伊総責任者就任以来、これという問題もなく、順調にきていた瑠都瑠伊周辺はこの月に入って思わぬ事態に巻き込まれていた。本国からの調査団が多数押し寄せていたのである。原因は隣接地のトルトイ北部にあった。大陸調査団という名目上、沢木の元には官民問わず、資源調査の専門家が幾人かいたが、彼らの調査が思わぬ資源を発見していたからである。それはトルトイ北部の山中にあった。


 移転以来、各種資源を得るため、調査してきた日本であったが、その中でどうしても入手できない資源が存在した。日本の影響下ににあるといえるシナーイ大陸北部ではこれまで発見されず、ラーシア大陸東部に入ったロシア領でも、フィリピンやインドネシアでもこれまで発見されなかった資源、それが発見され、しかも、埋蔵量が多く存在すると思われた、が発掘されたからである。その資源の名をウランという。


 化石燃料たる石油や石炭が多量に産出すれば、原子力の原料たるウランは必要がないと思われがちであるが、現実問題として、移転前には国内発電はその多く、約五割が原子力発電に切り替えられていた。そして、原子力発電の燃料棒として、それ以外にも必要だったが、これまでまったく発見されなかったのである。それがここにきて発見されたのである。大騒ぎにならないはずはない。瑠都瑠伊の原子力発電所も、燃料棒は日本本土での残り少ない予備燃料棒を回すことでやっと建設が決定されたものであった。むろん、グアムやソロモン、東シベリア(ロシア人が開拓している地域をそう呼ぶ)などにも建設していたため、国内での発電所用燃料棒が不足する可能性が高かった。


 化石燃料たる石油に関しては、移転前の中東にあたる地域で発見される可能性があったが、この世界では現在のところ、それは望めないとされていた。なぜなら、トルシャールの南、セランのさらに南に当るからであり、それら地域はラームルの勢力圏であり、容易に足を踏み入れることができなかったからである。幸いにして、波実来、ストール、サリル、東シベリアでそれなりに大きい埋蔵量があるとされる油田が発見されているため、現状ではそれほど支障は出ていないが、将来的にはラームルの砂漠地帯の開発が必要であろう、そう考えられていた。


 グアムに移住したアメリカではこれら地域の確保と開発が日本政府に打診されてもいた。しかし、日本政府はそれを時期尚早として認めず、現状ではほぼ放置状態であった。日本政府としては、現在稼動している施設の維持と新規建造の発電所の維持こそが重要と判断されていた。ちなみに、移転前のアラスカ油田やメキシコ湾沖油田、北海油田など可能性のある地域は存在するが、日本国一国では早期の調査と開発は不可能であると判断されていた。


 そのような状況下でのウラン鉱脈発見であった。もちろん、移転前のように多くの国がウランを欲しているわけではない。が、それでも発見されないよりはされた方が良いのである。少なくとも、これまで日本政府が拒否してきた、朝鮮半島や中華地域での原子力発電所建設が可能になったからである。それが、このときの瑠都瑠伊の状況であった。そして、トルトイに移住するトルシャール人の有望な外貨獲得源となるはずである。


 トルトイは先にも述べたように、ナトル湾奥地のほぼ中央に位置する。北には一〇〇○m級の山が連なる山地であり、東には南北に流れるトルトイ川に囲まれており、南は森林地帯であった。だからこそ、トルシャール政府(暫定)はこの地をキリール系トルシャール人の居住地としたのであろうと思われた。域内の多くはなだらかな平原であり、随所に森林地帯が存在する。ナトル湾に面した地域の多くは絶壁であるが、その高さはそれほど高くはなく、平均して五mほどであった。北部に砂浜が見られる。


 トルトイの南、森林地帯を境に瑠都瑠伊がある。東にはトルトイ川が流れており、その川が南から方角を西に変えてナトル湾にそそぐ、つまり、その多くが川に囲まれた地域であった。グルシャ人居住地とされたナトル半島とはその川が境界線となっていた。域内はトルトイと同じように、なだらかな平原であるが、随所に小高い丘陵、平均三〇〇mが存在し、森林地帯もあった。沿岸部には砂浜はなく、リアス式海岸といえる。


 トルトイ川の南西にはナトル湾と剣湾(細長い入り江が剣に似ていることからこの名が付いた)に挟まれて西に伸びるのがナトル半島であり、形は先に述べたように下北半島を東西を逆にした形に似ており、先端部は北に向かって膨らんでいた。ナトル湾側の多くはトルトイや瑠都瑠伊と同様であるが、北東部は砂浜で形成されていた。半島の最北端と対岸の間は約一〇〇kmほどあり、長さが二〇〇kmもあるナトル海峡を形成していた。


 つまるところ、ナトル海峡を押さえられれば、瑠都瑠伊は商港あるいは軍港としての役はなさなくなることが考えられた。もちろん、それに対する備えも考えられており、グルシャ側とは国際海峡であるとして、共同管理を行うことになっている。もっとも、現状では日本が単独で管理しているといえた。


 いずれにしても、これらナトル湾沿岸部は開発が進められており、特に瑠都瑠伊では建築途中の高層ビル群がいくつか見られるようになっていた。対してナトル半島およびトルトイは平面的(つまり平屋建ての建築物ばかりであり、いずれも瑠都瑠伊に近い地域に密集する形で開発されていた。これは、多くの住人が瑠都瑠伊からの支援を得ているためであった。トルトイの首都トルトイは瑠都瑠伊に近い沿岸部に造成され、ここだけはそれなりに高層建築物が認められている。が、せいぜいが四階建てまでであった。ナトルの首都も瑠都瑠伊に近い場所に造成され、こちらもトルトイと同じように開発されている。しかし、建築様式は三者三様であり、まったく異なるものであった。


 先に述べたウラン鉱脈が発見されたことを境に、開発の度合いが大幅に変わることとなった。つまり、それまで以上に本国からの人員が増強され、開発速度が早くなったのである。沢木や今村は知らなかったが、本国では、再処理工場も含めた総合施設の建設をもくろんでいたようである。それが公にされるのは工事が完了してからのことであった。化石燃料が移転前の地球ほど存在するかどうか不明であり、さらに、使用済み核燃料再処理は必要であるため、日本から遠く離れたこの地に青森に続く二つ目が建設されたといえる。とはいえ、現時点では計画だけであり、それも機密ということで知る人間は少ない。


 ちなみに、再処理工場は日本本国の青森県に建設が進んでいたが、能力的に少し不備な点があった。その不備を補うための新規建設を計画していたが、建設地をめぐって日本国だけではなく、在日国連が反発、結局、計画は中止となっていた。それが、ウラン鉱脈発見により、再燃、結局、瑠都瑠伊に建設されることとなった。つまり、ウラン精製と再処理を同時に行おう、そういうわけであった。後に、双方とも、トルトイに計画が変更され、それら区域、半径八〇kmは警戒が厳しく、キリール系トルシャール人でも居住が制限されることとなった。このあたりに、日本を含めた移転組国家のエゴが見られるが、安全管理は徹底されることとなり、結局はなし崩しに黙認されることとなる。


 それはともかく、開発が急ピッチで進められることになったのは瑠都瑠伊においては良いことであるといえた。開発が進んで波実来のようになれば、軍も含めてすべてが本国の管理下に置かれると考えられたからである。しかし、現状では沢木と今村にかかる負担は大きいものであったといえる。ナトル共和国(グルシャ人たちはそのように命名した)とトルトイ国との外交上の手続き、瑠都瑠伊域内での民間人への対応など細かなことは沢木が受け持ち、陸軍一個師団の指揮を含めた軍事面や周辺地域の治安維持などは今村が取ることになっていたからである。


 特に、今村にかかる比重は大きいといえただろう。セランとトルシャール国境の警備、ナトルや瑠都瑠伊、トルトイとトルシャールとの境界線の警備、瑠都瑠伊域内の警察任務と多肢に渡る任務が彼の指揮する軍に化せられていたといえるだろう。ちなみに、この軍は安部指揮下の二個連隊に新たな志願者による二個連隊からなっており、自動車化された歩兵部隊といえる。本国軍のように機械化されているわけではない。半年から一年後にはファウロスにある安部少将がここに赴任するはずであり、それまでは今村が指揮することとされていたのである。安部がファウロスから動けない理由、それはシナーイ帝国の動きにあった。


 沢木にしても、部下がそれほどいるわけではないから、その職務は多忙を極めているといえた。志願してここに移民してきた日本人技術者、その配偶者や移民としてきたものの職のない人間を臨時で雇うほど多忙であったのである。彼女にしても、半年から一年後にはファウロスにある佐藤が赴任するまでの期間とされていた。


 つまるところ、ウェーダンやキリールは環境が整いつつあり、本国から外務官僚、大使や領事官などに移行し、大陸調査団の手から離れつつあったのである。ただし、カザルやウゼル、トルシャールは未だ大陸調査団の管轄とされていた。これら地域はファウロスよりも瑠都瑠伊に近く、最終的に大陸調査団の本拠地は純然たる日本の領土である、ここ瑠都瑠伊に移動するはずであった。


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