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新体制

 新世紀三年六月、移転から丸三年を経たこの月初頭、南原総理の提出した法案が議会を通過、パーミラは正式に日本国内州とされ、既に移民から選ばれていた人物が州知事となり、佐藤審議官の任が解かれることとなった。結果として、佐藤はファウロスに移動し、ウェーダン以西の諸問題の解決に当ることとなった。駐留軍においても、八月の国内軍先遣隊の到着を待ってファウロスへ移動することとされた。


 しかし、今村の地位は変わることはなかった。なぜなら、パーミラ駐留軍は規模を拡大して、進出することになった。つまり、連隊規模の進出軍が一個師団規模、一万二〇〇〇人になり、その指揮官として安部少将(野戦任官によっで昇進)がファウロスに着任することが決定したからである。むろん、この師団の中に今村の連隊が含まれているが、指揮官は変更無しとされた。そして、今村も野戦任官により、少佐となり、一個連隊を率いることとされた。このあたり、元々、軍人が少なく、さらに、志願者も少なかったため、現有戦力でやりくりするしかなかったといえる。


 安部少将指揮下の四個連隊のうち、残る三個連隊の指揮官はいずれも大佐であり、より本国軍に近づいていた。これは当初の志願者がまとまって派遣され、新たな志願者の中に大佐が三人いたことによる。しかし、本国軍とは異なり、あくまでも有事の際の特殊軍との位置づけであり、安部師団長や今村など一部の人間が地位を上回る部隊を率いることとなっていた。そういった指揮官は歩兵だけではなく、施設大隊や飛行大隊にも見られることとなっていた。


 そんな中でも、今村の率いる第一連隊は一際異彩を放っていたといえる。指揮官たる今村にしてからが少佐であり、大隊を率いるのがいずれも中尉であったからであろう。たしかに部隊にも大尉はいたが、いずれも予備役兵上がりということで指揮権はなかったからである。二名とも、今村の参謀として、連隊本部にあった。誰も彼もが地位以上の規模の部隊を率いていたからであろう。


 それでも、これまでに比べれば、より指揮系統が整えられていたといえる。それまでは今村の直接の上司は安部というよりも佐藤に近かった。なぜなら、今村の任務そのものが軍事だけではなく、外務官僚のように、他国あるいはそれに準ずる勢力との交渉、資源調査などの技官に準ずる任務が多数含まれていたからである。その例が先にも述べたように、ウェーダンおよびキリールとの交渉、資源の発見および発掘、食料の確保に繋がっていたといえるだろう。


 しかし、ここに来て、佐藤自身がウェーダンに進出、その部下がキリールに進出したことにより、今村は本来の職務である軍人としての任務に集中することができるようになっていたといえる。むろん、安部が進出してくるまではこれまでと変わらないが、それでもキリールとの交渉などは佐藤の部下に押し付けることが可能となっていた。その分、今村の任務は軽減されることになったといえた。


 八月になり、安部が師団本部および三個連隊を率いてファウロスに進出、本格的に体制が整うこととなった。むろん、すべての軍がファウロスに駐留することはなく、第二連隊隷下の一個大隊はウェーダン北部のストールに進出、そちらでの治安維持および警備任務に就くこととなった。第四連隊はキリールとの交渉が済み次第、キリール北西部に進出する予定であり、安部の元には第二連隊の残余部隊および第三連隊が残るのみで、それは南のシナーイに対する備えとされた。


 とはいえ、第一連隊以外は即応能力が低く、いざ戦闘となった場合、その能力は十分に発揮し得ないであろう、と佐藤や安部は考えていたのである。それは第一連隊に<ペイブロウ>が配備されていることでもわかることであった。これは<ブラックホーク>では輸送人員が少ないことからの処置であった。つまり、第一連隊に緊急展開能力を付与するためであったと考えられるからである。


 そんな状況であったが、今村は自分のことを考えている暇はなかった。なぜなら、ウゼル王国との国境線での動きが慌しくなってきたからである。今村の元には定期的に飛行する海軍の対潜哨戒機や空軍の輸送機などからの情報が入るからである。むろん、これは今村が安部に要請していたもので、八月後半になって運用されるようになっていたのである。


 この頃、波実来(パーミラの漢字表記)には海底ケーブルが施設され、日本本国との通信は無線を使用することなく可能であった。これは波実来が沖縄県と同様に通信ネットワークが完備された、そういうことになる。インターネット(というには限定されすぎてはいたが)による基本的な双方向通信も可能だということであり、銀行ネットワークの構築も可能だということになる。つまり、少し開発の遅れた日本国内、そういえるまでになっていたといえるだろう。


 同様に、防衛マイクロネットワークすら整備されていたのである。だからこそ、日本の国土といえるのである。対して、ウェーダンやキリールにおいては、未だ連絡手段は無線でしかない。なぜなら、国土があまりにも広大であること、工業化が進んでおらず、技術的に未発達であることから、現状では不可能であろうと判断されていたのである。日本がこれを両国に代わって行うとなれば、莫大な資金が必要なため、技術的にはともかくとして、経済的には不可能だったのである。


 ウェーダンのファウロス近郊には二四〇〇m級の滑走路を備えた本格的な空港が整備されていたが、未だ航空輸送は開始されていなかった。同じ設備はウェーダン北部のストールにも整備されているが、こちらは一週間に一便だけとはいえ、波実来との航空路が開かれていた。なぜなら、こちらは日本の民間企業が進出しており、本国との輸送路が必要と思われたからである。もっとも、航空管制などは空軍が担当し、税関など一部の機能が国土交通省による運用であったといえる。本国との直行便が運航されていないのは厚生労働省が反対していたからである。この時点においても、厚生労働省内部では未知の病原菌の国内侵入を恐れていたからである。移転前のように各国に厚生労働省のような機能が存在すればまた別であろうが、現状ではすべて日本が行わなければならないからである。


 キリールの首都ルーサ(王都から首都に呼称が変更されていた)近郊にも空港設備の整備が進められているが、こちらはまだ軍用基地としての運用が前提とされていた。民間人が進出しているわけでもなく、運航しても意味がないからである。それに、周辺域が安定しているとはいえず、民間人の進出はには時期が早すぎるという判断もあったと思われる。


 同様のことはファウロスにも言えた。こちらは少ない数の民間人が進出してはいたが、大河を挟んだ南が敵対するシナーイ帝国であることから、民間人の渡航は制限されていたといえる。そのため、空港施設を利用するのは海軍基地航空隊および空軍に限られていた。海軍の場合は対潜哨戒機であり、空軍の場合はF/A-4戦闘攻撃機およびC-130輸送機などであった。


 F/A-4戦闘攻撃機といえば聞こえはいいが、実際のところはT-4練習機に機関銃ポッドを装備、軽爆装を可能とし、胴体を延長して航続距離を二〇〇〇kmに延ばしたものに過ぎない。念のためということで進出しているが、パイロットは予備役兵上がりの志願者であった。同様に基地要員も多くが志願者で構成されていた。任務としては、偵察が主任務であり、それ以外の任務は稀に人員輸送などが入る程度であったといわれる。


 ともあれ、こうして体制が整いつつあり、これら二国に展開する軍の活動も初期のそれに比べれば、遥かに改善されてきていたといえる。少なくとも、陸上輸送だけではなく、航空輸送や航空偵察が可能になったことはより軍の安全性を高めることになる。これが、歩兵を中心とした陸軍軍人のストレスなど精神面に与える影響は軽視できないものがあった。事実、軍医の下を訪れる兵が大幅に減少していたのである。


 それは指揮官たる安部や今村に与えた影響は非常に大きいものであったといえる。なぜなら、これまで不可能だった任務が実行可能になり、かつ、安全性が増したことで、将兵の士気の低下が防げたからである。特に、最前線に立つ今村にとっては非常に重要なことであった。航空支援があるとないとでは、将兵に与える精神的な影響が大きく異なるからであった。また、これまで極限された情報か、精度の低い宇宙からの情報に加え、精度の高い情報が得られることとなったからである。


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