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西方境界線

GW中は可能であれば、毎日更新するかもしれませんが、そうしない可能性もあります。しばらくはシナーイ帝国は登場しないでしょう。

 時間は遡るが、新世紀元年一二月二四日、今村たちはウェーダン南西部の街、トレンセン近郊にいた。理由はこの近郊でキリール王国の人間が多数現れ、境界線を越えているということであった。さらに、これまで見たこともない人間たちも混じっている、という結果、今村たちが調査に派遣されたのである。ウェーダンの西の境界線は小さい、といっても大陸的にであって、日本人的に見れば、かなり大きい河をその境界線としていた。幅一〇〇mはあろうかという河である。この一〇〇というのは水の流れているという意味で、日本でよくいわれている堤防から堤防までの幅ではない。


 今村たちがこの地に駐屯地を設けたのが六日のことであり、今日で一八日目であった。そうして、三日目に件のキリール王国の人間たちと接触することとなった。そして、彼らは明らかにウェーダン人と異なる容貌をしていた。どちらかといえば、日本人に近いが、日本人以上に彫りの深い顔立ちをしていた。中には明らかに肌の色が白い人間たちも混じっていた。彼らの多くは薄汚れた着衣を着ており、明らかに何かから逃げてきた、そんな印象を今村たちに持たせた。


 この境界線である河、名をトレンス河という、のトレンセン近郊には巨大な中洲が形成され、それぞれ三本の橋が渡され、交易などに利用されていたのだが、今回は無断で約一五〇〇人が渡河したのだという。そうして、当然としてウェーダン人との間で衝突が発生したというのが今村たちがここにいる真の原因であった。


 接触を試みた今村たちに、彼らは敵意ある視線を向けたが、対話は行われた。トレンセンの住民たちが言うように、彼らはキリール王国の住民であった。南のラーム教にそそのかされた第二王子が王を幽閉したために内乱が勃発し、その戦災から逃れてきたのだ、ということであった。異人種である彼らは西の山を越えてやってきた移住者であるということも判明した。


 これは非常に難しい問題であった。ウェーダンとキリールの問題であれば、ことはそう難しくはない。しかし、これに第三勢力が関わっているとなれば、ことはそう簡単にはいかないのである。とりあえず、川向こうに戻ってもらうことで落ち着くこととなった。敵意をむき出しとはいえ、交戦があったわけでもなく、平和的に接触が行われたため、今村としても、上級司令部、パーミラ駐留軍本部に伺いを立てるしかなかった。


 とはいえ、問題は簡単ではないのである。少なくとも、境界線を越えるにはそれなりの理由を要すること、無断で境界線を越えれば、侵略とみなされることを納得してもらうに留まった。これらのことがスムーズにいったのは、彼らの中のリーダーがそれを了承したためである。むろん、今村も気づいていた。キリールでもかなりの高位にいる人物であろう、ということはわかっていたといえる。


 当面、今村は難民として扱うことを決定し、部下たちにそれを通達していた。さらに、可能な限り、情報収集を行うようにも命じていた。今村たち、第一特殊大隊がこの地に進出するに当たり、大型トレーラーによる燃料タンクも運ばれており、車両もそれなりに用意されていた。少なくとも、大陸において燃料を気にすることなく使用できる部隊は第一特殊大隊だけであったといえる。


 この日、今村はついに集団のリーダーと目される人物との対談に成功することとなった。今村たちが大隊本部を置く中州に二人の男が現れ、それを打診してきたのである。結局、今村は代表者二人と護衛二人、ただし、武器は持ち込ませていない、との会談に挑むこととなった。パーミラからは情報集とウェーダン防衛を命令されていた、ために応じるのが手っ取り早いとの判断からであった。


 今村の前に現れたのは、二〇代前半と思われる女性と四〇代後半と思われる男性であった。こちら側は今村と次席指揮官たる安西、ウェーダン代表代理としてアメリアであった。他に書記役の少尉が一人である。


「私はキリール王国第一皇女セリルといいます。今回は機会を作っていただきありがとうございます。こちらが私の補佐役のセレンス第二執政官です」女性がいい、隣の男性が会釈する。

「私は日本国パーミラ駐留軍ウェーダン派遣軍指揮官今村です。こちらは次席指揮官安西中尉、こちらの女性はウェーダン国ファウロス市長秘書官のアメリアです」今村が言うとふたりも会釈する。

「さて、今回の用件はなんでしょうか?可能なことであれば協力は惜しみませんが、それ以外では即答できかねますが」続けて今村が問う。

「食料支援には感謝いたします。昨日、ラーム教司祭がわが王国の王都に入城したとの知らせが届きました。できればラーム教と王開放のための援助をお願いしたいのです。拝見しておりますと、馬もいないのに動く車などわが国にはない強力な武器をお持ちです。その力をお貸しいただきたいのです」彼女は淡々と話した。

「それは困りました。われわれは王子の人物像を知りませんし、王が正しかったかどうかもわからない。たしかに、わが国はラーム教とは相容れませんが、それでも容易に判断できかねます」


 むろん、今村としては、ラーム教が絡んでいると知った時点で判断に迷っていたといえる。ただ、王の過ちを正すために、一時的にラーム教と結んだという可能性もあったからである。自身の気持ちとしては支援したい、そう考えてはいたが、状況がまだ不明な点も多く、安易に決断することは不可能であった。また、隣国キリールがラーム教に染まれば、ゆくゆくはウェーダンの危機にも繋がりかねない。いずれにしても、更なる情報がほしいところである。


「今村大尉、ウェーダンとしてはキリール王国がラーム教に染まることを見過ごせません。いずれはわが国にも介入してくるだろうと思われるからです。現に先日まではそうでした」アメリアがいう。

「とはいうものの現に侵略を受けているわけではない。推測や感情で軍を動かすわけにはいかないのだ。れっきとした証拠、あるいは住民に危害を加えたなどという事実が必要なんだよ、アメリア」

「でも、あの時は・・・」

「あの時はわれわれも攻撃を受けたから。申し訳ない、軍を預かる身としては即答できかねます。二日ほど時間をいただきたいと思います。もし、それまでに貴方がたに危害が及ぶようなことがあれば、こちらへ受け入れますのでご安心ください」

「はあ」明確な返答を得られず、がっかりとした表情をみせる。彼女としては無条件で受け入れられるものと考えていたと思われた。

「たぶん、貴方がたにとってもわれわれにとってもよい結果が出ると思いますよ。期待していただいてよろしいかと思います」そう答えながら今村は思っていた。佐藤さんならノーとは言わない、と。


 そうして、今村はパーミラに交渉内容を知らせるとともに、隷下の一個小隊を西南方面の各地に偵察に出した。そして、二日を待たずして、難民である彼らを中州に導き入れることとなった。偵察に出したうちの一個分隊が南西方向から押し寄せる騎馬兵一〇〇〇と馬車一〇台をを確認、敵対勢力であると判断されたからである。結果的にホルム地方での再現となった。が、準備時間がなく、部隊を配備することができなかった。それどころか、偵察に出した小隊を受け入れる時間さえなかったのである。


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