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世界

この章も大幅に加筆修正する可能性があります。ご了承ください。

 新世紀二年三月二五日、前月に打ち上げられた衛星三つにより、日本周辺および世界の状況が見えてきた。一つは気象衛星<ひまわり>である。十分な事前調査を行うことができなかったが、日本の静止軌道に乗せることができ、移転前と同じ日本の映像を送り出していた。もちろん、大陸の映像はこれまでとまったく違うものであったが、それでも、宇宙からの目があることは一種の安心感を国民に与えたといえる。


 二つめは通信衛星であった。これで、少なくとも周辺域からの衛星通信が可能となった。これまで、大陸調査団本部との連絡は無線であったが、今後は衛星通信による、より、安定した通信が可能であった。そして、大陸からの衛星生中継が可能となったのである。この年に入って、厳しい制限つきながらも、民間放送局が大陸のパーミラに渡ることが可能となっていたのである。当然として、パーミラに渡るということは、陸続きであるウェーダンに制限を破って渡ることも可能であり、日本政府としては一種の賭けであったかもしれない。


 これによって、新たな領土となったパーミラの様子が詳細にかつ、リアルタイムに日本に伝えられることとなった。これが、パーミラへの移民が増加した原因といえるだろう。少なくとも、これまでのごく限定された情報から制限(パーミラとリャトウ半島以外の地域は不可とされていた)はあるものの拡大された情報が得られるからであった。さらに、移転して一年を迎える六月始めには、放送衛星が打ち上げられる予定であり、映像中継や娯楽的にも日本本土となんら変わらないものが提供される予定であった。


 三つめは地球観測衛星(実際は偵察衛星)であった。もちろん、八ヶ月ほどの準備期間しかなかったため、それほど高度なものではなかったが、それでも、周回軌道を自由に変えられるものであった。あえて観測衛星としたのは、在日米軍に対しての警戒感がそうさせていたといえる。こうして、現在の地球の情報が得られることとなった。以前に、在日米軍より提供された地図よりも遥かに高精度な地図が作成されることとなった。そして、改めて世界の状況がわかるようになったといえる。


 移転前の世界に驚くほど似てはいたが、そうではない地域もあった。南のフィリピン、インドネシアは共に一つの大きな島であり、ニューギニアやオーストラリアなどのオセニア圏もほどんど変わらない。南北アメリカ大陸は繋がってはおらず、海峡とも言うべき水道で五二kmほど離れていた。太平洋の島々もそう大きく変わらないが、各島の規模が異なっていた。南極大陸は移転前よりも小さい。逆に、北極海は広かった。


 もっとも大きな違いは、ユーラシア大陸といえた。南北二つに分離され、その海は黒海、地中海と繋がっており、幅は五〇〇から八〇〇km、そして、その海には紅海も繋がっており、アフリカ大陸は分断される形で存在した。つまり、ユーラシア大陸は移転前と異なり、完全に二つに分離していたのである。とはいえ、海の星であることは間違いない事実であったといえる。


 そして、夜の映像からも、欧州や北米には大して明かりが存在しないことが判明し、文明レベルはそれほど進んでいないと思われた。例外は、日本とその周辺、平たく言えば、ウェーダン、シナーイ、その西、移転前には中東といわれていた、では都市と思われる地域が確認されていた。その他には、南のインドと思われる地域、南米の北端にアジアほど大きくない集落が確認されていた程度であった。中欧の一部ではアジアよりも大きい集落が確認されている。


 これは先の在日米軍の調査でもおぼろげに確認されていたが、今回の観測衛星により、より明確に実証されることとなった。これを見た佐藤は地球の紀元前もこのようではなかったか、との感想を漏らしていたという。要するに、移転前でではヨーロッパが世界に広まる前ではなかったか、そういうのである。


 いずれにしても、これでこの世界には文明国、ここで言う文明国とは日本と同等のレベル、を持つ地域はないだろう、ということであった。つまるところ、この世界で日本が貿易立国たるには不可能であるということになる。すべてが自分たちの手で成さねばならない、そういうことだった。そして、誰もが考えたのは、中東、である。移転前と変わらない地勢であるから、大量の石油資源が眠っているであろう、と想像したのである。


 しかし、この世界ではシナーイに次ぐ文明を持っている可能性が高く、さらに、先の紛争とウェーダンからの情報では、極端な一神宗教であるラーム教の根拠地の可能性が高く、進出するには争いが避けえないであろうとされ、危険だと考えられた。日本軍と在日米軍だけで制圧できるほど甘くはないだろうとの判断がなされた。現状では、いくつかの油田が発見されてはいるが、未だ開発の手が付けられていない状況で、進出する余裕もなかったといえるだろう。


 結局のところ、日本国周辺を開発し、文明レベルを上げてゆき、ある程度のレベルに達したところで世界に出てゆくしかなかったといえた。そのため、周辺への進出と開拓が加速することになるだろう、というのが日本政府の見解でもあった。また、それをしなければ、日本の将来はありえないだろう、そう結論されたといえる。


 この時点で、パーミラおよびウェーダン、朝鮮半島、大陸華南地方、グアム、フィリピン、インドネシア、ソロモン諸島に開拓団が入っており、開拓が始まっていた。フィリピンではニッケルやモリブデンなどの鉱脈が、インドネシアではゴムや香辛料が発見されていたが、石油はまだ発見されていなかった。ソロモン諸島は英国系(いわゆる英連邦加盟国)が入植予定であった。華南地方は長江以南に在日外国人で最大の勢力である中国系が入植予定であった。


 これによって、日本の医薬品や日常品製造企業は不況を脱していたといえた。少なくとも、開拓団の人間は日本でのそれなりの生活を経験していたわけで、生活必需品ともいえたからである。いまさら、日本での便利さを捨てきれない、そういうことであった。逆にいえば、それが開拓団員募集のネックともなっていた。


 特に、在日米軍が申し出ていたグアム開発は簡単にいえば、日本に滞在していたときと同じ条件もしくはそれに限りなく近い状態、そういうことなのである。少なくとも、日本にいたときと同じような情報を得られる状態でなければ、彼らが移動することはないと考えられた。対して、ロシアについては日本はそれほどの条件には応じていない。日本での生活、というよりも、衣食住とそれなりの物資供給で済ませている。多くが日本に住んでいたロシア人ではなく、ロシア領とされていた千島列島の居住者だったからである。


 いずれにしても、この世界でいくつかの地域が開拓団によってそれなりの経済状況になるには少なくとも一〇年から二〇年は要する、というのが日本政府の見解であり、パーミラとグアム、ソロモン諸島はそれより早く、五年で可能だと考えられていた。それは自国と友好国であるということもあり、政府の梃入れが他の地域とは異なるからである。いずれにしても早すぎるという意見が多かったが、それには理由があった。多くの開拓民は日本での生活、いわば豊かさに慣れており、それを求めるだろうというのである。つまり、日本での生活水準と同じ程度になるまでは満足せず、開拓に邁進するだろう、というのである。


 パーミラではこの先、放送衛星が打ち上げられれば、日本とそれほど変わらない生活が可能であり、嗜好品やその他の商品の入手も時間がかかるが可能であるとされていた。ちなみに、この時点でも、日本政府は許可無き渡航は禁止していた。先にも述べた病原菌のこともあるが、無秩序な情報流出や技術流出を恐れていたからでもある。たとえば、シナーイ帝国に自動小銃などの情報が渡ることを恐れていたといえる。むろん、情報があったとしても、製造できるかどうかは不明で、九割がた、製造は不可能であろう、という判断をしていたが、それでも危険は避けるべきであると考えられていたからである。


 今のところ、そのような人間はいなかった。当然であるが、現状では日本でしか製造できないため、足が着きやすいからである。将来的に、半島や華南地方で工業力が発達し、製造が可能になった場合は、そのような不心得者が出てくる可能性があった。いつの世でもそういった人間が現れるのは避けられないということであろう。ましてや、移転前とは異なり、言葉が通じることで、その確率はより高くなるだろうとされていたのである。そのため、いろいろな法律が改定されてもいた。


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