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移民政策

実際はまず起こりえないでしょう。しかし、ちょっと可能性があるかもしれません。日本は移民国家ではないので・・・

「パーミラには民間企業から一〇社ほどが進出を予定しており、民間人二万人が移住を予定しているが、最初の開拓団としては十分だろうと思われます。ほとんどが民間企業の従業員ですが、中には、農業開拓団も含まれております」そう報告したのは厚生労働大臣の山本であった。

「まさかここまで集まるとは思いませんでしたが、理由は?」南原が尋ねる。

「民間企業に対しては税制優遇処置が、その従業員については給料以外に国からの一時金が、農業開拓については五年間の支援および土地供与が有効だったと考えられます。特に農業開拓については、平均五〇ヘクタールの土地が供与されますので」

「いずれにしても、移民と変わらない。特に農業開拓については帰国は望みえないが?」

「少なくとも、五年以内に現在の日本国と同じ生活レベルまで開発する、という総理の発言が効果的だったのではありませんか」


 これはほぼ移民政策ともいえた。明治期に頻繁に行われたハワイや南米への移民とは異なり、国の支援があるという形での移民であった。少なくとも、農業開拓民に対してはそれなりの支援が考えられていた。その中心となるのが、五年間の生活保障であり、開拓した土地の最大五〇ヘクタールの無償提供にあったといえる。今の日本にとっては、食料事情改善が何よりも重要であったからである。そして、過去の例にもれず、農業開拓ということは、帰国を前提にしない移住であった。


 民間企業は建設関係がそのほとんどを占め、火力発電所建設や油田開発も担うものであった。いずれにしても、衣食住を確保する必要があるため、民間の建設業進出は当然といえた。とはいうものの、労働力として日本本国から派遣せねばならないため、その確保が最大の問題であったといえる。ウェーダンが落ち着けばそこから労働力を得ることも可能だとされていたが、それはまた別の問題であった。結局のところ、国がどう判断したところで、現場で動き出すのは民間企業だということなる。もっとも、今回は現場に官僚が多数存在することが異なるといえた。


「ストール地域は民間企業五社が進出か。こんなものだろうな」

「こちらは従業員はあくまでも一時的なもので、民間企業も二年間という期限を設けています。ウェーダンの住民がいれば、現地採用ということもあるのですが、今のところ、確認されておりません」山本厚労相が答える。

「ウェーダン全体が安定すれば、人も集まるだろうし、それからになるかな、防衛大臣」

「はい、今のところ、オレフ氏がウェーダンを代表する人物と考えておりますが、未だそこまでの対話は成されておりません。今しばらく時間を要するでしょう」石波が答える。

「そうだな。それよりも、この情報をどうするかによって国内治安も変わってくると思いますが?」

「はい、これは調査団からではなく、あくまでも人員を輸送した輸送艦『おおすみ』からのものです。実際に上陸して調べた結果、重金属系レアメタルらしき鉱脈が露呈しているということです。開発に日本人を派遣するなどと公表したら、在日が騒ぐことになりましょう」

「どうしたものか・・・・」

「総理、よろしいでしょうか?」そう声をかけたのは経済産業大臣の鈴木であった。

「どうぞ。何かいいアイデアでも?」

「一応、調査結果を公表して、開発については検討中ということにして、もし、在日から自分たちが行く、ということになれば、行かせる、それでどうでしょうか」

「しかし、今後のこともあるし、放り出すわけにはいかないだろう?」

「支援については、五年間、衣食住環境は整えるが、それ以降は有償で、支払いは資源による、とするのはどうでしょうか?」

「資源が存在するのはわかっているが、食料についてはまだ不明だろう?」

「それはこれからですが、もし、開発に携わるなら移民ということで、日本に残る場合は帰化を前提とする、そういうことではどうでしょうか?」

「つまり、帰化をしなければ追い出すということになるのか?」

「そうです。幸いにして東西に四〇〇〇m級の山脈が走っており、シナーイ帝国とやらの侵略も受けないでしょうから、安全です。まあ、簡単に言えば、勝手にやってください、日本は資源を買いますよ、ということです。そうすれば、在日の問題も解決するでしょう」

「そう話を持っていくということですね?」

「はい」

「他には意見はありませんか?」との南原の問いかけには誰も答えない。しばらくして、南原が続けた。

「わかりました。結果はともかくとして、その方向でいきましょう」


 後の調査では、半島の東側付け根、移転前で言えば、ウラジオストックに当る地域には、重金属系レアメタルの露呈鉱脈が発見されたのである。埋蔵量においても、かなり大きいと判断されていた。移転後とはいえ、朝鮮半島とそっくりであるため、日本が開発に乗り出すとしたときの在日韓国・朝鮮人の反発を恐れたといえる。そうして、鈴木は体よく彼らを日本国から追い出すよう提案したのである。


 これは公表後、日本人による開発計画を発表した時点で、予想通り、韓国大使および在日韓国・朝鮮人の反発が発生した。ではあったが、どうすればよいのかについては具体的な決定はみなかった。南原総理は共同開発を拒否したからである。しかし、その後にスクープされた(意図的にリークされたものといわれる)ロシアの移民計画と千島列島返還の計画により、一転することとなる。


 結局、在日韓国・朝鮮人で開発、日本の支援ということで落ち着くこととなった。しかも、すぐに取り掛かるよう要求してきてもいた。それについて政府は、未だ病原性微生物の調査が終わっていないため、出国した後の帰国は認められない、というコメントを発表していた。それでも、要求はエスカレートし、ついには暴動まで発生してしまう結果となった。


「北の大陸の情報はどうしたものかな?」

「石油が産出していることですか?」と石波が問う。

「そうだよ」

「そのまま伝えることがよいかと」

「しかし、ロシア人たちが納得するかな?これから寒くなる」

「国後や択捉の住民の多くは漁民ですし、大陸沿岸部でも漁はできるでしょう。移転前と同様であれば、金などの貴金属系レアメタルが産出するはずです。これは先の約束どおり、進めるのがよいかと考えます」と農林水産大臣の西村。

「気象の問題であれば、来年の冬にかけての長期戦でやればいいのではないでしょうか」と鈴木がいう。


 北の大陸、移転前で言えば、マガダン州にあたる地域で原油の産出が確認されていた。染み出す、という程度であるが、地中には油田が存在する可能性があった。それを公表するかどうかについて南原が問うたのである。いずれにしても、原油の産出が確認されれば、千島列島のロシア人を大陸に移住させることが可能だと思われた。問題は食料であり、日本が提供しなければならなかったのである。一〇〇〇kmも南にあるとはいえ、北海道よりも北にあることで、冬は極寒であり、食料生産が不可能だと考えられたからである。


 この問題は、ロシア大使との会談において一応の解決を見ることとなった。産油施設の建設、住民の居住を保障すること、食料の優先的提供、工業化の推進などの条件により、移民から五年を経た後、千島列島の返還は段階的に行うことであった。これは、現地で漁獲高が減少、燃料油の入手が困難なために漁に出られないなどの理由があったからである。事実、多くの漁民が北海道東部への密入国する事件が多発していたことにあった。自らの勢力圏で石油が産出するのであれば、今よりも生活が改善されると考えたのかもしれない。


 結局、これら地域はそれぞれの国の民族が進出することになり、日本政府は合意せざるを得なかった。とはいえ、日常生活、日本での生活という意味で、は数年を要すると思われた。ただし、ロシア人については、それまでの生活以上の生活が約束されることとなった。千島列島で生活していた以上のレベルが保障されていたからである。在日住民に関しては、日本での生活以下のレベルであったが、独自の生活が可能なことが救いであるといえた。


 こうして、日本政府での問題は、在日米軍およびその他の国々の住民に対するものになっていったといえた。特に、中国、フィリピン、ブラジルなどの在日住民が多いことが今後の問題だといえた。ロシアおよび在日韓国・朝鮮人の移住問題が彼らをして自らの開発地域を求める理由であった。少なくとも、日本に帰化していない住民にとっては、それぞれの祖国に近い土地への調査を要求する原因となりえたといえる。


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