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最悪の出来事

 欧州で大規模な多国間戦争が続いていたころ、日本がそれを気にかけている余裕はなかったとされる。正確には日本本国が、であった。地震が継続して発生していたからである。しかも、その多くが日本列島内部で発生していたのである。震度はさほど大きいものではなかったため、家屋への被害は極限されていたといわれる。さらに、頻繁に日本列島以外の地域との通信が瞬間的に途絶えることが多かったとされている。


 しかし、日本の近隣国家では特にこれといった問題が発生しているわけではなく、安定化傾向にあったといえる。日本からの輸出も堅調であったといえるだろう。ただし、世界的に見ても競走相手が存在しないため、多くの企業が比較的労働力の安い波実来やリャトウ半島へと進出していた。あるいは企業を飛び出し、自ら会社を興して一旗上げようとするものもいたとされる。


 結果として、日本本国は人口が減少傾向にあり、この当時は八〇〇〇万人強までになり、年代別に見てもより高齢化が進む傾向にあったといえる。二〇歳以下とそれ以上の率は二〇対八〇といったところであっただろう。このころには多くの人間が海外、特に波実来や瑠都瑠伊に進出しており、六〇歳を超えて仕事から離れると日本本国に帰国するという現象が起きていたといえる。


 つまり、働く場所は海外に求め、第二の人生を本国で過ごすというケースである。多くの人々は老後を日本で暮らすという。この世界はもとの世界とは違うため、最終的に日本に帰ってくれば落ち着くという。これは、日本以外の海外(日本の領土を含む)では、開発が進んではいるが、老後の環境が日本ほど進んではいない、そういう理由もあったと思われる。だからこそ、介護などのサービス業の職種は日本に集中することとなったといえる。


 これは何も日本人に限ったことではないといえる。日本から移民として海外に進出した外国人にもいえることであったかもしれない。彼らの国においても、開発や発展が目指されてはいたが、老後の環境が日本ほど進んでいないという理由があった。むろん、彼らが日本で暮らすにはそれなりの費用と手続きが必要であったが、それでも増えることとなった。ただし、ここで注目したいのは、移転前に日本に住んでいた、あるいは日本で生まれ育った人々に限られたといえる。つまり、移民先で生まれ育った人々にとっては老後の日本はそれほど魅力ではないというのである。


 とはいえ、日本本国は紛れもなく日本の中心地であり、日本の首都が存在する地であった。そう、日本政府の存在する地でもある。いくらかは地方分権が進んだといえ、間違いなく、日本の中枢であった。多くの政策はここで決定され、各地に通達されることとなる。移転後、新たな領土を得るにしたがい、すべてが日本で決められるという、中央集権制度が変貌を遂げてはいたが、それでも、いまだ日本の多くの政策はこの地で決定されるのである。


 そういったことが、瑠都瑠伊やセーザン、セラージの独立発言に繋がっていたのかもしれない。移転前のロシアや赤い大国のように、自国領土が広範囲にわたっていれば、裕貧の差が出るのも仕方がないことといえた。幸いにして、日本ではそれほど差が出てはいないが、その分、大幅な地方分権を認めざるを得なかったといえる。さらに、海外の日本人との思考的格差が広がっているという問題があった。


 日本から比較的近い距離にある波実来やリャトウとは異なり、距離的に遠い瑠都瑠伊やセーザン、セラージでの自治権要求など仕方がないといえる。このころに、瑠都瑠伊でよく言われていたのが、連邦制国家への移行であった。いってみれば、移転前の英連邦構成と同じ考えであったといえる。英連邦構成国の中には独立した先進国が多く存在する。たとえば、オーストラリアやカナダ、インドといった具合である。


 日本でもその方向で検討中であるとされている。要するに、あまりにも遠すぎるのである。すべてを日本中心で、というのは無理であると以前から言われていた。しかし、日本はこれまで決定を先延ばしにしてきたといえる。それがここに来て早期決着を考えるようになったのは、中東での紛争、欧州での戦乱、といった事件発生にあった。これらのすべてに日本政府が対応するのは不可能であり、近隣の州政府にゆだねるほうが遥かに理にかなったものだと考えられるようになってきたからであろう。


 それを象徴するのが、瑠都瑠伊に多くの権限を与えたことにある。ところが、これがセーザンやセラージに飛び火し、同様の権利を要求してきていたという出来事にあったといえる。さらに、これがリャトウ半島や波実来にまで飛び火しているのが現状であった。瑠都瑠伊とは逆に近隣には特に問題がなくとも、内政的に問題を抱えているのが日本政府であったといえる。


 しかし、冒頭に述べたように、瑠都瑠伊ではそれどころではなかったといえる。本格的に紛争が発生していたからである。そう、ほとんど日本に目を向けることはなかったといえるだろう。別に瑠都瑠伊に直接的な被害がおよぶわけではないにしても、瑞穂国との安全保障(日本政府はそれを知らない)が関係しているため、警戒態勢を維持しなければならなかったことがあったといえる。


 セーザンは特に何もないが、セラージにおいては、ロンデリアとセラン、ラームルとの紛争から目を離せず、そのあおりを受けたのか、パーゼルとトゼル、アゼルとの間でも紛争が発生しており、警戒を解くことができない状況だといえた。結局のところ、対外的な問題が発生していなかったのは日本近隣と太平洋域、インド洋であったといえる。南米は未だイスパイアに対する監視任務を解くことができず、南大西洋ではローレシアとロンデリアの睨みあいが継続していた。


 つまり、世界的に見ても、日本本国に注目しているものは少なかったといえるだろう。多くの国や地域は欧州や中東に目を向けていたのだが、そんな中、日本列島と連絡が取れなくなったのである。誰もがここしばらく頻発していた海底ケーブルのトラブルがまた発生したのだろう、そう考えていた。ところがいつまでたっても、連絡が復旧することはなく、さらに、ようやくという形で張り巡らされたネット通信も繋がらなくなったままであった。


 そして、複数の通信によって真相が判明するのだが、それこそ、日本から移民した国家、国際連合も騒然とすることになった。複数の通信、それは日本本国艦隊からのもので、宛先は波実来と瑠都瑠伊の軍本部であった。その内容は、日本列島消滅す、というものであった。これにいち早く対応したのは瑠都瑠伊方面軍司令部であった。司令官である今村の名前で波実来軍司令部の安部に依頼された、可能な限りの手段を使用しての周辺捜索が依頼されたのである。


 その結果、この世界に現れた日本列島とそれに付随するすべての地域がこの世界から消滅していたことが確認されたのである。しかし、世界的に見ても、それほど騒動になることはなかった。波実来の一部人間とリャトウ半島の一部人間だけが騒いでいたとされる。そして、混乱は瑠都瑠伊と波実来の軍司令部の対応によって大きくなることはなかったとされる。


この出来事は最初から決めていました。そのために小説タイトルをつけました。本当の話はこれからと考えていたのですが、現在行き詰っています。日本ではなく、日本人に主眼を置いて新たな世界を発展させる、というのが頭にあったからです。現状の日本を持ち込んでも不可能ですし、それなら新しい日本を作り上げたら、そう考えました。

次号で最終回ですが、日本消滅のあとの日本国をかきます。しかし、実質はこの話で終わることになります。

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