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リーフ亭の娘:2話


 朝の配達を終え、帰路に着く。

 パンを配達するのは真っ直ぐに伸びる大通り――通称”王の通り道”――に住んでいる家にだった。

 もちろんリーフ亭に頼んでいる家のみで、マリーが往復しなくていい数だけ。

 ”王の通り道”と呼ばれる由来は、その道を南にずっと行けば王宮があるからだろう。

 城下町としてこのテランはそこそこ栄えていた。




リーフ亭の娘 第二話





 マリーは急いでいた。

 配達途中に通りかかったアイス屋で時間を潰してしまったのだ。

 ついでに言うと店主と話し込んでしまった。

 すがすがしい朝だったのに、遅刻から一日を過ごしてしまっては気分が悪い。

 時間短縮のため、いつもは通らない路地へと入った。

 

「もう…お母さんに怒られたらアイザックの所為なんだから!」


 呟きながら走る。

 大きなカゴが足に当たって速度は出ないが、歩くよりは早い。

 路地は薄暗い。まだ日が高く昇っていないのもあるが、建物に挟まれているからだろう。

 マリーは足もとに気を付けて――いた。

 

「えっ」


 思いっきり何かに足を引っ掛けた。

 ドサッと前倒しに身体を打ち付ける。突然のことでマリーは受け身を取れなかった。

 しかし根性で左に持っていた籠を胸に引き寄せる。余ったとはいえ大切な父の焼いたパンだった。


 じんじんと色んなところが痛むが、大きな怪我はないようでゆっくりだが立ち上がることができた。

 眩暈のようにくらくらする目頭を押さえ、目を開く。

 マリーは自分が何に引っかかったのか気になり、転んだ場所を見た。そこには黒尽くめの男性が倒れていた。

 倒れていたといっても、壁に背中を預けている状態なので寝ているだけかもしれない。

 テランの治安は悪くないが、こんな路地裏で寝ていたらどうなることか。

 

「……大丈夫ですか?」


 恐る恐るとマリーは声をかけるが、男性はぴくりともしない。

 大通りの方から入ってきた風が男性の真っ黒な髪を撫でる。男性はテランではあまり見ない黄色がかった肌をしており、控え目ながらも整った顔立ちをしていた。

 お年頃なマリーは男性を見つめる。服装もまるで旅人のよう。胸当てやマント、ズボンも暗い色で統一されており、腰には一振りの剣が携えられている。

 キナ臭さを感じえないが、もし病人や怪我人ましてや生き倒れなら尚更放っておくわけにはいかない。

 マリーは男性の肩に手を乗せ、軽く揺すった。


「あの、大丈夫ですか? こんな所で寝ていたら危ないですよ」


 数回それを繰り返した後、マリーは溜息を吐いた。

 もう完璧に母に怒られるのは確定だ。半ば諦めた心地でその場に座り込む。


(走ったせいで髪のぐしゃぐしゃだし。それに、この人どうしよう)


 がっくりと項垂れた時、低いうめき声が聞こえた。

 マリーはそっと男性の顔を覗き込む。

 僅かに睫毛が震え、真っ黒い瞳が姿をあらわにした。


「大丈夫ですか?」


 何度となく繰り返した言葉を口にする。

 その目はマリーの頭から足元まで行き来した後落ち着いた表情になる。


「ああ、大丈夫だ。迷惑掛けたみたいだな」

「そんなことないです。起き上がれますか?」


 男性は頷くと右足で地を踏み、立ち上がろうとする。

 その瞬間大きくお腹の虫が鳴った。マリーではなく男性のだが。


「……お腹、空いてるんですか」

「いやそんなことは」

「ありますよね!」


 聞こえたものは仕方ない。聞こえてしまったものも、仕方ない。

 ニッコリ笑顔で言うマリーに対し、男性は言いにくそうに呟いた。


「――――三日ほど何も口にしていない」


 その言葉を聞いた途端、マリーの口元は引き攣った。

 両親が食堂を営んでいるため、食べることの大切さ、素晴らしさを知っている。

 だから男性の”三日も食べていない”ということが信じられなかった。

 世の中には満足にご飯も食べられない人もいるというが、男性は体格も良い。そういう問題ではないのだろう。

 とにかく、食べなかったからここに倒れていたと判断してよさそうだ。


「私はマリーです、あなたは?」


 突然自己紹介を始めたマリー。

 それについていけないのか、ただ単に名乗りにくいのか。男性は口籠っている。


「此処で会ったのも何かの縁です。名前を教えてください。そしたら、私の持っている美味し~いパンを差し上げます」


 美味しいパン、というのに釣られたのか。男性のお腹がまたグウ~っと鳴った。

 腹を押さえ、照れた笑みを浮かべる。少々薄汚れているとはいえ、そんな姿も格好良い。


「――ホセ、だ」

「ホセさん。よろしくお願いします!」

「さんはいらない」

「わかりました。ホセ、約束通りパンをどうぞ。私の父さんが作った美味しいパンです」


 マリーは籠から余ったパンを三つ取り出すとホセに手渡した。

 受け取るのに時間がかかったが、ありがとうと呟いた。


「自分に敬語は必要ない。ありがとう、マリー」

「どういたしまして!」


 ホセは一つパンを頬張るとふらついた足取りで立ち上がった。マリーの進行方向とは逆の道へ目を向ける。


「この恩は忘れない」


 大げさなホセの言葉にマリーは思いっきり笑った。

 何を笑う事があろうか、とホセは怪訝な顔をするがお構いなしだ。

 右手でバッシバシと壁を叩くマリー。

 ホセの眉間に一つ、また一つと皺が刻まれていく。

 それが三つ目に差し掛かった時、ようやくおさまったのかマリーはコホンと一つ咳をした。


「そんな大層なことしてないよ」

「しかし……」


 なお言い募るホセにマリーは言った。


「どうしてもって言うなら、どうぞリーフ亭をご贔屓に!」

「リーフ亭?」

「”王の通り道”を北に真っ直ぐ行った突き当たりにあるの。家族で切り盛りしてるから、また食べに来てね」

「ああ、必ず行こう」


 頷き、歩を進め始める。

 ふら付きながらも力強い背中を見送ると、マリーも反対の道を進んだ。

 心は新しいお客さんを掴んだ嬉しさと、店に帰る怖さの二分割。

 

「早く帰らなきゃ!」


 広がる青空の元、マリーは再び走り始めた。











 

 リーフ亭に帰った後、父ピーターには心配され、母マリアにこってり絞られたのは言うまでもない。

小説を書くのは難しいです。

どうやったら魅力的なキャラクターをかけるのか?

どうやったら少しでも読んでくれる方に楽しんでもらえるのか?

此処をこうした方がいい、とかアドバイスを下さったら嬉しいです。

リーフ亭の娘は10話ほどで完結する予定です。

……完結すると良いなあ。

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