リーフ亭の娘:1話
リーフ亭の娘、マリー。明るく元気でお客に人気。たまに暴言を吐くがそれも愛嬌。そんなマリーのお話です。
【リーフ亭の娘】
マリーの朝は、自室の窓を開くことから始まる。
木造の一軒家。その二階の南にあるのがマリーの部屋だった。
「今日も良い天気ー!」
まだ昇りきっていない朝日を浴び、両腕を空に向け大きく伸ばす。
マリーの部屋からは一本の真っ直ぐな街路が見えていた。その先にはセントリアス城がある。
城下町テランの、通称”王の通り道”と呼ばれるゆるやかな坂を登ったところにあるリーフ亭。そこから遠く様々な色の屋根が陽を反射し、キラキラ輝いている。
見渡す景色はいつも通り、平和そのものだった。
まだ動き始めていない町。
マリーは北の空を見た。一羽の鳥、朝を告げるサーザードが低く飛んでいる。
朝日を浴びたサーザード。そのオレンジ色の体が一段と輝き、澄んだ鳴き声が町中に響き渡る。上質なソプラノ歌手の声、または王宮に招かれるハープ奏者の奏でる音のような。
サーザードの鳴き声で目を覚ました人々が次々窓を開け始めた。
「おはようマリー!」
「あら、おはようアイザック!」
右向かいの窓から幼馴染が顔を出していた。アイビーグリーンの髪と目が今日も彼を彩っている。
「マリー、自慢の赤毛が寝ぐせで凄いことになってるぞ」
大きな声で叫ばれてマリーは慌ててクローゼットの横にある鏡を見た。
アイザックが言う寝ぐせはなく、朝からからかわれたのだと知った。
ムッとしながら窓から顔を出さずに叫ぶ。
「アイザックの嘘つき! おばさんに言いつけてやるから!!」
返事を聞かずに窓とカーテンを閉めた。
微かに幼馴染の謝る声が聞こえたが、無視する。
後で最近できたアイスクリーム屋で奢らせようと考えていると時計が六時を告げた。
急いで鏡台に座り、髪を高く結う。肩まである髪は働くには邪魔なのだ。
オリーブ色のワンピースに白いエプロンを身につける。
準備が整い、一度鏡に向かってニコッと笑った。
そしてマリーは部屋を出た。
マリーが一階に下りると両親が下ごしらえをしていた。
母マリアが材料を切り、父ピーターはパンを焼いている。マリアはマリーに気付くとカウンターに朝食を並べた。
「おはよう、マリー。さっさと食べて配達に行っておくれ」
「お母さんおはよう! 分かったわ。お父さんもおはよう」
ピーターは焼きあがったパンを取りだした。二つ手に取って皿に並べ娘に渡す。
「マリーおはよう、今日も一日頑張ってくれよ」
「うん任せて!」
サラダとコーンスープ、ベーコンとスクランブルエッグ。それに焼きたてのパンを二つ。
マリーは父と母の作る料理が大好きだ。だからこの食堂リーフ亭の仕事も率先して手伝っている。
父が作ったばっかりのパンも、生地は腰と歯応えあり、噛むほどに味がにじみ出る。
母が作る料理ならばリーフ亭自慢でもあるビーフシチューが一番好きだった。
お腹が空いていたマリーはあっという間に朝食を平らげ、焼きたてのパンの配達する準備をした。
大きなかごにパンを詰め、上から赤と白のチェックの布巾をかける。
「お父さんお母さん、行ってきまーす!」
「はいよ」
「気を付けてな」
マリアとピーターの返事を聞いて店のドアを開いた。
カランカランと店の鐘が鳴った。
児童書のような雰囲気を目指します。
分かりにくいところなどありましたら、いつでもご意見お待ちしてます!