ある鑑定士の誤判
「鑑定士は無能」
「それが世間の評価だ」
「でも、僕は鑑定のスキルで居場所を作った」
「屋敷を追い出されて」
「過酷な地に追いやられても」
「優秀な人たちを見つけて」
「一から街づくりをした」
「……あの頃は楽しかったなあ」
「僕はみんなの適性が正確にわかるから」
「みんな言ってくれたよ」
「『適切な評価をしてくれた』」
「『自分を見てくれる人がいたんだ』って」
「……鑑定のおかげなんだけどね」
「でもね」
「街が出来上がるにつれて」
「おかしくなり始めたんだ」
「最初の頃はさ」
「見つけ出してくれた僕に恩返ししたいって」
「適性に合った場所で一生懸命頑張ってくれるんだ」
「でも、数年経つ頃にはやつれちゃって」
「得意なことと好きなことは違うんだってさ」
「僕は頑張って皆の希望を叶えようとしたんだよ?」
「それで、なんとか軌道修正できたと思ったんだけど」
「……今度は別の不満が生まれた」
「僕がいると、自分の仕事が正しいかわかんなくなるって言われた」
「『自分は、好きでやってる』」
「『でも、もっと得意なことがあるんじゃないか?』」
「『でも、それを楽しめるのか?』、だってさ」
「……勝手だよね」
「適性があるから、できてしまう」
「できてしまうから、やめていいのかわからない」
「そんな不安があるみたい」
「僕はこの街が好きだった」
「皆と交流したかった」
「気ままに散歩して」
「会話して」
「笑い合いたかった」
「……でも僕を見ると」
「皆、不安になるんだ」
「僕は屋敷から出ちゃいけない」
「皆の視線が、そう言ってた」
「それからは外に出ずに仕事してたんだけど」
「気づいたんだよ」
「やっぱり、適性で決めるべきだって」
「僕だって、鑑定に振り回されて」
「それでも、なんとかやってるんだからさ」
「自分のいるべき場所でどうにかしろよって」
「君もそう思わない?」
「そっか、思わないか……」
「間違ってるって顔してるよ?」
「わざわざ隣領の領主様が、僕を諭しに来てくれたんだもんね」
「君の領地はいいよね」
「土地も豊かで、人も多くて」
「綺麗事並べてもやっていけるんだから」
「君のことも鑑定してあげようか?」
「…………」
「あはは」
「今ちょっと気になったでしょ?」
「適性なんて関係ないって言うくせに」
「人は自分の適性を知りたがる」
「否定してるけど、声が震えてるよ?」
「ほら、見えてきたよ」
「君の鑑定結果」
「君の適性はねー……」
「なーんにもない!」
「何の才能もない!役立たずだ!」
「あっはっは」
「冗談だよ!」
「でも信じたでしょ?」
「一瞬、絶望したでしょ?」
「人は自分で選ぶのが怖いんだよ」
「だから誰かに決めてほしいんだ」
「いや、そうじゃないか……」
「誰かに間違ってないって言ってほしいのかな?」
「だって、本心では知りたがるくせに」
「僕が適性はこれだよって言っても納得してくれないんだ」
「…………」
「……うん、そうだ」
「君の言う通りだ」
「皆、生きるだけで精一杯」
「心に余裕がないんだよね」
「だから僕たちが導かなければいけない」
「君の言い分もわかるよ」
「……だから、安心していいよ」
「これからは鑑定結果だけで判断しないから」
「ああ、本当だよ?」
「むしろ、鑑定なんて使わなくていいんだ」
「その人の好きなことを聞いて」
「それに合わせて鑑定結果をでっち上げればいい」
「名案だろ!?」
「そうすれば、皆幸せだよね!」
「皆、安心して仕事ができる」
「僕も皆に嫌われずにすむ」
「誰も困らない!」
「…………」
「なのに」
「何で」
「悲しそうな顔をするの?」
「間違ってる、とは言わないでくれるんだね」
「ありがと」
「もう遅いしさ、帰りなよ」
「…………」
「わからないよ」
「本当にこれでいいのかなんて」
「見通せる力を持ってるのに何にもわからないよ」
「馬鹿みたいだよね……」
「あ、本当の鑑定結果知りたい?」
「ははっ、君はわかりやすいね」
「でも……」
「残念!教えないよ!」
「君はさ」
「自分で信じて進めばいいんじゃない?」
「それじゃあ、バイバイ」
客人が去ったあと、男は窓辺に立つ。
眼下には、自分が作った街の灯りがある。
けれど、そこに彼を呼ぶ声はない。
鑑定士はカーテンを閉め、誰もいない屋敷の奥へ戻っていった。




