『でもでもだって』な私が辺境の鬼姫な悪役令嬢になった件
大丈夫、コワクナイヨ!
よくある婚約破棄ものだよ!
「アリエル・ソル・グランベル! 貴様との婚約を破棄する!」
突然呼び出された学園のホールの中央で、私の婚約者であるこの国の第一王子レオンハルト・ヴィス・アン・ゼノーウスが高らかに宣言した。
レオンハルト殿下は黄金の髪に蒼い瞳の国宝級イケメンだ。
国民の90%くらいは理想の結婚相手と夢見る、文武両道の美青年である。
かくいう私も、幼い頃から将来の結婚相手として恋い慕ってきた。
実際にお会いしたのは今初めてだけれど。
生徒たちが大きな円を描くように取り囲む中、私はまるで罪人かのように騎士団長子息のランス・ボーエイグに腕を捕まれて跪かされる。
え? え? どういう事!?
思わず王子をみれば、彼の後ろに、怯えた表情の子リスみたいな可愛さをもった茶髪茶目のご令嬢がいる。
ま、まさか、この世界って、乙女ゲームか婚約破棄ものの小説の世界だったの!?
実は私、生まれた時から前世地球の日本で生きていた記憶がある転生者なのだ!
とは言っても詳しい個人情報は朧げで、ヲタク女性だったこととか、どうでもいいようなことしか覚えてないんだけどね。
それにしても、婚約破棄かぁ。
アレ!? オカシイな。目から熱い汗が⋯
「なっ!? 涙!?」
「辺境の鬼姫が泣いてるっ!?」
きっと令嬢の矜持として、感情を出すなんて以ての外なんだろう。
でも、でも、私、辺境育ちで中央貴族の暗黙のルールとか疎いんですぅ。
この学園に入学すると同時に中央にきて、王宮に住まい、王子妃教育始めたばかりなんですぅ。
夢と希望を抱き、見知らぬ地で慣れない生活を始めたばかりの私にこの仕打ち。
生理現象が止められなくても、仕方なくないですか?
「フッ。鬼の目にも涙か。
しかし! この未来の王妃であるコリンナを虐め、あげく無頼の徒に襲わせる等、到底許されることではない。婚約破棄を受け入れ、大人しく辺境へ帰るが良い!」
未来の王妃⋯?
虐め、無頼の徒に襲わせる?
森へお帰り⋯? (違う)
色々ツッコミどころ満載です。
どうしよう、ツッコミべき? それともこのアホと縁が切れるのを喜んで受け入れるべき?
私の脳に、生まれてから今日までの記憶がダイジェストで溢れ出した。
私、アリエル・ソル・グランベルは、この国、ゼノーウスの辺境を守る辺境伯の長女として生まれた。
辺境の地グランベルは、100年前にゼノーウスを中心とした周辺小国と合併した。
国土は広いが魔物の襲撃が多く、食物自給率が低かったグランベルと、比較的平和で魔物に対抗する力の弱いゼノーウス等の周辺諸国が、互いの利益の為にした合併だった。
発起人であり、中央国であるゼノーウスの当時の王太子が、その際の約定として両国の王子と王女を婚姻させる事としたが、いざ婚姻の段になると不幸にもグランベル側の王女が魔物の襲撃にて他界し、子孫に持ち越されることになった。
しかし、産まれた子供は皆男子で、今代にようやく第二子に女児アリエルが産まれたことにより、レオンハルトとの婚姻をもって約定が果たされるのである。
と、私の方はそう教わったんだけど、もしかして殿下は知らないの?
グランベルは本当に魔物の襲撃が多く、元王家と言っても力が全ての脳筋だ。
私だって生まれたばかりの頃は、実家が元王家の辺境伯家で、生まれる前から定められた王子の婚約者なのだから、きっと蝶よ花よと育てられ、この世の春を謳歌するものと思っていた。
実際幼い頃は一応ヒラヒラのドレスを着せられて可愛がられていたし、特に祖父と父が目に入れても痛くない程の可愛がりようで、私はこの生活がずっと続くものだと思っていたのだ。
しかし、10歳になった頃、母と3歳上の兄ドラゴスに無理矢理連れ出され、いきなり魔物討伐の最中に放り出され置き去りにされた。
ちょっと、いや、だいぶひどくない!?
まあね、5歳の時に魔力検査を受けたら誰よりも魔力が多くて、しかも全属性持ちだったけど、訓練しようと言われても「でもでもだって」で躱してきたから、ずっと二人はイライラしてたんだよね。
実は魔法のある世界と知った時から、ヲタク知識を活かして密かに生活魔法的な事はできるようにしてたんだ。だって便利だもんね。
辺境は魔物も多いけど、それって多分、元となる魔素が多いせいだと思うんだ。だから自分の中に取り込むイメージをしてたし、身体に負担がかかるくらいの魔素は、別空間に貯めておく事にした。そのせいもあって魔力が誰よりも多くなったんだと思う。
でも、だからって魔物討伐なんて、絶対行きたくない!
攻撃魔法の訓練なんて、一切しなかった。
「でも、私は女の子だから⋯」
「でも、魔物と戦うなんて、怖い⋯」
「だって私は将来王子様と結婚して、この国の王妃様にならなきゃいけないから⋯」
そう言って逃げていた。
祖父と父はうんうん、そうだねって許してくれた。
それを見ていた母と兄は、米神に青筋ビキビキ立ててたっけ。
魔物の前に放り出された私は、なんとか始めの一手を躱すことができた。
後から思うに、きっとこの身体の性能が良いんだろう。
代々この地で魔物を討伐して、人よりも寧ろ魔物寄りの強さを受け継いできた家系、その最たるもの。
身体能力が素で飛び抜けているのだろう。
もっと早く! そう思って躱し続けているうちに、どんどん楽に躱せるようになり。
もっと強く! そう思って防ぎ続けているうちに、どんどん防御が堅くなる。
余裕が出てくると、攻撃しなくては! と思いだしてくる。
いつもなら、例え囲まれていても走って逃げようと思うだろうけど、これが脳筋の血なのかしら?
ふと、豊かな真紅の髪を纏めていたリボンの端が目に入った。
解けかけたそれを、ヲタク知識が「それ、硬化できるんじゃない?」と囁きかける。
なんか武術系のマンガで読んだことあるかも!
前世は何の力もなかったけど、今は違う。
できそう⋯いや、できる!
なんだかわからんがすごい自信が出てきた!
私はリボンを解くと、一気に魔力を流して硬化させた。
初めてなのに、まるで以前から使い慣れているようにできる。しかもムチのようにしならせたり、また硬化させたりと自由自在に操れる。
そうして一気に攻めに転じると、殆どの魔物を倒す事ができた。
ホッとしたのも束の間、何処からかゆっくりと姿を現したのは、それまでよりも段違いに強い魔物だった。亀にも似た見上げる程の巨体に剣をも弾く硬い皮。硬化したリボンをいくら振るっても傷ひとつつける事ができない。
絶体絶命のピンチ!!
そうだ! とあるゲームでこんな様なモンスターを討伐した事があった。
甲羅が硬いので、比較的弱い足を潰し、動きを封じて首を狙うやり方だった。
私は高く飛び上がり、魔物の首にしがみつく。体勢を整えると、貯めていた魔素を全て魔力に変換し、一点に叩き込んだ。
いや、足をチマチマ潰すのは面倒だったので⋯
魔物はその一撃で首を落とされて、私は命からがら生き延びた。
ちなみにこの魔物、大きな魔石を持ってたし、甲羅は加工して素晴らしい防具になったし、身は美味しくいただけたので、大満足です。
まぁね、母や兄も本当の鬼ではなかったのか、後から家族が助けに来たけど。
私が祖父や父も手こずる魔物を一人で倒したものだから、もう討伐に出さないわけにいかなくなり、その日から強制的に訓練と討伐を行うことになったというわけ。
令嬢教育よりも訓練、討伐!
戦う時に母譲りの真紅の髪が逆立ち、グランベル家の遺伝である金色の瞳が輝く様子から、辺境の鬼姫と異名をつけられてしまった。
嗚呼、私の令嬢人生が〜!
そんなこんなで、夢見ていた生活からかけ離れ、殺伐とした人生を送っていた私のたったひとつの希望がこの婚約だったのだ。
魔物による生命の危機がなくて、自分の命だけ守ればいい生活。
ビバ! 綺麗なドレスで着飾って、3食ご飯にお菓子まで食べられて、本が読めて、知らなかった知識を教えてもらえる生活!
王妃さまはじめ、いろんな人から野蛮人だとか、マナーがなってないとか言われ、侍女やメイドからも嫌がらせされたけど、そんなの可愛いものだ。お子様のお戯れだ。
私にとっては小言も小鳥のさえずりのように聞こえるし、生活魔法の使える身からすれば、メイドの手抜きなんぞ魔法で対応できるので全く問題ない。
盗まれた宝石は戻ってくるようにしてあるし、ドレスは防刃防汚の魔法をかけている。
毒入り飲食物は毒成分だけ分離して処分し、美味しく頂いている。
今のところ、なろうでよく見るカビの生えたパンや、泥水、害獣の入ったスープは出ていない。
食べ物にイタズラ、駄目! 絶対!
良い子も悪い子も真似しちゃダメだよ。お姉ちゃんとの約束ね。
そんな手放したくない私の令嬢ライフが〜!
⋯しかしまさか、相手がこんなアホだとはね⋯
涙が⋯止まりません⋯
「可哀想⋯
あの、わたし、謝って頂ければそれでいいです。
ね、レオンさま。こうして無事だったのですもの、いいでしょう?」
レオンハルト殿下の袖をツンツンと引き、子リス令嬢が目を潤ませる。
途端に表情を緩ませ、
「ああ、コリンナ。君はなんて優しいんだ」
と言って、思わず抱きしめようとし、我に返る殿下。
「コホンッ。んんっ。
あ~、コリンナがこう言っているのだ。
アリエル、手をついてコリンナに誠心誠意謝るのなら、慰謝料だけで許そう。
もちろん、次期王妃に相応しくない行いをしたお前との婚約破棄は覆らないがな」
唖然。
止まらなかった涙がピタリと止まった。
私は何の小芝居を観させられているの?
と、その瞬間、ランス・ボーエイグによって強引に頭を下げさせられた。
「お前の様な悪女に、謝罪だけで許そうとは。殿下とコリンナ嬢に感謝するんだな。」
いや、今さり気なく慰謝料増えてたじゃん!
ていうか、無抵抗の令嬢(私のこと)を押さえつけるランス・ボーエイグ、最低だな。
私の令嬢ライフよ、さようなら。
私はランス・ボーエイグの手首を掴むと軽く捻って投げ捨てた。
「えっ!?」
私は静かに、しかしできる限り優雅さを心がけて立ち上がる。
「国王陛下はこの婚約破棄をご存知ですか?」
「⋯も、もちろんだ」
「そうですか。では」
ソっとリボンを解くと、豊かな真紅の髪が逆立つ。
それがシリアスなのにちょっと絵面が可笑しい気がして、クスリと笑った。
次の瞬間、私は王子を捕まえリボンで両手首を縛る。
慌てて王家の影が王子を奪還しようと飛び出してくるが、魔気の放出のみで退ける。
王子をお米様抱っこして、王宮目掛けて走り出す。
なろうで色んな人が言っていた。
片方の言い分だけで判断するんじゃないと。
王様に確認しなくっちゃ。
私は王の執務室へ駆け込んだ。
魔物以上のスピードを誇る私を何人たりとも止められない。
「ごきげんよう。
陛下にお尋ねしたいことがございまして、罷り越しましたわ。
本日、こちらのレオンハルト殿下から、身に覚えのない罪によって婚約破棄されたのですが、陛下はご承知の上でのことでしょうか?」
挨拶もソコソコに本題に入る。
会議が踊っては困るのだ!
王様は突然のことにフリーズしてしまい、なかなか返事が来ない。
「婚約破棄⋯?」
王様がやっと再起動したけれども、なかなか返事が返ってこない。
私はお米様抱っこしていた王子をそっと降ろして、ソファに座らせた。王子は静かだと思ったら、目を開いたまま気絶していた。
「先程、学園のホールでいきなり殿下から、ご令嬢を虐めたとして婚約を破棄すると告げられましたの」
そう言うと、陛下は目を白黒させた。
「わ、わたしは知らん。
だが、王妃が何か言っていたかもしれん」
「そうですか。レオンハルト殿下は陛下もご存知だとおっしゃいましたが」
「し、知らん、知らん!」
私は王子の顔を軽くはたき、目を覚まさせた。
「陛下は婚約破棄をご存じないそうですが」
「ち、ち、」
違う、とでも言いたいのだろうか。
「ちちうえ〜!」
軽くズッコケた。
この王子、文武両道の優秀な理想の結婚相手じゃなかったの?
株価が大暴落中だよ!
「もちろんご存知だと思いますが、この婚約は建国時、合併の際に定められた約定です。
破棄なさると仰るなら、グランベルは離脱し独立しましょう。
今請け負っている魔物討伐は当然致しません。よろしいですか」
よろしくないでしょうね。でも知らネ!
婚約破棄するなら相手を見てすることね。
脳筋に面倒くさい理屈は通じないとでも思ってくれ!
最悪食料は奪えばいいよね。
もちろん私は平和主義だから、食料自給率上げる努力はするけど。
「ま、待て! 待ってくれ!」
「待っても良いですが1時間毎に賠償金10%値上げしますね」
「なにぃ〜! 暴利だ!」
「では待ちません。さようなら」
「わ、わかった! わかったから!」
慌てる王様が宰相や大臣達と会議して、婚約は継続となった。
良かった。
別に王子が好きだからじゃない。
考えたら王妃になって至れり尽くせりの生活した方が良いからだ。
もう戦いの日々はウンザリなのだ。
みんなからは嫌われてるけど、それは今までもそうだったもんね!
こんにちは! 私の素敵な令嬢&王妃ライフ!
表向き、顔だけ王子を立ててね。
脳筋鬼兄の上に立つのもいい。
きっちり慰謝料貰ったし、予算は今の王妃の倍。
王子妃、王妃の仕事は必要最低限、余計な書類仕事は致しません。
王様といえど私に命令できない。
白い結婚でもいいし、子供を作ってもいい。(王子の子とは言ってない)
約束守れない様だから契約魔法で縛りますね。
大丈夫、イタクナイヨ!
え? 鬼嫁だ! ですって?
いいえ、鬼姫ですから!
王子は馬車馬のように働かされ、側室などは持てません。
慰謝料を払うため、王子と王妃の個人資産の殆どを失い、予算を大幅に減らされました。
ちなみに子リス令嬢と騎士団長子息は慰謝料を払った上に忖度されて家ごと消えました。
この代の生徒たちは、肩身の狭い思いをずっとします。
えっ? ジャンル恋愛が仕事をしていない!?
フフフ⋯冒頭で婚約破棄してりゃ、こまけぇことはいいんだよ⋯
すみません! 全てノリで書きました! 反省はしています。
ランス・防衛愚
コリンナ嬢は懲りんなぁ。




