奇機械怪(ききかいかい)
ども、社怪人です。
この作品は、以前「闇鍋企画」に投稿したものにかなり加筆修正したものです。
以前どこかで読んだな、思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、読んでみて損はさせません……と、言い切れたら気分いいだろうなぁw
ま、よかったら読んでやってくださいまし。
社怪人でした。
奇機械怪
はじめに
この物語は……
異世界……ではなく『こんな世界なんていややっ! 未来を変えたるんやっ!』と、はるかな未来世界からやってきて、
時の権力者に取り入って過剰な干渉をし(まくっ)た【土岐衆】(歴史書には「土鬼衆」「時衆」等とも記されている)と呼ばれた連中によっていじくり放題にいじくり回され、
挙句の果てに蝶の羽ばたき効果によって【土岐衆】そのものも時間の矛盾に飲み込まれて消え去り、
それから更に三百年ばかり過ぎ去って、一般庶民には『土岐衆? なにそれ? おいしいの?』となってしまった時代の、
『日本皇国』が舞台の『お話』です。
……なに? 十分異世界じゃないか、って? それはそうかもだな(笑)
序 機功
機功【き―こう】
人間の氣――生体力素――や太陽光線等の自然力素によって作動する機械装置の総称。
応用範囲が広く柔軟性が高い。汎用性もある。
薪や石炭等から力素を得ること無く使えるが、個人個人の資質により使用条件が異なってくる。
前述の理由により使用者への調整が必要なため複雑な装置の量産は難しい(出来ないわけではない)。
主生産地は日本皇国。諸外国(英王国・欧州・北亞米利加合州国)への主要輸出品。
(「万能社百科事典」皇紀二四八〇年版より抜粋)
一 贈り機功
ぼくの名は屋形鉱作。
央都一の歓楽街、風流町の裏通りで機功工房を開いている一介の機功士だ。
この風流町で使われている機功の面倒を見ながら、頼まれた機功を製作しながら、新しい機功を開発しながら、日々を生きている。
一級機功調整修理技士と一級機功鑑定士の資格は持ってるので素人ではない。念のため。
さて、今、ぼくの目の前には『なんだかよくわからない機功』が鎮座している。
つい先ほど工房前に――いろんな書類と一緒に厳重に梱包されて――届けられた『機功』は梱包を解いて一見したところ、薄汚れた正体不明のがらくたにしか見えなかった。
が、工房に持ち込み、もの自体を洗浄してみると……
まず本体は「白い卵」たぶん大駝鳥の卵の殻かなんかを使っているんだろうと思われるが、蹴球競技の球ほどの大きさで、縦横無尽に分割線が入った楕円球だ。
その表面に様々な機功の部品――素子、端子、伝導管から基盤まで――を脈絡なく貼り付け、組み込み、ご丁寧に一部は溶接までしている。
力素伝導管が付いていたので思いついて力素を送り込んだら分割線に沿って光り出し……すぐ消えて、それだけ。
正直、本当になんなんだか、わからん。
単なる機功部品の組み合わせ、子どもの遊びの似非芸術作品、にしては使われている素子端子基板導管類が――製造当時の――技術的には最高精度の物が使われている(外に付いてる使用部品の総額だけで一流料亭で大宴会開ける程度はする)のが解る。解ってしまう。
伊達に一級機功鑑定士は持ってないのだ、うん。
ぼくは洗浄されて綺麗になったが、ますます正体不明さが増した機功部品の塊を前にため息をついた。
どうしてこんなものがぼくの元に届けられたのか、それは一月程前に遡る。
二 百年蔵
百年蔵
央都一の歓楽街、風流町の表通りに建つ創業二百年の一流大料亭「守谷亭」。
その敷地内にある巨大なる機功の塊。
今から約百年ほど前、四代前の亭主、守谷三右衛門氏が生涯かけて蒐集した書画骨董と機功を収めている、と、伝えられている時限開閉式機功蔵である。
三右衛門氏が設定した閉蔵期間は、百年。なぜそんな酔狂な真似をしたのかは未だに謎のままである。
もちろん、その間央都に何もなかったわけがない。
数度にわたる暴動に戦乱、賊に狙われたことも何度となくあったと言う。
七代目当主の守谷亭七右衛門氏は語る(以下略)
(民明書房発行「央都名処百選探訪」の「百年蔵」の項より一部抜粋)
◆ ◆ ◆
「きれいなもんでしたねぇ……埃一つ見当たらない。百年間まったく手入れも掃除もされなかったと言うのに」
開かれた「百年蔵」の収蔵品を一つ手に取り、箱眼鏡――通称、『自在眼』。機功士用の便利道具の一つ――で覗いて鑑定しながら、屋形鉱作は守谷亭さんに話しかけた。
四十畳敷きの大広間を二つ、障子に襖に畳を全て取り外して置き台を並べ、そこに店の男衆を総動員して蔵の収蔵物を並べる。
言葉で言えばそれだけの事を終えるのに、半日がかり。
三右衛門氏の蒐集物がそれだけ多かった、と言う事だ。
蔵の中から出てきたのは、百年前でも既に貴重だったと思われる書画骨董から日常の生活用品玩具に、機功。
まぁ……何と言うか無節操に集めるだけ集めました集めるのだけが目的でした(この道楽者がぁ!)、と言った品々の数々。
で、ぼくは最重要顧客にして地主さん――もちろん、家主さんでもある――の守谷亭さんから頼まれて、収蔵品の機功と生活用品、玩具の鑑定をしているところだ。
収蔵品の書画骨董担当は央都一、との評判高き骨董商の安国堂さん。
さっきからしきりに『むぅ』とか『ほぉ』とか言いながら柔和な顔が崩れっぱなしである。
この数寄者。
「どうやってだかはこれから詳しく調べなければ判りませんが、蔵の中を真空状態に保つ機功でも組み込まれていたんでしょう……まったく三右衛門翁って人はとんでもない道楽者だったようです。と……
さて、二週間後には展示会を開きます。それまでに鑑定と修理調整をお願いしますよ」
守谷亭さんも皇国中の数寄者、粋人、学者に新聞社その他有象無象から『蔵が開いたらぜひ展示会を開いてください』と頼まれ、これはいい商売の機会になると喜んでいる。
かくして二週間後、央都の私立御剣博物館で『守谷亭百年蔵収蔵品展』が開かれ、大盛況となったのだが……それはまた別の機会にお話できればするとして……
この日、ぼくや安国堂さんや男衆――部外者――が夕方になって一旦引き上げた後、何気なく空っぽだった筈の百年蔵に入った守谷亭さんが見つけたのが、隠し部屋。
そして、中に安置されていたのが、この機功部品の塊。だったと言う事、らしい。
三 工房
機功に付いてきた守谷亭さんからの説明が書かれた手紙には、『実はあの後、蔵から隠し部屋が見つかっちゃってね、そこから出てきたんだけど目録にも記録してないし、君の働きに感謝してこれをあげるねっ、ぜひぜひ貰ってくださいよろしく、絶対に返すなんていわないでねっ』
と、普段の落ち着きっぷりとは裏腹のはっちゃけた送り状に、厳重な梱包材にわざわざ『贈り物 守谷亭』と書かれ張り付けられた熨斗紙と、ついでにぼく名義の所有権登録証――登録証ってけっこう登録料高いんだよ――まで付けて届けてられた、機功。
どう見ても考えても『厄介払い』ってやつだよね? 書類。
でも、何でそんなにしてまで厄介払いしたかったのか? この時のぼくには解らなかった。
翌日、顧客の料亭、上州屋さんから頼まれた機功竈の掃除と調整と部品交換を済ませて工房に帰ってくると……
戸締まりはきちんと――ぼくの組んだ機功錠前だ、生半な腕では生体鍵無しで開けられるはずもない――した筈なのに工房内で何かが動く音がする。
所謂気楽な独身者、身軽な身ではあるものの、工房内に置いてる商売道具は、そんじょそこらの品物でない。
盗られたら無くなったら飯の食い上げになってしまう。
と、言うわけで錠前を開け、そうっ、と引き戸を開け、中に入り、そうっ、と閉めて錠前を閉め。
工房内を見たら、
謎の機功が工房の中を転がりまわってました。
薄ぼんやり光って、分割線から青白い光をちかちかさせて、ぶつぶつぶつぶつ唸るような音立てながら。
いや、良く良く、よ〜く、解りました。
守谷亭さん……あんた……あんたなんちゅうもんぼくに押しつけてくれたんですかぁ〜!?
四 生誕
それから……
成長と言うか、進化と言うか、変態と言うか、変形と言うか……し始めたんだな機功が。
数日後には卵の上部がぽんっ、と開いて双眼鏡のようなものが出てきてあちこちきょろきょろし始め、底がぽんっ、で三角形に組まれた車輪が一対出てきて勝手に自分で動き回り始めた。
それらの形状を見てどっかで見たような、と部品棚の箱を調べたら……
やられた……やられてた……
ほとんどは廃機功から『まだ使えるから』と取り外して保管しといた部品だったけど、視覚基盤とか導力装置とか増幅鉱石とか……まぁそれなりのお値段がするものもなくなって、こいつの部品になっていた。
なんとか機功と意思疎通できなければ、更に何か貴重品がやられるかもしれない……
ちなみにバラして必要な部品とって捨てる、ってのは論外。
こんなわけのわからんのでも百年蔵の収蔵品。捨てるなんてそんなもったいな……歴史を冒涜するような事ができるわけがないっ!
こういう訳わからんものを自分の思うがままに扱えてこそ、一級機功調整修理技士ってもんなのだっ!
ぼくは、ふと思いついて中古の伝話器をこいつの前においてみた。
いや……思いついただけで特に根拠はなかったんだけど。
すると――
ぱくん、と腹に相当する部分が開き、中から手としか言いようのないものがぬうっ、と出てくると伝話器をわしっと掴み中に入れ……
『目』も『足』も中に引き入れて元の『卵』に戻って動かなくなった。
動かなくなっただけで絶えず『殻』の中からは「かりかり」だの「かちゃかちゃ」だのたぶん再構成しているような音がずっと聞こえてはいたのだが。
で、三日後。
「なんでさ?」
『卵』の殻がぱっくり割れて、中から猫耳で、背中から小さな蜻蛉のような羽根が生えた三寸程の背の高さの妖精っぽいもの、が産まれましたとさ。
しかも、ぼくを見て、
「おとう・さま?」
「きみ、だれ?」
「わたし・つくも・です」
「つくも?……つくもって……付喪神!?」
「はい・それ・です……たぶん」
「な、なんでさ?」
「うまれる・ちから・たりなかった・のを・おとう・さま・が・くれ・ました」
「機功から産まれた新世代の付喪神、ってことなのか?」
「しんせだい・いみ・わかりません・わたしは・つくも・です」
あはははは……ほんと、とんでもないもの貰っちゃったよ、これ。
と、丁度その時を待っていたかのようにがらがらがらっ! と工房の引き戸が開く音がして、どたどたどたっ! と駆け込んできたのは守谷亭氏。
「す、すまんっ! 鉱作君っ! この前の話は無かったことにしてこの前の品物を返し……あらら? ……お、遅かったかっ!」
ぼくと付喪神を名乗る妖精っぽいものを見てがっくりとひざを着く。
「今日、隠し部屋から新たに三代目の残した録音盤が見つかって、『機功から産まれる付喪神の卵を作ったから面倒見てあげてね、実はあの蔵の品物はみんなこれから目を逸らすための囮だったんだよ〜。じゃあよろしくねぇ』って入ってたんだ」
「でも、夜中にごろごろ動くはぶつぶつ言うはで店中の者が気味悪がってね」
「厄介払いに君のところへ贈り物にしちゃったんだけど……返してくれないよ、ね?」
……丁重にお引き取りいただきました。
こうして、ぼくの工房に住人? が増えた。
なぜかぼくの頭の上がお気に入りで、お陰でぼくの頭は鳥の巣のようになってしまっている。
名前は「きき」ぼくがそう名づけた。
奇妙な機功から産まれた付喪神、奇妙な機功の神様だから「奇機」。
なかなかいい名前だと思わないかな?
その後、ぼくは付喪神が憑いている機功技士兼鑑定士として業界的には有名人になり、ききと共に色々な面倒ごと――奇機械怪な話――に巻き込まれていくことになるんだけど……
それはまた、機会があればお話することにしよう。
社怪人です。
あとがきを読んで下さってる、言うことは最後まで読んでいただけたと思って間違いないですよね?
お読み下さりありがとうございます。
出来れば読んだ勢いで感想など書いてやって下さいませ。
よろしくお願い致します。
社怪人でした。