天使の答え
会議の後、今回も少し時間があった。
結人は、ラファエルのそばに行った。
「天使って、人間のことが好きなんですか」と聞いた。
ラファエルは少し考えてから、「好きです」と言った。「ただ、好きという言葉が適切かどうかわかりません。愛着がある、という方が正確かもしれません」
「どうして?」
「ずっと見てきたからです。あなたたちの祖先が、初めて火を使った日から。言葉を作った日から。絵を描いた日から。ずっと見ていました」
「長いつきあいですね」
「そうです。長い長い」
「ベルフェゴールさんも、同じくらい見てきたんですか?」
「もっと長いです、あの方は」
「なのに滅んでほしいと思っている」
「そうです」
「矛盾じゃないですか」
「はい」とラファエルは言った。
「でも私は、矛盾することは悪いことじゃないと思っています。それは人間から学びました」
「どういう意味ですか」
「人間は矛盾していながら、それでも美しいものを作ります。争いながら、愛の歌を作ります。絶望しながら、希望の絵を描きます。矛盾しているから、ダメだということにはならない。そういうことを、ずっと見ていて学んだんです」
結人は、その言葉をしばらく考えた。
「ベルフェゴールさんに言ってみたら?」
「言っています。毎回」
「毎回言って、届いてないんですか」
「届いているかもしれません。ただ、届いているとは言わないだけで」
「頑固ですね」
「悪魔ですからね」とラファエルは少し笑った。
「でも、だんだん無条件で反対することが減ってきたと思います。最初の頃に比べれば」
「最初の頃、というのは」
「千年ほど前です」
「……千年」
「長い付き合いです、私たちも」
結人は、この会議室を、もう少し異なる目で見た。
この場所で、何百年、何千年、そういう会話が繰り返されてきたのかもしれない。保留が続いて、でも世界は終わらなくて。
「俺が人間代表として来た意味って、あるんですかね」
「あると思います」とラファエルは言った。
「いつも、人間代表が来ると、会議が少し変わります」
「どう変わるんですか」
「具体的になります。抽象的な議論が、誰か一人の話になる。それが大事なんだと思います」
「誰か一人の話、か」
「世界の七十億人を語るより、あなた一人を見たほうが、人類が見える気がします。少なくとも私はそう思っています」
「それは」と結人は言った。
「ちょっと、重い役割だな」
「申し訳ありません」とラファエルは言った。
「でも、あなたが選ばれたのはちゃんと理由があると思います。クロノスはそういうところは丁寧な方なので」
「どんな理由?」
「私にはわかりません。クロノスに聞いてみたらどうでしょう」
「聞いたら、答えてくれますか?」
「たぶん」とラファエルは言った。
「聞き方次第ではあるかもしれませんね、それではまた」
その言葉を残しラファエルは、笑みを浮かべながらどこかへいってしまった。




