議題:戦争(後編)
「人間代表」とベルフェゴールが言った。
「はい」
「平和というのは、どこにある」
「……え?」
「お前に聞いている。人間代表として。平和はどこにあるんだ」
結人は、少し考えた。
簡単な問いじゃない。でも、答えを避けたくなかった。この場で何かを言う価値があるとしたら、誤魔化さないことだと思った。
「わからないです」と最初に言った。「でも」
「でも?」
「たぶん、大きいところにはない気がします。国家間の条約とか、国際機関の宣言とか、そういうものは必要だと思うけど、それは平和を作るというより、平和を守るための枠組みで。本物の平和は、もっと小さいところにある気がして」
「小さいところ、とは」
「隣の人と、目が合ったときに頷き合えること。困っているときに助けてもらえること。怒鳴られない場所があること。そういう、すごく小さなことが積み重なって、初めて平和になるんじゃないかな、という気がします。言葉にすると陳腐だけど」
ラファエルが何も言わずに、微かに笑った。
ベルフェゴールは何も言わなかった。
「確かに」と、しばらくして結人は言った。
「何でしょう」
「確かに、大きな暴力は人間が作った。でも平和を作ったのも人間だ、ということは、一応言っておきたい」
「その平和も、すぐに壊れるがな」とベルフェゴールが言った。
「すぐに、ということもないと思います。第二次大戦後のヨーロッパは、七十年以上、主要国間での直接的な戦争がなかった。それがここ数年で変わりつつあるのは、事実だけど」
「七十年」とベルフェゴールは言った。
「宇宙的な時間からすれば瞬きよりも短い」
「人間の時間からすれば、三世代です」
「短い」
「短いことと、意味がないことは、別です」
ベルフェゴールは何も言わなかった。
「戦争議題の現時点での評価は」とクロノスが言った。
「保留継続」とアトラスが言った。
「新しいデータが出るたびに再評価が必要です」
「反対意見は」
今回も、誰も反対しなかった。
「保留継続、記録してください」とクロノスが言った。
「記録しました」




