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議題:戦争(前編)

 二回目の会議は、三日後だった。

 結人はまた、普通の月曜日——正確には木曜日だったが——の途中で召喚された。

 今回は昼休みだった。コンビニで買ったパスタを食べていたら、突然会議室にいた。パスタが手から消えた。


「それは申し訳ありませんでした」とラファエルが言った。


「食べ物は持ってきてもらえませんか、次から」


「検討します」とクロノスが言った。


「毎回そう言って実現しない」とベルフェゴールが言った。

「今日こそは真剣に検討します」

「前回も真剣に検討する、と言っていた」

「………」


 クロノスは静かに咳払いをした。


「では、本日の議題に入りましょう。戦争について」


 アトラスが出したデータは、数字だった。


 過去五千年間の戦争の記録。死者数の推移。現在進行中の紛争の数。


「現在、世界で武力紛争が発生している地域の数は」とアトラスが言った。「五十を超えています。そのうち大規模なものが十数件。現在進行中の戦闘で、今日だけで何人が亡くなるかを計算すると——」


「止めてください」と結人は言った。


 アトラスが止まった。


「そのまま聞き続けると、少し耐えられないので」

「感情的な反応です」とアトラスは言った。批判ではなく、ただの観察として。

「そうです。俺は人間なので」

「人間が戦争の情報に耐えられないのは、なぜですか」

「体験したくないからじゃないですか。頭でわかっていても、それが現実だと実感すると、どこかが痛くなる」

「共感能力による反応ですね」

「そうだと思います」

「人間の共感能力は、他の文明と比較しても高い傾向があります。同時に、他の文明と比較して、同族への攻撃性も高い」

「矛盾してますね」

「矛盾しています」

「人間はいつもそうだ」とベルフェゴールが言った。「泣きながら殺す。苦しみながら壊す。これほど奇妙な生き物はいない」

「奇妙だからこそ、可能性がある」とラファエルが言った。

「奇妙だからこそ、危険がある」

「どちらも正しいでしょう」

「両方正しいなら、その正しさを天秤にかけろ。どちらが重い?」


 ラファエルは少し黙った。

 その沈黙の間に、結人が言った。

「一つ、聞いてもいいですか」


 その沈黙の間に、結人が言った。


「一つ、聞いてもいいですか」

「どうぞ」とクロノスが言った。


「戦争って、なんで起きるんですか。みなさんの見解を聞きたいんですが」

「それは人間の問いではないですか」とアトラスが言った。「人間が戦争を起こしているのですから」

「俺は起こしてないです。俺の周りにも、戦争を起こした人間は一人もいない」

「しかし、人間の社会が起こしています」

「そこが俺の疑問で。個々の人間は、たぶん戦争をしたいと思っていない。でも集まると起こる。なんでそうなるんでしょう」


 ベルフェゴールが口を開いた。


「恐れだ」

「恐れ?」

「人間は恐れる生き物だ。自分と違うものを、理解できないものを、奪われることを。その恐れが、積み重なって、攻撃になる」

「それは」と結人は少し考えた。「わかる気がします」


「わかるか」

「自分も、怖いものはたくさんある。失うことが怖い。変わることが怖い。でも攻撃するとは思わない」

「お前は一人だから」とベルフェゴールは言った。

「集団になると、恐れは増幅される。お前の隣の人間も怖がっている。その怖がりが重なると、怒りになる」


「集団心理ですね」とアトラスが言った。「個体の行動と集団の行動の乖離は、人類において特に顕著です」

「それを解決する方法は、人間には見えていますか?」とラファエルが結人に聞いた。


「見えてる人はいると思います」と結人は答えた。

「ただ、見えてる人が必ずしも権力を持っているわけじゃない。逆に、うまく恐れを煽れる人が権力を持ちやすい、という面がある気がして」


「なぜ煽られる側が気づかないのですか」と アトラスが聞いた。

「難しい質問ですね。……自分のことを賢いと思っているから、かな。俺も含めて」

「自分が煽られているとは思わない」

「思わないです。でも気がついたら、誰かを怖がっていることがある。怖がる理由には、それなりの根拠がある気がする。でもその根拠は、誰かが意図的に見せたものかもしれない」


「難しいですね」とラファエルが言った。

「難しいです。正直」


 しばらく、沈黙が続いた。

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