議題:SNS(前編)
円卓の中央に、映像が浮かんだ。
地球の夜の映像だった。各地の夜景が見えて、その一点一点が、スマートフォンの光だとアトラスは説明した。
「現在、地球上のSNSユーザーは約五十億人。一日平均二時間以上を費やしています」とアトラスは言った。感情のない声で。
「過去十年間の分析から、SNSと精神的健康の間には一定の相関関係があります。具体的には」
データが次々と浮かんだ。グラフ、数字、パーセンテージ。
「孤独感の増加、比較による自己肯定感の低下、炎上現象による集団的攻撃性の発現——」
「端的に言え」とベルフェゴールが言った。
「人類の精神状態は、SNSの普及以降、有意に悪化しています」
「ほら見ろ」とベルフェゴールが言った。円卓に肘をついて、少し前のめりになった。
「人間が作ったものに人間が傷つけられている。何度目だこのパターンは」
「最初は道具です」とラファエルが言った。
「使い方の問題です」
「使い方の問題と言い続けて何年経った? 核兵器のときも同じことを言っていた」
「核兵器は今日の議題ではありません」
「例え話だ」
「例え話も適切なものを選んでください」
「アトラス、炎上事例を出せ」
アトラスが映像を出した。
SNSの画面が映った。何かのツイート——いや、今は別の名前になっているが——に、無数のリプライが連なっている。言葉が並んでいた。結人にはその言葉の内容が読めたが、読んでいると気分が悪くなった。
「死ね」「消えろ」「お前みたいな人間が」「こんなやつが存在していいのか」
「……人間って、怖いな」
思わずそう言ってしまった。
「ほら、人間代表もそう言っている」とベルフェゴールが言った。
「でも私も人間なので」と結人は続けた。
「だから何だ」
「このツイートをした人たちも、全員、普通の生活をしてる誰かだと思います。昼間は仕事してるかもしれないし、家に帰ったら家族がいるかもしれない。でもスマートフォンを持ったら、こういうことを書く。俺には正直、それがよくわからない」
理解できない、ということですか」と不思議そうな顔でラファエルが聞いた。
「理解できないというより——あー、なんて言えばいいんだろう」
結人は少し考えた。




