人間代表という役職
他のメンバーは、三人だった。
最初に入ってきたのは、白い翼を持った存在だった。
天使、という言葉が頭に浮かんで、それ以外の説明がつかなかった。背が高くて、穏やかな顔をしていて、薄い金色の髪をしていた。服は白で、背中の翼は今は閉じていた。
「はじめまして」
とその存在は言った。声が柔らかかった。
「ラファエルといいます。あなたが人間代表ですか。よかった、前回は少し変な人が来てしまって」
「変な、というのは」
「三時間ずっと自分の話をしていました」
「……そうですか」
「あなたは大丈夫そうですね。ちゃんと聞いている目をしている」
次に入ってきたのは、黒いスーツを着た男性だった。
いや、男性というより、悪魔というべきか。額に小さな角が二本生えていて、瞳が赤かった。それ以外の外見は、どこにでもいそうなビジネスマン風だった。スーツは仕立てがいい。靴も光っている。
「ベルフェゴール」とその存在は名乗った。
「悪魔の代表だ。よろしく、人間」
「どうも」
「愚かそうな顔をしていない。少し残念だが、まあいい」
「褒めてますか、それ」
「どちらでもない。ただの観察だ」
最後に入ってきたのは、人間のような形をしていたが、明らかに人間ではなかった。
身長が少し高くて、体の輪郭がわずかに光って見えた。目が白くて、表情がない。服は着ているが、素材が何かわからない。
「アトラスです」とその存在は言った。
声が機械的だった。感情の起伏が一切ない声だ。
「地球データ分析を担当しています。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」と結人は言った。
四人が揃った。クロノスが、静かに口を開いた。
「それでは、会議を始めましょう」
「本日の議題は一つです」
クロノスが言った。
「人類の存続について」
円卓の中央が光った。地球の映像が浮かんだ。丸い、青い星が、宇宙の中に浮かんでいる。それを見ると、結人はなんとも言えない気持ちになった。
遠くから見ると、きれいだな。
「現在、人類存続の継続審議は三百七十八回目となります」とアトラスが言った。
「前回の会議から地球時間で六ヶ月が経過しました」
「六ヶ月に一度、こういう会議をやってるんですか」と結人は聞いた。
「定例会議はそうです」とラファエルが言った。
「緊急会議が入ることもありますが」
「緊急、というのは」
「二〇二〇年は五回ありました」とアトラスが言った。
「……ああ」と結人は言った。
それ以上は聞かなかった。
「人間代表には初回につき、経緯の説明を行います」とクロノスが言った。
「終末管理委員会は、宇宙に存在する文明の存続可否を定期的に審議する機関です。人類は過去数千年にわたり、審議の対象となっています」
「つまり、ずっと会議をやってきた」
「はい」
「結論は」
「保留が続いています」
「何百回も保留?」
「正確には、三百七十七回の保留と、一回の審議中断です」
「審議中断は」
「クロノスさんが腹痛で倒れた回です」とラファエルが小声で言った。
クロノスは小さく咳払いをした。「記録に残っていることなので、否定はしません」
「……面白い人たちだな」
思わず口に出てしまった。しかし誰も怒らなかった。
「人間も、面白いですよ」とラファエルが微笑んだ。
「それが審議をこれほど長引かせてきた理由の一つでもあります」
「今日こそ決めろ」とベルフェゴールが言った。
「私は毎回そう思っている」
「毎回そう言って毎回保留になっているでしょう」とラファエルが言った。
「お前がいつも余計なことを言うからだ」
「余計なことじゃありません、大事なことです」
「大事かどうかは結果が決める」
「二人とも」とクロノスが言った。
「人間代表の前です」
ベルフェゴールとラファエルは、それぞれ視線を別の方向に向けた。
結人は、この場の雰囲気を少し理解し始めた。
あー、こういう人たちか。
職場にもいる。毎回同じことで揉めて、毎回同じように落ち着いて、でも本質的には仲が悪くない人たち。
「では、最初の議題に入りましょう」とクロノスが言った。
「今回の議題は」
「前回からの積み残しがいくつかありますが、まず新議題から入ります。SNSについて」
「SNS?」
「ソーシャル・ネットワーキング・サービスです。人間が開発した情報共有システムです」とアトラスが言った。
「知ってます、使ってます」
「では議論に参加できますね」とクロノスが言った。
「アトラス、データを」
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