月曜日は世界の終わりみたいに始まる
月曜日の朝というのは、なぜこんなに嫌なのだろう。
天城結人はその疑問を、二十四年間ずっと持ち続けていた。答えは出ていない。たぶん出ない。でも毎週月曜日になるたびに同じことを考えて、同じように憂鬱な気持ちで目を覚ます。
この日も、そうだった。
スマートフォンのアラームが七時ちょうどに鳴った。結人は布団の中で三十秒ほどそれを無視してから、渋々画面をタップした。止まった。また眠れそうな気がした。でも起きた。
社会人というのは、起きなければならない生き物だ。
洗面台で顔を洗いながら、鏡の中の自分を見た。二十四歳、独身、都内の小さな広告代理店勤務。特技は何もない。趣味と言えばひとりで映画を観ることと、コンビニのスイーツを食べることくらい。恋愛はここ一年していない。友人は多くないが少なくもない。
ごく普通の、何の変哲もない人間だ。
それが結人の自己評価だった。自虐でも謙遜でもなく、ただの事実認識として。
朝食はトーストと目玉焼き。コーヒーは豆から挽く。それだけが、ほんの少しこだわっていることだった。豆はなんでもいいが、自分で挽いたものと、インスタントのものとでは、味より気分が違う。朝に少しだけ儀式的な何かがあると、一日の始まりが締まる気がする。
コーヒーを飲みながら、スマートフォンでニュースを眺めた。
政治家がまた何か言っていた。どこかでまた戦争が起きていた。気候変動についての会議が、また何かを決めた。あるいは決めなかった。芸能人が結婚した。別れた。スポーツ選手が引退した。
世界は今日も変わらず、ざわざわと動き続けていた。
「人間って、本当に騒がしいな」
誰にも聞こえない声で、結人はそう言った。
一人暮らしの部屋では、独り言がよく出る。これも二十四年間の癖だ。
会社に着いたのは九時五分前だった。
「天城くん、昨日のプレゼン資料、修正できた?」
席に着くより前に上司の声が飛んできた。結人は鞄を置きながら「はい、昨夜やっておきました」と答えた。嘘だ。昨夜はずっと映画を観ていた。でも今朝の電車の中でスマートフォンから修正できる部分は直した。残りは今から十分でなんとかする。
そういう種類の嘘は、社会人になってから上手くなった。
「あと、例の件、やっぱりクライアントが難しいって言ってて」
「また?」
「また」
「先週もそう言ってましたよね」
「言ってた。でも今週も言ってる」
結人は小さくため息をついて、パソコンを起動した。
広告代理店の仕事は、嫌いじゃない。正確には、嫌いと好きの間のどこかにある。誰かの何かを伝えるための形を作る仕事だ、という建前はわかる。でも実際のところは、クライアントの言うことが変わるたびに作り直して、締め切りに追われて、なんとか形にして、また変更が入る。その繰り返しだ。
意味があるのかと問われれば、あると思う。でも答える前に少し考える。
その「少し考える」という時間が、なんとなく自分の正直さの証明だと思っていた。
仕事を始めて二時間ほど経った頃、それは起きた。
何の前触れもなかった。
強いて言えば、蛍光灯がひとつ、細かく瞬いた。それだけだ。
気がついたら、結人は自分のオフィスにいなかった。




