表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

月曜日は世界の終わりみたいに始まる

 月曜日の朝というのは、なぜこんなに嫌なのだろう。


 天城結人はその疑問を、二十四年間ずっと持ち続けていた。答えは出ていない。たぶん出ない。でも毎週月曜日になるたびに同じことを考えて、同じように憂鬱な気持ちで目を覚ます。


 この日も、そうだった。


 スマートフォンのアラームが七時ちょうどに鳴った。結人は布団の中で三十秒ほどそれを無視してから、渋々画面をタップした。止まった。また眠れそうな気がした。でも起きた。


 社会人というのは、起きなければならない生き物だ。


 洗面台で顔を洗いながら、鏡の中の自分を見た。二十四歳、独身、都内の小さな広告代理店勤務。特技は何もない。趣味と言えばひとりで映画を観ることと、コンビニのスイーツを食べることくらい。恋愛はここ一年していない。友人は多くないが少なくもない。


 ごく普通の、何の変哲もない人間だ。


 それが結人の自己評価だった。自虐でも謙遜でもなく、ただの事実認識として。


 朝食はトーストと目玉焼き。コーヒーは豆から挽く。それだけが、ほんの少しこだわっていることだった。豆はなんでもいいが、自分で挽いたものと、インスタントのものとでは、味より気分が違う。朝に少しだけ儀式的な何かがあると、一日の始まりが締まる気がする。


 コーヒーを飲みながら、スマートフォンでニュースを眺めた。


 政治家がまた何か言っていた。どこかでまた戦争が起きていた。気候変動についての会議が、また何かを決めた。あるいは決めなかった。芸能人が結婚した。別れた。スポーツ選手が引退した。


 世界は今日も変わらず、ざわざわと動き続けていた。


「人間って、本当に騒がしいな」


 誰にも聞こえない声で、結人はそう言った。


 一人暮らしの部屋では、独り言がよく出る。これも二十四年間の癖だ。


 会社に着いたのは九時五分前だった。


「天城くん、昨日のプレゼン資料、修正できた?」


 席に着くより前に上司の声が飛んできた。結人は鞄を置きながら「はい、昨夜やっておきました」と答えた。嘘だ。昨夜はずっと映画を観ていた。でも今朝の電車の中でスマートフォンから修正できる部分は直した。残りは今から十分でなんとかする。


 そういう種類の嘘は、社会人になってから上手くなった。


「あと、例の件、やっぱりクライアントが難しいって言ってて」

「また?」

「また」

「先週もそう言ってましたよね」

「言ってた。でも今週も言ってる」


 結人は小さくため息をついて、パソコンを起動した。


 広告代理店の仕事は、嫌いじゃない。正確には、嫌いと好きの間のどこかにある。誰かの何かを伝えるための形を作る仕事だ、という建前はわかる。でも実際のところは、クライアントの言うことが変わるたびに作り直して、締め切りに追われて、なんとか形にして、また変更が入る。その繰り返しだ。


 意味があるのかと問われれば、あると思う。でも答える前に少し考える。


 その「少し考える」という時間が、なんとなく自分の正直さの証明だと思っていた。


 仕事を始めて二時間ほど経った頃、それは起きた。


 何の前触れもなかった。

 強いて言えば、蛍光灯がひとつ、細かく瞬いた。それだけだ。

 気がついたら、結人は自分のオフィスにいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この作品、発想の勝ち方がすごく好きでした。月曜朝のだるさ、広告代理店の“嫌いじゃないけど好きとも言い切れない”仕事感、そのどうしようもない現実味を積み上げたうえで、いきなり「終末管理委員会」に接続する…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ