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第三章 授業

「……なんでだ?」

授業が始まって三十分。

教室の前で、教師が腕を組んで唸っていた。

その視線は――俺に向いている。

「司馬くん」

「はい」

「ちょっと前に出てきて」

嫌な予感しかしない。

俺はゆっくり立ち上がった。

教室の黒板には、複雑な魔術式が描かれていた。

幾何学模様のような構造。

多重詠唱式。

魔力循環理論。

普通の新入生ならまだ理解できない内容だ。

教師は長い金髪をかき上げながら言った。

「この式、どう思う?」

この人は――

フィオナ・アルケミア。

王立魔術学園でも有名な魔術研究者だ。

年齢は若いが、論文の数はとんでもないらしい。

ただし。

かなりの変人だという噂もある。

俺は黒板を見た。

数秒。

いや、もっと短いかもしれない。

「魔力循環が非効率です」

教室が静まった。

フィオナの眉が動く。

「どこが?」

「第三詠唱節です。ここ、共鳴率が低い」

俺は黒板にチョークで印をつけた。

「この構造だと魔力損失が起きます」

「ふむ」

「だから通常は補助詠唱を入れます」

俺はもう一つ式を書いた。

少しだけ改良した形だ。

数秒の沈黙。

そして。

フィオナはゆっくり言った。

「……正解」

教室がざわめいた。

「すごくない?」

「今の理解できた?」

「新入生だよな?」

フィオナは俺をじーっと見つめている。

ものすごく見ている。

「司馬くん」

「はい」

「なんでそんなに理論わかるの?」

「本を読んだので」

「本を読んだので?」

「はい」

フィオナは頭を抱えた。

「でもさ」

「はい」

「君」

「はい」

「実技試験の詠唱」

少し間を置いて。

「めちゃくちゃ遅かったよね?」

教室が笑いに包まれた。

俺は真顔で答える。

「はい」

「なんで?」

「口が回らないんです」

「口が回らない」

フィオナは天井を見上げた。

「なんで理論完璧なのに詠唱遅いのこの子」

本気で困っているらしい。

その時。

「先生」

玲奈が手を挙げた。

「一ノ瀬さん?」

「その式、もう少し効率よくできます」

教室が再び静かになる。

玲奈は前に出ると、黒板の魔術式をじっと見た。

数秒。

そして。

チョークを走らせる。

新しい魔術式。

さっきの俺の改良より、さらに洗練されている。

フィオナが固まった。

「……」

「……」

「……」

やがて。

「これ」

フィオナが震える声で言った。

「研究論文レベルなんだけど」

玲奈は首を傾げた。

「そうなんですか?」

天然である。

フィオナは頭を抱えた。

「今年の新入生どうなってんの……」


キーンコーン...


やがて授業の終わりの鐘が鳴った。

フィオナはため息をつく。

「今日はここまで」

そして思い出したように言った。

「あ、そうだ」

「来週から授業で遺跡調査をやるから」

教室がざわめいた。

遺跡調査。

王立魔術学園の重要な授業の一つだ。

古代文明の遺跡を探索し、魔術知識を回収する。

つまり――

「実地訓練だ」

フィオナが笑う。

「楽しみにしててね」

その言葉に、教室の空気は一気に高揚した。

だが。

この時。

まだ誰も知らなかった。

その遺跡の奥に――

決して目覚めてはいけないものが眠っていることを。

そしてそれが。

この学園に。

いや。

この世界に。

新たな災厄をもたらすということを。

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