第二章 実技試験
入学式が終わると、俺たちはそのまま訓練場へ連れて行かれた。
「いきなり実技かよ……」
俺は思わず呟いた。
王立魔術学園の訓練場は、城塞のように広かった。
石造りの壁。
魔術耐性結界。
そして中央には巨大な演習場。
すでに多くの新入生が集まっている。
「入学初日に実力を見るんだって」
玲奈が隣で言う。
「合理的だけど胃が痛い」
「悠馬はそんなに緊張してるの?」
「俺はDランクだぞ」
玲奈は少し考え込んだあと、
「でも悠馬って強いよね」
と言った。
「どこが」
「なんとなく」
「根拠が雑すぎる」
そんな話をしていると。
ドンッ!!
巨大な音が響いた。
振り向くと、一人の男が演習場の中央に立っていた。
黒い短髪。
鋭い目。
全身から漂う圧倒的な威圧感。
「静かにしろ」
一言で、ざわめきが止まった。
「俺が戦闘実技を担当する」
男は腕を組む。
「黒鉄 迅だ」
名前を聞いた瞬間、周囲がざわめいた。
「黒鉄 迅って……」
「元王国騎士団の……」
「戦場の英雄じゃないか」
噂は聞いたことがある。
王国騎士団最強の剣士。
魔術はほとんど使わないが、それでも最前線で戦い続けた男。
黒鉄は俺たちを見回すと、言った。
「魔術師だからといって魔術だけで戦うと思うな」
地面を指差す。
「死ぬぞ」
静まり返る新入生たち。
黒鉄は続ける。
「今日やるのは単純だ」
木剣を指差した。
「模擬戦だ」
嫌な予感しかしない。
「名前を呼ばれた奴から前に出ろ」
黒鉄は名簿を見た。
「神代真白」
さっき会ったクラスメイトだ。
神代は静かに前へ出た。
対戦相手は体格の良い男子だった。
「始め」
カンッ!
木剣がぶつかる。
神代は派手な動きはしない。
だが。
無駄がない。
相手の攻撃をいなし、体勢を崩す。
そして。
トンッ
喉元に剣先を突きつけた。
「……勝者、神代」
「おおー」
小さな拍手が起きる。
神代は軽く頭を下げて戻ってきた。
「強いな」
俺が言うと、
「普通だよ」
と神代は言った。
「次」
黒鉄が名簿を見る。
「司馬悠馬」
周囲の視線が集まる。
「……はい」
俺は前に出た。
対戦相手はCランクの男子だった。
「よろしく」
「お、おう」
開始の合図。
カンッ!!
いきなり強い。
速い。
さすが魔術学園の生徒だ。
だが。
(……見える)
剣の軌道。
重心。
次の動き。
全部。
俺は一歩下がる。
避ける。
また避ける。
「逃げてばっかじゃねえか!」
相手が苛立つ。
そして大振りの一撃。
その瞬間。
俺は体を滑らせる。
相手の背後へ。
トンッ
木剣を背中に当てた。
静寂。
「……」
黒鉄が、じっとこちらを見ていた。
「勝者、司馬」
ざわめきが広がる。
「Dランクじゃなかったのか?」
「今の動き何だ?」
俺は木剣を返しながら、肩をすくめた。
「運が良かっただけ」
黒鉄はしばらく俺を見ていたが、やがて言った。
「……次」
試験はそのまま続いた。
この時まだ俺は知らなかった。
この学園生活が。
俺の人生を。
世界の運命を。
大きく変えることになるなんて。




