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減速する世界


 

時間が、沈んだ。

 

風の音が遠ざかる。


砂が空中で止まる。


崩れた石がゆっくりと地面へ落ちていく。


世界が重くなる。


これは俺の魔法。


自己の時間の加速。


俺だけが速い。


他のすべてが遅い。


ショゴスの巨大な触手が、空中をゆっくりと伸びていた。


粘液の塊。


その表面に浮かぶ目。



ギョロリ



そのいくつかが――


俺を見た。


(……俺の動きが見えてる?)


一瞬、背筋が冷えた。


だが止まれない。


俺は地面を蹴った。



ドッ!!



加速した脚力で距離を詰める。


ショゴスの触手の下を滑り込む。


黒い肉の匂い。


腐敗のような臭い。


近くで見ると、それは本当に異様だった。


粘液の表面が波打つ。


目が生まれる。


消える。


また生まれる。


そのすべてが。


不規則に動いている。


まるで――


形という概念が存在しない生物。


「……っ!」


俺は木剣を振った。



バシュッ!!



黒い肉塊が裂ける。


だが。



ズルッ



裂けた肉が膨らむ。


分裂する。


増える。


(やっぱりダメか)


斬れば増える。


黒鉄の言葉が頭に浮かぶ。



「全部止める」



あの人は本気でやるつもりだった。



(でも)



それは無理だ。



この量。


この再生。


この増殖。


人間が倒せる相手じゃない。



その時。



ズルン!!



巨大な肉塊が動いた。



本体。



さっきまで遺跡の奥にいた巨大なショゴスが、外へ這い出してきていた。


高さは五メートル以上。


膨張している。


分体を吸収しているのか。


周囲の黒い肉が、本体へと流れ込んでいた。



ズルズルズル……



まるで海の波が集まるように。



(あれが本体……)



玲奈の言葉が頭に浮かぶ。



「分体がいるなら本体がいる」



つまり。



あれを止めればいい。



だが。


問題がある。



近づけない。



本体の周囲には、無数の分体が蠢いている。


壁のように。



ズルン!!



触手が伸びる。


俺は横に跳ぶ。


触手が地面を叩き潰す。



ドォン!!



土が吹き飛ぶ。



普通の時間なら、避けられない速度だ。


だが今は違う。


俺の時間は速い。


世界は遅い。



(まだいける)



ただし。



代償はある。



胸が痛い。



血が熱い。



この魔法は、体に負担が大きい。


長くは使えない。



(短期決戦)



俺は深く息を吸った。



そして。



地面を蹴った。



ドンッ!!



加速。



分体の隙間を走る。


触手を避ける。


肉の壁を越える。



だが。



その時。



本体の目が。



一斉に開いた。




ギョロリ




背筋が凍る。



それは。



俺を見ていた。




Tekeli-li 



次の瞬間。




ショゴスの肉体が――




爆発的に膨張した。



ズルン!!!



巨大な触手が、四方八方に伸びる。



速度が違う。



今までより速い。



(まずい)



俺は身体を捻る。



触手が頬をかすめる。



皮膚が裂ける。



血が飛ぶ。



そして。



ズルン!!



もう一本の触手が、俺の足に絡みついた。



「……っ!」



体が引き寄せられる。



本体へ。



無数の目が。




俺を見ていた。




Tekeli-li




その音は。



俺を嗤っているいるように聞こえた。


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