魔法
ドォォン!!
遺跡が大きく揺れた。
石の破片が入口から転がり落ちてくる。
ガレスが顔を上げた。
「やばいぞ……」
その声には、今までになかった焦りがあった。
俺も遺跡を見つめる。
入口の奥。
暗闇の中から。
ギィィィィン!!
金属の衝突音が響く。
黒鉄の剣だ。
まだ戦っている。
だが。
その音は。
少しずつ――
重くなっていた。
ドォン!!
また衝撃。
遺跡の入口から黒い粘液が飛び散る。
ズルズルズル……
それは地面を這う。
小さな分体。
ガレスが剣を構えた。
「来るぞ!」
玲奈が火炎弾を放つ。
ボォン!!
粘液が燃える。
だが完全には消えない。
ズルズル……
焼けながらも動く。
「気持ち悪っ!」
ガレスが剣で叩き潰す。
だが。
また増える。
フィオナが言った。
「時間がない」
「黒鉄が持たない」
玲奈も頷く。
「本体を見つけないと」
その時だった。
ドォォォン!!!
今までで一番大きな衝撃が遺跡を揺らした。
入口の石壁が崩れる。
そして。
ズルン……
黒い肉塊が。
外へ溢れ出した。
高さ三メートル。
いや。
もっと大きい。
膨張している。
その表面に。
無数の目が開く。
Tekeli-li
玲奈が息を呑んだ。
「外に出てきた……」
つまり。
黒鉄が押し負けている。
俺の背中に、冷たい汗が流れた。
その時。
ズルッ
ショゴスの肉体が動く。
触手のような塊が伸びる。
ガレスへ。
「うおっ!!」
俺は木剣を振った。
バシュッ!!
触手が裂ける。
だが。
ズル……
また増える。
「くそっ!」
その瞬間。
ドン!!
遺跡の入口から。
一人の影が飛び出してきた。
黒鉄だった。
服は破れている。
腕から血が流れている。
だが。
剣はまだ握っていた。
彼は振り返り。
言った。
「逃げろ」
その背後で。
ズルン……
巨大なショゴスが現れる。
さっきより大きい。
Tekeli-li
黒鉄が低く呟いた。
「……増えすぎだ」
フィオナが叫ぶ。
「本体がいる!」
「...どこだ」
「わからない!」
黒鉄は一瞬だけ目を閉じた。
そして。
剣を構える。
「なら」
「そうか...なら」
「全部止める」
ズルン!!
ショゴスが襲いかかる。
その瞬間。
黒鉄が踏み込んだ。
ギィィィィン!!!
衝撃波。
黒い肉塊が吹き飛ぶ。
だが。
ズルズルズルズル……
また増える。
黒鉄の動きが、わずかに遅れた。
疲労。
血。
限界が近い。
その時。
俺は思った。
(このままだと)
全員死ぬ。
胸の奥で。
何かが動いた。
俺は目を閉じる。
ーそして。
「自己時間加速 - 2倍<タイムアクセラレート - ツヴァイ>」
自分の時間を――
加速させた。
世界が。
ゆっくりになる。
風。
砂。
ショゴスの動き。
全部。
遅い。
俺は目を開いた。
「……行く」
誰にも聞こえない声で呟いた。
そして。
ショゴスへ走った。




