解析
遺跡の外へ飛び出した瞬間。
冷たい空気が肺に流れ込んだ。
「はぁ……っ」
俺は膝に手をつく。
心臓が激しく打っている。
後ろでは。
ドォン!!
遺跡の内部から衝撃音が響いていた。
石が砕ける音。
地面が震える。
黒鉄が。
まだ戦っている。
ガレスが振り返った。
「……大丈夫なのかよ」
遺跡の入口は暗い。
だがその奥から。
ギィィィィン!!
剣撃の音が響く。
フィオナが歯を食いしばった。
「大丈夫じゃない」
「だから」
「早く考える」
彼女は地面にしゃがみ込み、ノートを広げた。
玲奈も隣に座る。
「情報整理する」
「うん」
玲奈は深く息を吐いた。
「まず」
「さっきの黒い生物」
「普通の魔物じゃない」
フィオナが頷く。
「そう、あの生物は恐らくだけど...ショゴス。人類史に残る、最悪の魔物よ」
ガレスが頭をかいた。
「ショゴスっていうのはなんなんだ?」
フィオナが答えようとする前に、玲奈が答える。
「ショゴスっていうのは、かつてとある国を滅ぼした、人類史最悪の魔物」
「でも」
「さっき見たショゴス、私の知る限り、この世界の生物じゃない」
「私も玲奈さんと同意見ね」
フィオナも答える
「実物については初めて見たけど、あんな歪なもの、初めて見たわ」
沈黙が落ちた。
風が木々を揺らす。
遺跡の奥から。
Tekeli-li
また声が聞こえた。
ガレスが震えた。
「……あれ絶対ヤバいやつだろ」
フィオナがノートに何かを書き込む。
「特徴」
「整理する」
指を折りながら言う。
「一」
「高い再生能力」
「二」
「斬撃で分裂」
「ここまでは今見て分かった情報」
「そしてかつての災厄から推測出来ることもあるわ」
「それは、ショゴスには恐らく魔法も効かなければ、打撃も通らない」
ガレスが顔をしかめる。
「本当に最悪の特性じゃねぇか...そもそも倒せるのか?それ」
フィオナが言う。
「つまり」
「通常攻撃では無理」
「でも、切ることは出来た。今のところ最悪でしかないけど、恐らく切ることが出来る。そこに突破口はあるはずよ」
ガレスが頭を抱える。
「でもあれだけ黒鉄先生がぶった斬っても増えるだけだったんだぜ?どうすんだよ」
その時、玲奈が言った。
「でも、スライム系統の魔物であるのならば、どこかに核となるものはあるはず、それを壊すことさえできれば...」
「でも、あれだけ黒鉄が攻撃したのに何事もないってなったらもしかすると...」
玲奈の意見に対してフィオナが悲観的なことを話している時。
俺は遺跡を見ていた。
振動。
剣撃。
黒鉄はまだ戦っている。
一人で。
俺の胸の奥がざわついた。
(このままだと……)
時間が経てば。
ショゴスは増える。
つまり。
黒鉄は負ける。
その時。
玲奈が言った。
「待って」
「一つ気になる」
フィオナが顔を上げる。
「何?」
玲奈は遺跡を指差した。
「さっき」
「小さい粘液が」
「大きいのから逃げてた」
「……」
フィオナの目が細くなる。
「確かに」
「見た」
「つまり」
玲奈はゆっくり言う。
「群れじゃない」
「本体がいる」
ガレスが言った。
「本体?」
「うん」
玲奈は頷く。
「さっき黒鉄先生が斬ったの」
「全部」
「分体」
フィオナの目が見開かれた。
「……なるほど」
「それなら説明つく」
「分体が増えてるだけ」
「本体は別」
ガレスが呟く。
「じゃあ」
「本体倒せばいいのか?」
フィオナが答える。
「理論上は」
「そう」
玲奈が言った。
「でも」
「問題がある」
「何?」
玲奈は遺跡を見た。
「本体」
「どこにいるかわからない」
その瞬間。
ドォォン!!
遺跡が大きく揺れた。
地面が震える。
石の壁が崩れる音。
そして。
Tekeli-li
今までで一番大きな声が響いた。
俺は拳を握った。
時間がない。
本当に。




