足止め
黒鉄の剣が、再び、そして先ほどよりも強く振り下ろされた。
ギィィィィン!!
衝撃波が通路を走る。
ショゴスの肉体が大きく裂けた。
だが。
その瞬間。
ズルッ
裂けた肉塊が二つに分かれる。
そして。
それぞれが膨らむ。
「……」
黒鉄の動きが、わずかに止まった。
目の前の黒い塊は――
二体になっていた。
「……は?」
ガレスが呟く。
ズルズルズル……
二つのショゴスが蠢く。
そして。
その表面に、また目が浮かぶ。
Tekeli-li
「……まずい」
フィオナが言った。
黒鉄が低く言う。
「どうやら先ほどフィオナが言ってたことは本当のようだな...」
「斬ると増える」
静かな声だった。
だが。
それが意味するものは、最悪だった。
「……分裂」
玲奈が呟く。
「細胞分裂みたいなもの……?」
「違う」
フィオナが首を振る。
「質量が増えてる」
「……」
つまり。
斬れば斬るほど。
数が増える。
ガレスが顔を引きつらせた。
「それ倒せなくないか?」
答えはなかった。
ズルン!!
二体のショゴスが同時に動く。
触手が伸びる。
黒鉄が剣を振る。
ギィィン!!
触手が吹き飛ぶ。
だが。
また増える。
また伸びる。
ズルズルズル……
黒い肉が通路いっぱいに広がる。
「……」
黒鉄は、静かに剣を構え直した。
そして。
短く言う。
「全員、外に出ろ」
「でも――」
玲奈が言いかける。
「出ろ」
声は低い。
だが絶対だった。
「こいつは」
黒鉄がショゴスを睨む。
「俺が止める」
ガレスが叫ぶ。
「無理だろそれ!」
黒鉄は答えない。
ただ。
一歩前に出た。
ズルン!!
ショゴスが襲いかかる。
その瞬間。
黒鉄の剣が閃いた。
ギィィィィン!!!
衝撃波。
通路の床が砕ける。
三体目のショゴスが吹き飛ぶ。
だが。
ズルズルズル……
また増える。
四体。
五体。
「……」
黒鉄は一瞬だけ、振り返った。
「フィオナ」
フィオナを見る。
「もう一度だけ言う」
「こいつの殺し方」
「考えろ」
「俺は」
剣を握り直す。
「時間を稼ぐ」
「俺が耐えている間になんとかしろ」
「お前が案を思いつくまで、俺は倒れん」
その言葉は。
戦場の男の言葉だった。
ズルン!!!
ショゴスが一斉に襲う。
黒鉄が踏み込む。
ギィィィィン!!
剣が嵐のように振るわれる。
肉が裂ける。
衝撃波が走る。
石壁が砕ける。
だが。
ズルズルズルズル……
黒い肉は増え続ける。
俺は、その光景を見ていた。
圧倒的だった。
黒鉄は強い。
本当に強い。
だが。
この怪物は。
人間が戦う相手じゃない。
その時。
玲奈が俺の腕を掴んだ。
「悠馬」
「外に出よう」
俺は頷いた。
俺たちがなんとか外に出ようとしている間、背後では、触手と剣がぶつかる音が響いていた。
この男、黒鉄 迅は。
一人で。
この厄災を確かに、止めていた。




