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追放された出来損ないアルファですが、魔力相殺の力で孤高の天才魔術師と最強パーティーを組みました〜二人で無双して下剋上します〜  作者: 水凪しおん


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第3話「交わることのない波長」

 冒険者ギルドの重厚な扉を押し開けると、油の焦げた匂いと安いエールの酸い香りが、むっとした熱気と共に押し寄せてきた。


「おい、見ろよ。特級の氷点下野郎が誰か連れてるぞ」

「嘘だろ。あのシリウスがパーティーを組むなんて」


 周囲のひそひそとしたざわめきが、波のように広がっていく。ルークは背中に突き刺さる無数の視線を感じながら、歩調を崩さずに真っすぐ前だけを見て歩いた。


 隣を歩くシリウスは、周囲の喧騒など全く気にしていないようだった。彼の身を包む黒いローブからは、常に微弱な魔力の波がこぼれ落ちている。それは触れれば火傷しそうなほど熱を帯びていて、彼がどれだけ自分の力を持て余しているかをルークの肌に直接伝えてきた。


『この圧倒的な魔力。制御しきれずに垂れ流しているわけじゃない。ただ、彼という器に対して中身が多すぎるんだ』


 ルークは息を小さく吐き出しながら、シリウスの横顔を盗み見た。


 彫刻のように冷たい美しさを持つ横顔は、不機嫌そうに眉間にしわを寄せている。彼が歩くたびに、周囲の空気がビリビリと震えるのがわかった。本来、アルファ同士というのは本能的に反発し合うものだ。相手の縄張りを侵せば、血が騒ぎ、相手を組み伏せたくなる衝動に駆られる。


 しかし、ルークの体にはその衝動が湧き上がってこない。彼自身がアルファとしては致命的なほど魔力も筋力も薄弱だからだ。だからこそ、シリウスの暴力的なまでの魔力のそばにいても、息が詰まるような圧迫感に潰されることなく歩くことができた。


「受付に行く。ついてこい」


 シリウスの低い声が鼓膜を揺らす。ルークは無言で頷くと、彼の後ろについてカウンターへと向かった。


 受付の女性は、ルークの姿を認めるなり目を丸くした。朝に登録を済ませたばかりの貧弱な新人が、ギルド最強と恐れられる孤高の魔術師を連れて戻ってきたのだ。無理もない反応だった。


「あの、シリウス様。こちらのルークさんと……その、一時的な同行ということでよろしいのでしょうか」


 受付の女性が戸惑いがちに尋ねる。


「いや、正式なパーティー登録だ。今後は俺の受ける依頼にこいつも同行する」


 シリウスの断言に、ギルドの中が水を打ったような静寂に包まれた。ルーク自身も驚いて隣の青年を見上げる。森で手を組む約束はしたが、まさか正式にパーティーの誓約書まで書くとは思っていなかったからだ。


「……いいのか。俺は剣の腕もからっきしだ。足手まといになるかもしれないぞ」


 ルークが小声で伝えると、シリウスは冷ややかな青い瞳でこちらを見下ろした。


「俺が欲しいのはお前の剣じゃない。お前のその特異な防御力だ。俺の魔法の余波を完全に相殺できるのなら、それで十分お釣りがくる」


 その言葉には、自分が認めた価値だけを信じるという強烈な自負が滲んでいる。


 ルークは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。家ではずっと出来損ないと蔑まれ、無いものとして扱われてきた。だが、目の前の青年は、ルークが持つただ一つの技術を明確に必要としている。


『この人の隣なら、俺は息ができるかもしれない』


 ルークは羽ペンを受け取り、迷うことなく誓約書の端にサインを書き込んだ。インクが紙に染み込んでいくのを見届けながら、自分の人生がようやく動き出したような不思議な高揚感を覚えていた。


***


 手続きを終えた二人は、すぐにギルドの裏手にある街道へと足を踏み出した。

 今回の依頼は、隣町へ続く交易路に出没する群れ成す魔物、岩狼の討伐だった。太陽は西に傾きかけ、長く伸びた二人の影が赤茶けた土の上を滑っていく。


 道中、二人の間に会話はほとんどなかった。


 しかし、それは気まずい沈黙ではない。乾いた風が木々の葉を揺らす音や、遠くで鳴く鳥の声が、二人の間を心地よくすり抜けていく。ルークは周囲の気配を探りながら、常にシリウスの魔力の波長を肌で感じ取っていた。


 シリウスから放たれる魔力は、鋭く研ぎ澄まされた刃のようだ。少しでも近づきすぎれば切り裂かれそうな緊張感がある。だが、ルークが自身の微弱な魔力で薄い膜を張ると、その鋭い刃先はするりと滑り落ち、彼を傷つけることはない。


 交わることのない二つの波長。強大すぎる力と、それを打ち消すだけの空虚な器。


「……ルーク」


 唐突に、前を歩いていたシリウスが立ち止まった。


「何か来る」


 シリウスの言葉と同時だった。風の向きが変わり、獣特有の生臭い匂いが鼻を突く。茂みの奥から、低いうなり声がいくつも重なって響いてきた。


 ルークはゆっくりと長剣の柄に手をかける。手の中にじわりと汗がにじむのを感じながら、彼は目の前に迫る戦いの気配に全神経を集中させた。

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