エピローグ「名もなき二人の軌跡」
春の陽光が、森の木漏れ日となって地面に柔らかいまだら模様を描いていた。
冬の厳しい寒さは完全に影を潜め、風には若葉の青臭い匂いと、微かな土の甘い香りが混ざっている。
ルークとシリウスは、王都から遠く離れた南の街道を並んで歩いていた。
今回の依頼は、隣国との国境付近に住み着いた古代竜の調査だ。これまでこなしてきたどの依頼よりも危険で、困難な道のりが予想される。
だが、二人の足取りに重さはなかった。
「……本当に行くのか? 古代竜なんて、伝承の中だけの存在だと思っていたが」
ルークが少し呆れたように言うと、シリウスは前を見据えたまま鼻で笑った。
「伝承だろうが何だろうが、俺の魔法とお前の防御があれば問題ない。それに、このまま王都にいても退屈なだけだ」
シリウスの横顔には、新たな未知への好奇心と、揺るぎない自信が満ち溢れていた。
彼の身を包む魔力の波長は、かつてのように荒々しく威圧的なものではない。深く静かに澄み渡り、隣を歩くルークの微弱な魔力と見事に調和している。
アルファ同士でありながら、彼らは完全に互いを補完し合う一つの存在となっていた。
「まあ、あんたがそう言うなら、どこまででも付き合うよ」
ルークは短く笑い、長剣の柄に軽く手を添えた。
剣の腕は相変わらず大したことはない。だが、魔力を読み取り、相殺する技術に関しては、今や大陸でも右に出る者はいないだろうという自負がある。
誰の付属物でもない、自分だけの確かな力。
「言っておくが、途中で泣き言を言っても置いていくぞ」
「そんなこと言って、いざとなったら一番に庇ってくれるのはあんただろ?」
ルークが軽口を叩くと、シリウスは少しだけ気まずそうに目を逸らし、舌打ちをした。
その不器用な反応がたまらなく愛おしくて、ルークは声を上げて笑った。シリウスもつられて、口元に微かな笑みを浮かべる。
木々の隙間から差し込む光が、二人の進む道を黄金色に照らし出していた。
出来損ないと呼ばれた剣士と、強大すぎて孤立していた魔術師。
決して交わるはずのなかった二つの波長は、今、完全に一つに溶け合い、誰も見たことのない新しい軌跡を描き出そうとしている。
名門という呪縛も、アルファという性別の運命も、今の彼らには何の意味も持たない。
ただ、この世界でたった一人、互いの魂を預け合えるパートナーが隣にいる。
その事実だけを胸に刻み、二人は果てしない冒険の先へと、迷いなく歩みを進めていった。




