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朗読や台本・セリフ集   作者: 濃厚圧縮珈琲


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12/12

くず

ナレ

 むかーしむかし。あるところに、小さな村がありました。

 正直者の庄屋さんの下で、村人たちは貧しいながらも、不自由なく暮らしておりました。


 その村に、一人の若者が住んでおりました。

 

 この若者、名を久助と言って、この村では知らぬものは居らぬ、悪名高き若者でした。


 たいそうな怠け者で、大嘘つき。

 働くことが大嫌いで、朝から晩までぶらぶらしては、人を騙して小銭を巻き上げたり、人の畑から作物をくすねたり。


 誰かが困っていても知らんぷり。

 自分さえよければ、それでよい。

 そんな男でございました。


村人一

「やい! 久助! またお前か! うちの大根を盗んだのは!」


久助

「人聞きの悪いこと言うなよ。道(・)を歩いていたら落ちてたもんで、もったいねぇから拾ってやっただけさ」


村人一

「道だぁ? どの道にそんな踝(くるぶし)まで沈む土があるんじゃい!」


久助

「カカ! そこら中に大根が生えてる不思議な道さ。鶏を追いかけていたら迷い込んじまったんだぁ」


村人一

「ええい! この……くずめ!」


ナレ

 村の者たちは、ほとほと困り果てておりました。


 叱っても駄目。

 諭しても駄目。

 何か仕事を与えても、三日と続きません。


村人二

「まったく……少しは庄屋どんのせがれを見習ったらどうだ」


村人一

「ああ。あの子は若いのによく働くし、嘘ひとつつかん」


村人二

「久助に彼の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいもんだ」


村人一

「まったくだぁ」


久助

「へっ! ばっちぃなぁ。爪の垢なんぞ飲んだら、腹ぁ壊しちまうよ! おいらぁごめんだね!」


村人二

「お前という奴は……!」


ナレ

 そんな具合ですから、いつしか村の者は皆、この若者をこう呼ぶようになりました。


「くず」と。


 ところがある冬の日のこと。

 いつものように働きもせず、寒い寒いと手をこすり合わせながら、村の中をぶらぶらと歩いていた久助が、とある家の前を通りかかった時でした。


村人一

「おお、寒い時にすまんのぅ。ちょうどいいところに来た。手伝ってくれんか」


村人二

「なんじゃ? 例のアレかい?」


村人一

「ああ。いよいよ、くずをやろうと思ってな」


久助

「……む?」


村人二

「ほう。くずを」


村人一

「ああ。もう良い時期だと思うんじゃあ」


久助

「むむ……?」


ナレ

 久助は自分の事が言われているのかと、足を止めて聞き耳を立てました。


村人一

「やるなら早い方がいい。村の衆にも話を通さにゃならんな」


村人二

「ああ。きっとみんな賛同してくれるに違いねぇ」


村人一

「おぉん。厄介なくずも片付くというもんよ」



久助

「な……ななな……!?」


ナレ

 久助の顔から、さあっと血の気が引きました。

 思い当たる節なら、山ほどありました。


村人二

「しかし、ずいぶん大掛かりになりそうじゃのう」


村人一

「ああ。だがそうするだけの価値はあるものじゃよ」


村人二

「んん。で、わしの役目は?」


村人一

「斧でよぉく叩くのを頼みたい」


村人二

「あいわかった」


久助

「お、斧で叩く……だと!?」


村人一

「その後は何度も水にさらして、アクを抜けばよい」


久助

「……悪を、抜く?」


ナレ

 久助の耳には、それがどうにも別の意味に聞こえました。


久助

「晒して悪が抜けるまでって……水責めか!? とんでもねぇ……! やっぱり、おいらのことじゃねえか……!」


村人二

「それで最後は?」


村人一

「粉にして、湯で溶いて飲むんじゃ。練って食ってもいいなぁ」


久助

「こ、粉にして飲むぅ!?」


村人二

「せっかくだ。村のみんなにも振る舞おうじゃねぇか」


村人一

「そうじゃな。くずも片付いて、皆も喜ぶじゃろう」


久助

「ひ、ひぃ……!」


ナレ

 久助は聞けば聞くほどおっかなくなってしまって、もういけません。

 もしや、この村の者たちは、これまで久助の悪事を黙って耐えていたのではなく、食う日を待っていただけなのではないか。


 そう思うと腰が抜けてしまって、聞き耳を立てていた入口の扉へもたれ掛かり、その扉ごと村人の家の中へと倒れ込んでしまいました。


久助

「い、嫌じゃ嫌じゃ! おいらは食われとぅない!!」


村人一

「うおっ!?」


久助

「おいらが悪かった! ちょろまかした銭も返す! 庄屋どんのところの鶏も返す!!」


村人二

「な、なんの話じゃ!?」


久助

「もう嘘もつかねぇ! 働く! 真面目に働くから! だから……おいらを粉にして飲むのだけは勘弁してくれぇ!!」


ナレ

 村人たちは目をぱちくりとさせて、互いの顔と土下座する久助の頭へ視線を行き来させました。


村人一

「……久助よ」


久助

「な、なんじゃい……」


村人一

「誰がお前を食うと言った」


久助

「……へ?」


村人二

「わしらが言っとるのは、山に生えとる葛じゃ」


久助

「…………くず?」


村人一

「そうじゃ。葛の根を砕いて粉にして、湯に溶いて飲むんじゃよ」


久助

「……ほぉお」


村人二

「お前なんぞ煎じて飲んだら、それこそ腹ぁ壊すわい」


久助

「……そ、そりゃそうじゃあ」


村人一

「それより久助」


久助

「……へい」


村人一

「今、ちょろまかした銭とか、庄屋どんの鶏とか言うておったな?」


村人二

「聞いとらんぞ、そんな話」


久助

「……堪忍してくれぃ」


ナレ

 こうして久助は、それまでの悪事をすっかり白状し、盗んだ物や騙し取った銭を、働いて少しずつ返していきました。


 そして、それからというもの。

 久助はまるで人が変わったように、朝から晩までよく働きました。


 元より久助は、口八丁手八丁。

 人を騙して銭を稼ぐほど、頭の回る若者でございました。


 その才を真っ当な商いに使うようになると、これが驚くほどうまくいきました。


 どこで何を仕入れれば安いか。

 どこへ持っていけば高く売れるか。

 誰が何を欲しがっているのか。


 久助は人一倍よく見て、よく聞き、よく働きました。


 やがてその働きぶりは庄屋さんの耳にも届き、庄屋さんもすっかり久助を見直して、とうとう村の商いを任せるほどになりました。

 

 かつては村一番の「くず」と呼ばれた若者が、今では村一番の働き者。

 もう久助を「くず」と呼ぶ者は、誰一人いなくなりましたとさ。


 めでたし、めでたし。


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