第8話 モフたんの正体を聞かれました
翌朝になると、リリは回復した。
それを見て、彼もほっとしたようだ。
リリが倒れている間、ずっとそばを離れなかったモフたんも、すっかりいつも通り、その辺をコロコロと動いている。
それをじっと見ていたエルが私に質問してきた。
「モフたんは……精霊か何かですか?」
「精霊?モフたんが?違う違う。この子が、絵本とかに出てくるあの神秘的な存在?そんな大層なものじゃ……」
私は笑って否定したが、エルは真剣だった。
え、本当の話をしてるの?
「いえ……。微かに神聖力も感じます。それに、秘匿されていますが、精霊も神獣も存在しているのですよ」
「へぇ。でも、たまたま玄関で精霊を拾ったりするかしら」
モフたんとの出会いも玄関だった。
別に森の中の一軒家じゃないのに、なぜみんな私の家の前で行き倒れるのか……。
「玄関で拾ったんですか?どこかの森や川ではなく?」
その答えが意外だったのか、エルが少し驚いている。
「ええ。森から出てきたなら、もっと近くに何件も家があるし……。それに精霊ならすぐにいなくなっちゃうんじゃないの?」
「それは確かに……」
エルが納得して、モフたんを触ろうとするが、するりと逃げてしまう。
小動物に嫌われるタイプだろうか。
「モフたんはね……必要なの」
今まで黙っていたリリが、はっきりと言った。
うん、声に力も戻ってる。
もう大丈夫そうだ。
「そうなんだ?じゃあじゃあ私は?」
「おねえちゃんも必要」
私の目を見て、にこりと笑った。
「そっか!ありがとう〜!じゃあ、お兄さんは?」
お、いい流れじゃん。これならと思い、エルについても聞いてみた。
「……!」
彼の肩がびくっと跳ねる。
「ちがうおにいさんなら必要」
リリは真面目に、一刀両断してしまった。
うわ……。これは私の判断ミスだ。
「……そ、そうですか……」
「……ごめんよ」
私は哀愁漂う彼の肩をポンポンと叩いた。
◇◇◇
――ある日。
薪割りに隣の家の畑の手伝いやら、色々と終わらせて帰ってきたエルにタオルと水を差し出しながら私は提案した。
「今ね、隣街で春の花祭やってるの!リリも連れてみんなで行かない?ほら、この前買った服もまだ着てないし!お洒落して出掛けようよ!」
「花祭り?」
「おまつり?」
絵本からぱっと顔をあげるリリ。
毎年、エラとトーマに誘われて行くんだけれど、途中から虚しくなるイベントだ。
あいつらは、私をダシに使いすぎている。
私の心はすでに出涸らしだ。
お祭りといっても、珍しい出店が並んだり、大道芸が見られたり、占ってもらったり、その程度だけれど。
それでも十分楽しめる。
エルがついてきてくれたら危険はないだろうし……。
「いきたい」
「よし、行こう!……エルは?」
「もちろん、ついていきます」
じゃあ、馬車を出してもらわなきゃ!
エラたちはどうするのかな?
まぁいい。今年は誘われていない。
向こうも何かしら進展があったのかもしれない。
誕生日プレゼントも無事に渡せたみたいだし。
トーマが、エラから貰った作業用エプロンの強化依頼に来てたもんな。
手早くリリを着飾り、私もクローゼットの奥にある一張羅を着る。薄いピンク色のワンピースだ。
いつもはポニーテールにしている髪を、ハーフアップで纏めて、前にエルから貰ったリボンで結ぶ。
リリと二人で鏡の前に並んでみる。
「おぉ~!!かわいい!ね?ね?」
「うん、かわいいね」
私たちは二人で顔を見合わせて笑った。
そのまま、階下で待っているエルの所へ向かう。
「じゃーん!どう?かわいいでしょ?」
リリを押し出し、ちょっと恥ずかしくなった私はその影に隠れる。
いや、物理的には隠れられないけれど。
「はい、かわいいです。……ミーナ嬢もかわいらしい、ですよ……」
うぅぅ……照れるな私!
いつもの軽口を今すぐに……!
「そのリボン、付けてくれたんですね。似合っています」
「ぐっ……!」
エルはスッと立ち上がって後ろに回った。
そして、そっと私の髪に触れた。
いやいやいや、こちらはパニックだ。
「ちょっと失礼します。曲がってるのを直しますね」
「……う、あ、ありがとう……」
「……いえ……」
完敗だった。都会の男はこうもスムーズなのか……。
田舎娘がすぐに騙されてしまうわけだ。
顔が熱を帯びるのがわかるけれど、誤魔化しようがなくて、俯くしかない。
彼の優しい手つきが余計に気恥ずかしい。
リリはモフたんを抱いて、突いたり撫で回している。
そう、今の私は二人の保護者。
浮ついてはいけない。
そう思いなおし、余裕ぶったふりをして振り返えると、エルと目があった。
その顔は想定以上に近くて……。
エルが一瞬で、後ろに飛び退いた。
その動きの速さに、目を丸くしてしまう。
彼は、顔を背けて咳払いをしていたが、わざとらしくて笑ってしまった。
つられて、リリも笑顔になっていた。
笑われたせいか、どうなのか。
彼は目元を真っ赤にして何度か咳払いをしていた。
――とりあえず、都会の男全員がスムーズなわけではないらしい。
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